「オイ、紬 行くぞォ」

「はーい!ちょっと待って、もう着替え終わるから!」



今日は、部活が午前中で終わり。明日は一日休み。
んでもって、付き合って1年記念日っつーやつ。
ってことで、俺たちは一泊二日で出かけることになった。

実は、泊まりのデートなんて初めてで、
あいつァうるせぇくらいはしゃぐんだろうな、なんて考えちまって。

昨日あんま眠れなかった、、なんてかっこ悪くて言えねェ。


電車ん中じゃ俺はちょっと寝ちまったけど、
アイツは眠る前も起きた後も、嬉しそうに外を眺めたり、
お菓子をつまんだりしながら過ごしてた。





「わーっ見て、靖友!足湯だよ足湯!」

靴と靴下を脱いで振り返る彼女。


「ちょ、お前走んな!縁んとこ すべ「ひゃぁ!!」」

パシャーン




って言った側から…

足湯に尻から落ちやがった。

運よく、誰も入っていなかったから良いものの、
ずぶ濡れんなったアイツ。



「ったく!だから言ったろォ」

大丈夫かよ?と手を伸ばすと、
ゴメン、と苦笑いしながら、俺の手を握り
おずおずと足湯から出た。

プリーツスカートが濡れて肌に張り付き、
下着のラインがうっすらと透けて見えた。


「とりあえず これでも、羽織っとけ。」

駅前の足湯は人通りが少なくない。
その辺のオッサンに見られちゃたまんねェ。


「けど、寒くないの?」
「バカ。お前とは鍛え方がちげェんだヨ」


着ていた上着を彼女に渡すと、
足湯の自販機でタオルを買って、頭に掛けてやる。


「着替え終わったら返しなさいよ」





俺は足湯に浸かって、脱衣所で着替えるアイツを待った。

ちょっとばかりうとうとしていたら、頭にタオルが置かれた。


バツが悪そうに、

「さっきはごめんね、お待たせ」

と戻ってきた。

濡れたまんまでいられちゃ、俺が目のやり場に困んだよ。

「気にすんな。」

俺の一言で、もう塩らしさは吹き飛んでいた。






その後、定番の温泉饅頭を買って、海に向かって歩いていく。

「あ、貫一お宮の像。切ないね〜」

「あァ?蹴られてんじゃねぇの、女」

「知らないの?”金色夜叉”。」

なんて話をしながら、海沿いを歩く。


貫一という許婚がいるのに、お金持ちに見染められたお宮と、
お宮を信じて、それでも俺を選んでくれるだろうと問い詰めた貫一。
しかし、既に結婚を受けることでお宮の気持ちが固まっていた事を知り、恨み事をぶつける。
許しを請うて追いすがるお宮を、下駄で蹴りつけ引きはがす貫一の姿だ。



「ふぅん。なんで、態々許しを請うかねェ、女。」

俺なら、心に決めたことは揺るがねェな。

「仕方なかったんじゃないかな…
 当時の結婚は親が決めてしまうから。
 貫一の事、心から愛してたけど、良い縁談を破断にしたら、
 お宮だけでなく選ばれた貫一も苦労したかもしれないしね」


「他にやりようあんだろ、駆け落ちするとかよォ」

言った後に、ちょっと照れ臭くなる。


「もし、私にお見合いの話でも来たら、駆け落ちしてくれる?」

なんて言うから、「バカヤロォ」と頭を小突いた。



見合いか〜

今どき珍しい話だけど、コイツには無関係じゃねェんだろうな。

コイツん家は箱根の老舗旅館、一人娘だ。

東堂ん家もそうだけど、何れ結婚する相手は、
旅館の後継ぎとして経営をしていくことになるんだろう。


コイツと付き合っていくっつーことは、そういうことだよなァ。


なんて、ちょっと物思いしてしまう。






その後、バスに乗って熱海城に上ったり、
トリックアート迷宮館を見たり、周れるところを見て回った。


トリックアートは意外とデカくて、
楽しそうにポーズをとって周るアイツの写真ばっか撮ってると
「靖友も一緒に撮ろう!」なんて腕を引っ張られて

「あァ?ちょ、恥じィだろ」って抵抗したが、
スタッフのオネーサンが「お撮りしますよ〜」なんて、
紬からスマホを受け取ってカメラを構えたもんだから、

大人しく、サメに食われてやった。


「ふふ、待ち受けにしよっと♪」


嬉しそーに笑ってっから、まァいいか。



少し早いけど、予約していた旅館に向かう。




≪ |

Dream TOP
 
 
 
 
 
 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -