五条?

※五条がいろいろ酷い。


鏡の前で何度も自分の姿を見直します。スカートにほつれがないか。上着のボタンが外れていないか。髪型も可笑しくないか。新しい服を、それが制服であれば気になってしまうでしょう。

「ごめんさない。待った?」
「いや全然」

何度も見直しした結果大丈夫な筈と自分に言い聞かせ部屋を出て広間へ向かうと既に傑が待っていました。当たり前ですが彼も制服を着用しています。このように制服姿の彼を見るのは今日が初めてだったので何だか不思議です。私が傑をマジマジと見ていると彼も私を見つめます。問題ないと思ったのは私だけで何処か可笑しい所があるのでしょうか。

「な、なあに?」
「ごめん、ごめん。制服似合ってると思って」
「…あ、ありがとう。傑も似合っている」

自然と褒める傑にここまでいくと尊敬の念を抱いてしまいます。そのような事を思いながら私達は校内へ向かいます。

「どんな人達がいるのかしら」
「気になる?」
「これからずっと、学校でも寮でも過ごす人達よ。気になるでしょう?」

あの村から出て私は夜蛾おじさんと傑以外の人とは関わりを持ってませんでした。しかしそんな二人はとてもも優しい人。夜蛾おじさんは私をあそこから連れ出してくれた人。傑はこんな私に優しく接してくれた人。この二人と出会えた事は、大袈裟と言われるかもしれませんが奇跡に近い事だと思ってしまうのです。

「百合は気にしすぎさ。不安がる事なんてない」
「そう、よね。ごめんなさい…。気を遣わせてしまって」

今までは私しか持っていなかった見えていなかった力を持った人達。どのような人達なのだろう。どのように過ごしてきたのだろう。校舎に、教室に近づくにつれ私の心臓は大きく波打ちます。傑が教室の扉を開き私も恐る恐る入ると、教室に四つの机と椅子が並んでは居ますがまだ誰も座っていません。幸か不幸か私と傑が一番だったようです。傑には気づかれないよう小さく息を吐いてしまいました。
傑と私が席に着いてから少し時間が経った位でしょうか廊下から足音が聞こえてきて扉が開きました。現れたのは私と同じ制服を身に纏った女の子。

「おっ。生徒発見。それも二人」

女の子は「こんにちはー」と私達に軽く挨拶しながら空いている机に座ります。

「ここ誰か座ってた?」
「いや。君が三人目だよ」
「そっか。私、入家硝子。そっちは?」
「冬月、百合です」
「夏油傑。よろしく入家さん」
「苗字堅苦しいから硝子でいいよ」

硝子さんは凄い人です。私が数日かけて傑に言った事を初対面で、直ぐに実行してしまったのです。それから三人でお話をしましたが傑が話題を繋いでくれてそれに喋るというもの。なので自分で上手く喋れているか自身がありません。

「ごめんなさい。ちょっと御手洗に」

少し、息抜きをしたいと思ってしまい御手洗に向かいます。傑に一人で大丈夫か。何処にあるか分かるか聞かれましたが小さい子供ではないのですから。「大丈夫」と笑顔で傑に答えます。

どうでしょう。笑顔のつもりでしたが私はちゃんと笑えていたでしょうか?


御手洗を済ませ、行き慣れない場所だったので先程の道順を思い出しながら教室へ向かいます。つと窓を見ると外の木々は桜が一面に咲いています。山の中といっても東京。桜が咲くのは私がいた村よりも断然早いです。あの村では寒さのと土地の所為もあり4月の始めにはこのように咲き誇りません。それを見て「ああ、やっとあそこから離れられた」と実感します。
教室へ戻った時は残りの一人は居るのでしょうか。そうなると傑と硝子さんはもう話をしていて仲良くなっているかもしれません。そんな中に私は上手く溶け込むことができるのか。先程の様に傑が私にも会話を繋いでくれるかもしれませんが、きっと上手く返せないでしょう。こんな私にこのままだと傑や硝子さんや残りの生徒も呆れ、関わるのを避ていくかもしれません。
あの場所から離れても、あの人達から離れても、優しい人達に出会ったとしても私は閉じ困ったままの変われない小さな人間なのかもしれません。


「おい」


自己嫌悪で悪い方向に考え込んでしまっていたら背後から声が聞こえてきます。傑の声でも夜蛾おじさんの声でもありません。では誰なのか。
振り向いてみると男の子が立っています。傑と同じ制服を着た瞳の色が綺麗な男の子。

