夏油

呪術高等専門学校は普通の学校とは異なります。此処は呪いを祓う呪術師を育てる場所。呪術師の拠点でもあります。此処に通う者は呪術を学び、その力を高め、人を助ける。此処はそういう場所なのです。今回、私達は初めて学外での課外活動を行いました。この時、硝子さんは引率した夜蛾おじさん、もとおい夜蛾先生と待機をされてます。何でも硝子さんは呪術師でも珍しい傷を癒せる反転術式を使えるようで、硝子さんは実践活動は行わないと聞きました。そうなると今後課外を一緒に行動する人達は決まってきます。彼女を除いた生徒といえば私と傑と、そして

「おい根暗。何だよさっきの動きは。性格が沈むと動きも遅くなるのかよ」

私にご指摘をする彼、五条悟君です。五条君は歴史が長い呪術師の家系だと聞きましたが、その家系は呪術師を束ねる御三家の一つという凄い家柄の男の子でした。力がある家系なので彼の性格も大きくなってしまうのかと最初は思いました。しかし今回初めて実戦で彼の力を見て違うのだと気づきます。五条君はの大きな振る舞いができる程の力を持っているからなのだと。
私の力を村の人達は異能だと恐れていましたが五条君の力はそれ以上。初めて術式を見ただけで分かるほどの力を持っていました。


「性格と動きは、関係あるの…?」
「根暗は動き以外も頭もトロいのか?根暗だから家に引きこもって動きもトロくなったんだろ」
「…」

確かに私は活発な性格ではありません。家に引きこもって、引き込まされていた時期もありました。私が外に出るとあの人達は私から離れます。遠くから嫌悪と畏怖の瞳で此方を見つめています。傷つける言葉を聞こえないように言っているようですがその言葉は私の耳にも入ってくるのです。外に出たって嫌な気持ちになるばかり。それなら閉じこもっている方が遥かに私にとっては心が安らぐのです。
だから根暗という事実は否定をしません。でも、好き好んで引きこもっていたと言い切る彼に私の何が分かるというのでしょうか。その言葉に不快になるなと言うのが難しい話です。


「俺も百合も呪術師をして本格的に動くのは今回が初めてだ。むしろ百合は頑張った方だと思うが」

私の気持ちが顔に出てしまっていた為か傑が私と五条君の間に入ってくれました。傑の声を聞いて私の心はほっと撫で下ろしたのは内緒です。

「今日ができましたー。って褒めて調子づいてそのまま戦ったらコイツみたいな呪術師はすぐに死ぬだろ」
「呪術師として力を学ぶ為に俺達は此処に来た。それを今すぐに完璧な状態で戦えと言うのはお門違いじゃないか?」

傑が私を庇っても五条君は自分の意見を述べ反論します。その会話が雲域が怪しくなるのも聞いていて分かります。むしろ私の時よろも悪くなっているようです。このままだと実践にまで発展しそうな雰囲気で、そうなると夜蛾先生に怒られる未来は確実です。

「傑、気にしないで。危ない動きがあっのも本当だから。私がもっと気をつけなければいけなかったの。五条君も、せっかく忠告してくれたのに素直に受け入れなくて、ごめんなさい」

このような空気にしてしまったのは五条君の言葉を受け入れず意固地になってしまった私に問題があったのです。それを受け入れ五条君に謝ると「分かれば良いんだよ。次はそのトロい動き改善しろよ」と言って夜蛾先生と硝子さんがいる方へ先に行ってしまいました。謝りはしましたが彼は一体何なんですか。彼のような振る舞いは私には一生できないのである意味感心していると傑が納得できないと言いたげな顔で私を見つめます。

「非があると思えば素直に謝るのは百合の美徳だと俺は思うよ。しかし謝罪を口にするのは自分の意見をちゃんと伝えてから言うのも大事だと思うけど」
「でも、その意見を伝えても平行線のままで終わらないことがあるでしょう?それに五条君が言ったことは事実だもの。傑は彼に何も言われてはいなかったわ」

きっと五条君は自分が認めた人にはあの様な物言いはしない筈。そうなると彼から何も言われなかった傑は認められているのだと思うのです。実際に傑の動きは早く、術式も強いものでした。

「傑の術式は凄いのね。呪霊を意のままに操るなんてびっくりしたわ」

傑の術式は以前話の中で聞いたことがありました。
呪霊操術。人に恐れられた、私達の倒す敵である呪霊が傑の言葉で、命令で動かすことができる。これが傑の術式です。人の言葉で動く呪霊というのも初めて見たので何だかおかしな光景だったなと思っていると、傑は困ったように眉を下げて笑います。どうしたのでしょう。私は今の会話で傑に不快な思いをさせてしまったのでしょうか。

「人が呪霊を取り込んで操るなんて実際に見て君が悪くなかったかい?」

まるで小さい子供に話しかけるような、気を使ったその言葉に私は面を食らってしまいます。

「初めて見たから驚いただけよ?私、傑のことを、気味が悪いなんて思わないわ」

私の呪を理解して受け入れてくれた人。戸惑う私に手を差し伸べてくれた人。そんな人をどうして気味悪がると言うのです。

「…傑、私と初めて会った時言ってくれたでしょう?“此処は君と同じ人達が集まる場所。自分もその内の一人“って。忘れてしまったの?」
「いや、…忘れてないさ」
「私、そう言って貰えて嬉しかった。凄く嬉しかったし安心したの。だから傑が私のことをそう思っていたのだとしたら、とても悲しい」

今の私は一体どんな顔をしているのでしょう。怒っているのか、悲しんでいるのか。でも言えることとしたら情けない顔をしているのは確かです。

「君の気持ちを害するようなことを言ってしまって、ごめん。怒ってしまったかな?」
「…怒るよりも、悲しかった」

傑に私の言葉は届いたかは正直分かりません。でも私を受け入れてくれた優しい人を気味悪がったり拒絶をすることは、ないでしょう。その事実を今でなくとこれから彼と過ごしていく中でそう思ってくれたら良いのですが。

「ごめんね。百合」
「謝らないで。傑は何も悪くない。…私もムキになって、貴方を困らせてしまって、ごめんさない」

私がまだ悲しんでいると思った傑は私を見ながら謝ります。悲しかったですが、これ以上彼を困らせたくないので大丈夫と伝え、それと同時にゆっくりと傑の手を握ります。私の手が傑の手に触れた時、驚いた顔をしたのを見逃しません。驚くのも無理はありません。だって私は人と触れ合うのは抵抗があるのです。それを初めて会った時に傑は知っているのですから。私だって今まで自分から触れるなんて行為をしたことはないので今現在心臓が素早く胸打っているのが自分でも分かります。

「傑だからこうして私、手を繋げられるのよ。触れるの。だから、その…気にしないで」

傑に安心して貰う、納得して貰う為にとった行動ですが、驚いて固まっている傑の顔を見て出しゃばった真似をしたのではないかと後悔が大きくなり、声も次第に小さくなってしまいました。どうしましょう。自分から手を握るはしたない女だと思われてしまったら。そんな思考は頭を過ってしまったので繋いだ手を離そうとすると、まるで離さないと言うかのように傑の手が私の手を握り返しました。彼の予期せぬ行動に小さく「あっ」と声が出てしまいました。この声は傑に聞こえてしまったでしょうか?私の顔が段々と熱を持っていきます。

「ありがとう。百合。それに百合から触れてくれて嬉しいよ」
「す、傑が安心してくれ、喜んでくれたのなら私も、う、嬉しいのだけれど。そ…その、手」
「百合から握ってくれた手を離すのが勿体なくって。いや、かな?」
「い、嫌ではないわ。嫌じゃないけど。そ、その、はっ恥ずかしくなってきちゃって…!」

真っ赤にして言う私の姿を見て傑は今度は楽しそうに笑い「皆の所に戻るまできづかれないよう手を繋ごう。…だめ?」と聞いてきます。私が傑のお願いを断れないと分かった上で聞いてくるのです。「はい」と言うのが恥ずかしく、言葉の代わりに頷いて肯定の意を見せると傑は嬉しそうに皆がいる方向へと手を繋いだまま進みます。傑の笑みは先程の困ったものではない何時もの見慣れた笑みに戻っていたので、未だに私の心音は大きく高鳴ってはいますが、まあ良しとしましょう。


その後、私達が来るのが遅いと戻ってきた五条君に「いちゃついてないでささっと戻れよ」と言われるのはまた別のお話。




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