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真夜中に目が覚める。いつの間にか荒くなっていた呼吸に息苦しさを感じた。身体を起こして汗で張り付いた髪を掻き揚げる。深く息を吐きながら目をつぶれば、またあの夢に引き戻されそうで慌てて目を開いた。
冷たい汗が背中を伝う。結局そのまま、まんじりともせず夜が明けたのだった。



「…ディアボロ、顔色悪いよ?」


いつの間にかマリカに顔をのぞきこまれていて大きくのけ反る。その反応に驚いたよのかマリカは目を瞬かせた。


「どうしたの?本気で具合悪い?」

「…いや、なんでもない」

「なんでもないって顔じゃないでしょ…」


チョコ先生呼ぼうか?なんて心配そうに聞いてくるマリカに手を振る。あいつが来たらもっと悪化しそうなものだ。


「…最近仕事多いし、寝不足とか?」

「そう、かもしれないな」


核心を言い当てられてドキリとする。マリカにあの夢の事を告げたら、きっと心配するだろう。仕事を与えている側の言う事ではないが、マリカはオレ以上に多忙だ。これ以上心労は増やしたくない。そう思う反面、全て吐露したいとも思っていた。


「やっぱりチョコ先生に来てもらう?睡眠薬とか貰えるかもよ」

「…いや、いい」


あの夢を見るようになってから睡眠薬を飲む事も考えた。しかし、夢も見ない程深く眠れるならいいが、そうでなかったとしたら?あの夢を見ても、起きられないとしたら。そう考えるとそんな選択肢は直ぐに消え去ったのだった。


「でも本当ヤバいって。よく見たらちょっとやつれてるし」

「よく見なければ分からない程度なら問題ないだろう」

「いやいや、問題でしょ」

「…」


お互い無言で見つめ合う事数秒。マリカが頑固者め、とため息をついた。…その言葉だけはこいつには言われたくないが。


「帰るよ」

「は?」

「今日は泊り行くから」

「…どういう流れだそれは」

「どうせ君の事だから、食事もせずに寝てるんでしょ?沢山食べて、お風呂入って、寝る!そうしたら少しは疲れも取れるから」

「仕事が終わらないだろう」

「…明日までに必要な書類は持っていって終わらせるよ」


目を逸らしながらマリカはそう言う。が、マリカの仕事は膨大な量だ。なんせ自分で処理する書類と、オレの所まで来る書類を分けて、そのどちらにも目を通し、時には訂正する。間違いなく自分の倍以上の仕事をこなしているだろう。一体どう処理しているかすら分からない。


「…無茶をするな」

「それはこっちのセリフだよ」

「大体お前の方が仕事は多い」

「代わりにスタンドが有能な子なんで」


その言葉でマリカがどうやって書類を終わらせていたのか気付く。マリカのスタンドは作った世界の時間軸を変えられる。つまり、外よりも中の時間を早くした、ということだろう。しかし、それは処理できる時間を増やすだけで、彼女の体力は見た目以上に擦り減っているという事だ。


「…お前の方こそ休め」

「君が休んでくれなきゃ安心して休めないね」


見つめ合う、というよりも睨みあう、といった数秒間。結局ため息をついて目を逸らすのはオレの方だ。こうなったマリカは梃子でも自分の意思を曲げないのだから。