「邪魔」
「あっ…その、ごめんなさい」

咄嗟に謝りましたが考えてみると私は廊下の窓際、端の方に立っていたので男の子の言う邪魔にはならない筈です。現に私が男の子から数歩下がっても男の子は私を見つめ歩き出そうとはしません。


「あの、えっと…」
「端に突っ立っててもその根暗な空気が邪魔だっつてんだよ」
「…」

確かに悲観的にはなってましたがこのように初対面の人にこうも言われてしまうとはどうしたものでしょう。

「ご、ごめんなさい」

思わず誤ってしまいましたが何に対しての謝罪なのか私自身が疑問に思います。しかし私の謝罪で納得したのか男の子は早々と歩いていきました。突然の事に呆気にとられてしまいますが私も教室に戻らなくてはいけないので足を前に進めます。ですがあの男の子に近づいてしまうとまた何か気に障ってしまうかもしれません。距離を置き念の為息を殺して歩きますが男の子は立ち止まり後ろを振り向き

「後ろからそんなビクつきながらついてくんなよ。鬱陶しい」

前に居ても駄目。後ろに居ても駄目とはどうしたら良いのでしょうか。恐らく隣を一緒に歩いても何か理由をつけられて駄目と言われていた筈です。

「ごめんなさい…。でも、私もそちらにある教室に戻らなくてはいけないから…」

私も戻らなくてなならない。そう伝えようとしたら男の子は何故か私の所まで戻りジロジロ見つめます。長々と見られるのは好きではありません。それに対し不快感が生まれます。

「…なに?」
「オマエ、今年の新入生?」
「そう、だけど…」
「へえ、冬月の雪女か」

どうして初対面の彼がそれを知っている。その名で呼ぶのはあの人達だけ。此処ではその名を呼ぶ人なんていない筈。どうして、知っている。

「どうして…その呼び方を」
「はぁ?冬月は女だったら雪女って謂れた家系だろ」
「確かに私の村では、そう呼ばれていたけれど、どうして貴方がそれを、知っているの?」
「なんだよ。自分の家系が廃れすぎて他の術師からどう見られてたのかも知らねぇのかよ」

話を聞くと、彼は昨日傑が言っていった歴史のある呪術師の家の人なのでしょう。だから村の外部の人間でも冬月の、あの呼び名を知っていた。彼は苛立ちはあるものの私に対する嫌悪や悪意は感じない。だけど、それでも

…め、て
「あ?小さくて聞こえねぇんだけど」
「雪女って言うの、やめて」

冬月の名で呼ばれるのは好きではありません。ですが雪女と呼ばれるのは言語道断です。その呼び方はあの村で、冬月の人間にとっても忌々しい、苦しめる縛りとなっているもの。

「他の人達が言っていたとしても私はその呼び方、いや」
「それ以外だったら根暗とかで呼ばれても良いのかよ」
「雪女って呼ばれるよりは、断然良いわ」

目の前の彼が「何言ってるんだこいつ」という顔で呆れています。しかし、これは私にとっては曲げられないことなのです。

「オマエ達、何しているんだ」

あまり良いとは言えない空気の中、仲裁に入るかのように声がしました。この声を私は知っています。私をこの世界へ導いてくれた人。

「よお、おっさん」
「入学したのだから先生と呼べ」
「…夜蛾おじさん」
「百合、今言った事が聞こえなかったか。入学早々問題を起こそうとするな。ついて来い」

夜蛾おじさんから見たら私達は喧嘩をしていると思ったのでしょうか。だとしたら遺憾です。どちらかと言うと私は絡まれたのですから。隣で男の子は文句を言っていますが自分に非があるとは微塵も思っていないようです。

「おい根暗。オマエの名前は?」
「……冬月百合」
「無理だろうけど俺の足引っ張るなよ。根暗」
「な、名前伝えたのに…」
「根暗でも良いってさっき言っただろ」
「……」


傑は何とかなる。大丈夫と私に言ってくれましたが、どうしましょう。大丈夫な未来が見えません。私の学校生活どうなってしまうのか。
そういえば私は名前を伝えましたが彼の名前をまだ聞いていませんが…聞いたらまた色々と言われそうなので聞くのは止めにします。教室へ戻ったら全員が自己紹介をするでしょうし。

「おい!喧嘩するなと言っただろう!」


私達に注意をしますが、濡れ衣です。夜蛾おじさん。




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