旅館に到着すると、女将と仲居がお出迎え。
受付はフロントではなく、通された半個室のような座敷で、
御茶菓子を食べながらという、特別感のあるものだった。

認めたくねェけど、流石 東堂の見立てだ。


「荒北様、いらっしゃいませ お待ちしておりました。」
「奥様も、よろしければお手荷物をお預かりいたします。」
「あ、ありがとうございます!」


高校生2人で泊まりなんて言えないから、年齢は誤魔化しておいた。

"奥様" だって、とニヤけながら耳打ちしてくる。
「バァカ」と頭を小突くと、それでも嬉しそうに笑ってやがる。


旅館の娘だけあって、こういうもてなしには慣れているんだろう。
紬は自然な様子でサインペンを受け取り、サラサラと必要事項に記入していく。
一方の俺は、こんな格式高い旅館に泊まるのは初めてで、正直戸惑っていた。


部屋に案内され、仲居が一通り説明を終えて退室すると、
俺は身体を畳に投げうった。
全身を伸ばすと、気持ちいい。

「あァ〜つかれたー」
「練習の上、1日いっぱい歩いたもんね!」

私も!と言って、紬も隣にゴロンと寝ころんだ。

「いい旅館だね」
「だな。東堂もたまにはやるじゃねーの」

実際、この旅行のきっかけもくれたのもアイツだった。
『もうすぐ紬と付き合って1年なのだから、何か考えているのだろう?
まさか、何もしないというのか!?仕方ない。俺が代わりに…』
なーんてバカなことぬかすから、「だァもうどうしろっていうの?」って聞いちまった。

そしたら箱根からのアクセスを考慮した上で
温泉地とオススメの旅館をポイントを添えて教えてくれるっつー
ご丁寧な御膳立てをしてくれたワケ。


起き上がった紬は、仲居が入れていったお茶を茶碗に注いだ。

「御茶菓子食べる?」
「何あんの?」
「温泉饅頭」
「さっき食っただろォ!」
「お茶菓子って意味があるんだよ!"お着きのお菓子"って言って、
 温泉に入った時 低血糖状態にならないように、入浴前に食べるの。」
「フゥン」

寝っ転がったままテーブルの向こうから手を伸ばすと、
ポス、っと温泉饅頭が置かれたので、ビニルを開けて口にする。

「食ったらよ、温泉でも行くか」

「いいね!混浴の方にする?」

「バッ、お前知ってたのかよ」

「うん、有名だよ〜ここのお宿!」


一緒に入れるの嬉しいもんね〜、と立ち上がって支度を始める。

俺ァそのつもりだったけど、コイツは恥ずかしくねぇのかヨ、と意外な反応に驚いてしまった。


温泉旅行っつっても、温泉自体は別々になってしまう。
だからと言って、流石に露天風呂付客室は高校生には手が出ねぇ。
ということで、東堂も一押しの混浴がある温泉旅館を選んだ。


別にやましい意味でじゃなく、折角2人で記念日の旅行をするんだから、
一緒が良いだろォ、なぁんて、紬には言えねーケド。



「じゃあ、中でね!」
「おー」


それぞれ更衣室に入り、身支度を整える。

タオルをきつめに巻いて浴室に入ると、内風呂は男子女子としっかり分かれていた。
軽く体を洗い、露天の方に行くと、不審者対策か管理人らしき男が番台のようなところで、
部屋番号を聞いてきたので、答えて混浴露天に出る。

混浴露天には意外と先客、特に男が多く、
風呂の中に低い柵があって、湯の中だけが繋がっているみたいだ。

夫婦らしき人や、若いカップル、幅広い年代が楽し気に会話をしながら露天を楽しんでいた。

浸かって待っていると、靖友〜と声が聞こえて、
振り向くと紬が近くに来ていた。


先ほどまでおろしていた髪を束ねていた。

気持ちよさそうに目を細めている。


「熱すぎなくて、気持ちいいね〜」

「…いい湯だなァ」

「え?」

「なんでもねぇよ」

「えー ねぇ、もっと近く来てよ、あんまり聞こえない」

近くに滝のように流れる湯壺があるため、
少し距離をとると互いの声が消されてしまう。


「ね、一緒にお風呂入るの、初めてだよね」

なんか、緊張するな〜、って照れてる紬だが、
俺は照れ隠しにもっと恥ずかしくなるような事言っちまった。


「あァ?お互い裸なんて何回も見てんだろ」
「も、もう!他に人いるのに何言ってんの!」

なんて言いながら、もっと赤くなって こっちにお湯を掛けてくる。

「オマエこそ、他の客にお湯掛かンだろォ!」

手を掴んで押さえると、大人しくなる。
二人の間に流れるつかの間の沈黙。

「な、んか、変な感じだね。」

ヤバい。温泉の質感も相俟って、すべすべとした紬の素肌と、
湯着を着ているとはいえ、こんなに露出の多いコイツと一緒にいるっつーことを
一気に意識させられて、これ以上入ってらんねぇわ。


「…も、上がるかァ。逆上せちまう」

「そだね。牛乳飲もう!」

「俺はコーヒー牛乳ね」

「はいはい」

それぞれ、女風呂・男風呂に戻り身体や髪を洗う。

その間、悶々と妄想してしまうのを必死で掻き消そうと、水風呂に飛び込んだ。

「ツメテ」

エロいことばっか考えてたら、食欲なくなっちゃうじゃない?






|

Dream TOP
 
 
 
 
 
 

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -