どうやって迎えますかif | ナノ

同級生組


※小説『逝く夏と還える秋』のネタバレ有

日曜日は何処も彼処も混んでいる。それが東京なら尚更だろう。東京のアメ横で琴葉も人混みの中の一人となっていた。きっかけは昨日、つい最近同級生になった釘崎野薔薇の一声だ。

「アメ横行くわよ」

「行かない?」「行こうよ」ではない。強制参加で決定事項と言うかのような釘崎からの誘い。突然の前日、しかも休日の誘いに予定がある者は突然の誘いに戸惑ったであろう。

「はーい」

しかしこれといった予定がない琴葉は二つの言葉で頷くのであった。そして当日、寮を出るときには琴葉と釘崎の他に同級生の伏黒と虎杖もそこにいた。伏黒の死んだような表情を見るに当日声を掛けられ強制連行されたと予想がつく。
四人でアメ横に着いた時、琴葉と釘崎はアメ横で服を見る予定だが虎杖は別行動をしたいと言ってきた。残った伏黒は琴葉達の買物に付き合うのか。そうなると二人の長時間の服選びに付き合わされ荷物持ちにされるのがおちだ。瞬時にその結論に至り、伏黒も虎杖同様別行動を取る事にした。しかし強制連行された伏黒はこれと言った東京でやりたい事など思い浮かばない。

「伏黒君、伏黒君」
「なんだ」

このまま帰るか。しかし虎杖が一人で行動したいと言ったのも気になる。どうするか考えている伏黒に琴葉が声をかける。

「一人で勝手に帰っちゃダメだからねー。後で待ち合わせ時間と場所、伝えるね」

いつのも真伸びをしたやる気のなさそうな声だが見透かされている言葉を言われ視線を琴葉から少し外す。

「する訳ないだろ」
「あやしー」
「琴葉、行くわよー!」
「はーい。ねえねえ伏黒君。どうしたらいいか迷ったら虎杖君と行動したら?」

伏黒から離れる間際に言われた言葉。どうやら虎杖が一人で行動するのは琴葉も予想外だったらしく虎杖の行方を気にしているようだ。しかし自分は釘崎との先約があるので手の空いている伏黒に任せよう。琴葉の意図に気づき「ちょっと待て」と伏黒は声をかけようとするが二人は既に人混みの中に紛れ、伏黒の視界からいなくなる。

「ったく」

人任せにしやがって。

悪態を吐くが伏黒が虎杖を気にかけていたのも事実。急いで虎杖を追う為伏黒は足を進めた。
その後虎杖を追って着いた場所が秋葉原で、更にはそこで見かけた五条の後を尾行する事になるとは琴葉も、後を追った伏黒も予想だにしなかったことだろう。




虎杖と伏黒が五条の尾行をしている頃、買い物を楽しむ琴葉と釘崎の姿があった。

「どっちが良い?」
「単体で見たらそっちだけどさっき買ったインナーと合わせるならこっち」
「やっぱりそう思う?」
「こっちにするならさっき見たお店にあった服も合いそう」
「そう言われたら余計迷うじゃない。琴葉、さっきの店に戻ってもいい?」
「いいよー」

女性の買い物は長いと言われるが釘崎の買い物は一般的で言われる長さを上回っていた。この場に男子二人がいたら間違いなく伏黒は疲れ切った顔をしていただろう。

「ねえねえ野薔薇ちゃん。帰ったら買った服のコーデ考えようよ」
「最初からそのつもりだったけど」
「やったー!そした帰りにケーキ買って帰ろう。部屋で帰ったらケーキ食べながら考えよう!」

「ここら辺の美味しいケーキ屋さんはー」と言いながら琴葉はスマホで探し出す。帰ってからも楽しみだな。と思っていたら「琴葉は行きたい所ないの?」と聞かれた。

「私?」
「さっきから私の行きたい店ばっかりで琴葉はないの?」
「ケーキ屋さんに行きたいよー?」
「それ以外でよ」

先程から自分の買い物ばかり優先的になってしまっていることが釘崎から見ても気にはなっていたらしい。

「動物園とか」
「なんで動物園?」
「上野っていったらパンダでしょ」

上野と言われ思い浮かぶものがあるとしたら殆どの人がパンダと答える。現に上野駅から今まで歩いた距離でパンダ推しを目に見てきた。

(パンダ…)
琴葉にとってパンダと言われて思い浮かべるのはTVやメディアで映し出される可愛らしい姿ではなく、一個上のパンダなのに何故か可愛らしさを感じられない先輩の姿。お金を払って長蛇の列をならんでやっと見れた可愛らしい姿を見ても身近にいるあっちのパンダの姿がどうしても過ってしまう。

「私はどっちでもいいかなー。野薔薇ちゃんはパンダ見たい?」

もし見たいと言うのなら高校にパンダが居ることを伝えるべきか。しかし、いざ対面して想像と違うとがっかりしてしまったら可哀想なので上野の可愛いパンダを釘崎に見せるべきか。

「別に。並んでまで見たとは思わないわ」
「そしたらやっぱり買い物続けようよ。私、野薔薇ちゃんとの買い物好き。私が買う服とはタイプが違うから気づきがあって楽しいもん」


