翌日、いつもより少し早めに登校して、クラスメイトへの挨拶もそこそこに、
私は2つ隣のクラスに足を運んだ。

彼らは、朝に自主練していることが多く、登校も早い。


「あっ「おっと」」

扉のところで、男子生徒とぶつかりそうになる。


「高橋。」


「いっ、今泉くん!」
「よう。」

私がなるべくいつも通りの振る舞いをと

「お、はよう」と自然を装って笑顔を作り挨拶すると、

今泉くんは、ふっ、と笑いながら
私の頭に手をポンポンと置いて、

「ぎこちねぇな。

お前ら二人とも」

と言って、教室を出て行った。



私は昨日 抱きしめられたことを思い出して、
つい顔が赤くなってしまう。


けど、「二人」って?

彼は何を思って言っているのか。

それも気がかりだった。





目当ての彼の姿は、直ぐに見つけられた。

赤い髪に、ちょっと雑な座り姿に、胸が高鳴るのを感じながら、声を掛ける。

「…鳴子くん、おはよう」

「おー、おはよーさん。どないしたん?」


机に突っ伏したまま、顔だけをこちらに向けて答える鳴子くん。

なんだか、ちょっと不機嫌な感じ?

寝覚めでも悪かったのかな?

それとも私の考えすぎ?

とぐるぐる考えるのを押さえつけて、冷静に、話す。

「昨日、電話くれてたみたいだから、どうしたのかな?って」

そう。昨日幹ちゃんの家にいる頃に掛かってきていた鳴子くんからの電話。
その後送ったLINEにも返事が無かったので、気がかりだった。



「あぁ、それな。
 週末の遠征、何時集合やったかな〜て。

 でも大丈夫や、小野田くんに聞いたで。」

とサラっと返された。
それと間髪入れずに、

「ごめんな、ワイ、未だ一限の課題終わってへんねん」

急いでやらな、と突き放されたようで、これ以上話すのは難しそうだった。
これまで、彼から感じたことのない、ひんやりと冷たい空気感。
私、何かしちゃったのかな?と今度こそ不安な気持ちが押し寄せてくる。

「そっか。出られなくてごめんね。じゃあ、また部活でね!」

と笑顔を作って、彼の返答を待たずに足早に教室を後にした。






「あかんなー もー…!

うまく、笑われへん…。」

机に突っ伏した彼が、ため息混じりに呟いていた。







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複雑な思いを抱えたまま、部活の時間になってしまった。



いつもは、精一杯集中しながらも、かっこよく走る好きな人を見つめる至福の時間。


時々、目が合いそうになって逸らしたり、
逸らすのに間に合わずに目が合ったときは、
手を挙げて、八重歯をのぞかせながら こちらに笑いかけてくれる。



皆に、分け隔てなく明るく接してくれる鳴子くん。

そんな人だからこそ、私にも優しくしてくれるのだと思ってた。

それでも良い、って、幸せだ、って思ってた。



けど、そんな「普通」を通り越して「特別」に思ってくれていたんだ。


それなのに、何があったというんだろう。

赤を探して目で追う私に、今日の彼は応えない。



告白してくれて、夢見心地で浮かれていた私。

そんな最高潮の幸せから2日しか経っていないというのに、
胸がざわざわして、苦しくなる。


選手の皆がロード練に出てしまうと、私たちマネージャーちょっと寂しい。

いつもなら。


今日は正直ほっとした自分がいた。






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鳴子と俺は、例の如く並んで走っていた。

坂道を、ぐんぐんと登っていく。

オールラウンダーに転向した鳴子は、
本人は当たり前の顔だが、以前とは比較にならないほど登りも下りも上手くなった。

いつもはガーガー「勝負や!」とか言いながら食らいついてくる鳴子だが、
平坦も大人しく、ただ隣を走っていた。

いつもと様子が違うことくらい、気付いている。


そんな中、徐に口を開いた。




「なぁ、スカシ」

「なんだよ」

「…紬ちゃんと、なんかあったん?」

「…お前に言う筋合いはない」

「なッ教えてくれたって ええやろ!ケチスカシ!」




同じペースで走りながら食い下がってくる鳴子。

落ち着いた表情を作っているが、内側の必死さが隠せていない。



少しの躊躇いをかみ殺して、

「俺は好きだよ。アイツが。」

それだけだ、と言って、

ケイデンスを上げてアイツを引き離した。



そう、俺はアイツが好きだ。


アイツが誰を思っているかなんて知っている。

1年の頃から、見てきたんだからな。


それでも、俺の気持ちは変わらないし、

絶対に振り向かせて見せる。






鳴子からは返答がなく、追ってもこなかった。



  



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