琴葉が自分の気持ちを伝えると釘崎に瞳は一瞬丸くなる。が、すぐに戻り嬉しそうに笑う。

「そしたら買い物を続行しましょ。それで琴葉の意見も聞かせてよね。で、私も琴葉がに似合う服見立ててあげる」
「やったー!じゃあさっきのお店に戻ろっか!」

その言葉に嬉しくなった琴葉は釘崎の手を引っ張り歩き出す。そんな琴葉の姿に「急がなくても逃げはしないわよ」と釘崎は呆れるがその表情は琴葉と同じで、笑っていた。



二人は両手に沢山の買い物袋を持ち、次は何処の店に行くか話していたら琴葉のスマホに着信が鳴った。伏黒達からだと思い画面を見ると表示された“五条先生”の文字に思わず「うわー」と声を漏らす。

「伏黒達から?」
「ううん。五条先生」
「なんでよ」
「わかんないよー。出たくないなー」

このまま無視を貫きたいがそうなるともっと面倒くさくなるのは確実だ。「出たくないなー」ともう一度呟きながら電話に出る。

「もしもーし」
「やっほー!琴葉、野薔薇と何処らへんにいる?」

電話越しの声は陽気でどこか楽しそうな声で、そして何故か琴葉と釘崎が一緒に出かけているのを知っている口ぶりだ。

「…アメ横でーす」
「近いね。良かった。じゃあ今から地図送るからそこに集合で」
「はー?」
「来るのが遅すぎたり、来なかったら明日からの課題3倍にするつもり」
「はあー!?」
「じゃあ待ってるから!」

何故そこに行かないといけないのか。抗議するのを遮るかのように更に無茶を言う五条琴葉の声も思わず大きくなる。

「ちょっとー!先生待って…って切れたし!」

すかさず五条に電話を掛け直すが流れてくるのは「おかけになった電話は…」と無機質なガイダンスのみ。それと同時にラインの通知音がなり表示されるのは「此処に集合☆」の文字と地図の画像。地図を見ると指定された場所は秋葉原。

「で、先生は何て言ったの」
「今から此処に来ないと明日の課題増やすってー…」

電話の内容を釘崎に伝えると琴葉よりも大きな「はあぁーっ!?」声が響き渡る。
五条の気まぐれで遅刻認定されては堪らない。文句を言いながらも二人は急いで向かう。指定された場所は秋葉原のとあるビル。ビルには可愛らしい色と文字で“エンジェルメイド喫茶SHOW悪☆キューピット”の文字。

「おっ、意外と早かったね」

そのビルの下で、紙袋に入った沢山の揚げまんじゅうを持ちながら五条は立っていた。自分勝手な五条の行動に怒っていた二人であったがこのような場所に呼び出す大人に、尚且つ自分達の教師に対し二人はドン引きをした視線を五条に送る。

「おい、私達に何させるつもりだ」
「うわっ、先生ちょっとこれはねー。…うわっ」

反射的に一歩下がり身構える二人だが五条はそんな二人には気にせずに笑いながら「違う。違う」と言う。

「悠二と恵が出てきたら隣の廃ビルで課外活動するから」

続けて言われた言葉に二人は抗議の言葉を主張するが五条はどこ吹く風である。しかしメイド喫茶のビルの下で目隠しをした長身の男へ女の子二人が言い合う光景は中々に目立つもので、取り敢えずビルから三人は離れることにした。
五条から話を聞いてみると元々、後日行う予定の課外の下見と準備をしていたら伏黒と虎杖達が自分の後をつけて来た。これで琴葉達も揃ったら後日するのではなく今日挑戦させてしまおう。との事らしい。
あいつらは自分達と別れてから何をしているんだ。と琴葉と釘崎が思っていると先程のビルからこの事態に発展させた二人が出てきたが伏黒は機嫌が悪いようで虎杖が慌てて雰囲気が宜しくない。そんな二人に五条が近づくが二人は話に夢中で気づかず。

「僕がどうしたって?」
「うわあぁあああ!?」

背後から現れた五条に二人は驚き五条の背後にいる琴葉達に気づく。

「ってあれ。釘崎と如月もいるじゃん。なんで?」
「なんでじゃないわよ。コノヤロウ」
「君達のせいだよ」

休日を終わらせた原因である一人は呑気に、不思議そうな顔をして琴葉と釘崎を見つめるがそれが二人の不満を上昇させる。

「えぇー…釘崎達まで不機嫌なんだけど」
「そりゃ不機嫌にもなるわよ。アンタが五条の周りウロチョロしたせいで…」
「余計な好奇心出さなきゃよかったのにー」
「あ、そういや五条先生は今日休みなんすか?」
「無視すんなコラァ!」
「あからさまな話題ずらしー」

二人からの不満を集中攻撃されそうになった虎杖は五条へと話題を変える。五条の今日の目的と今からしようとしている事を聞くにつれ虎杖は琴葉達と同じ様な顔に、対して伏黒はやる気に満ちた顔になった。

「よし、行くぞ」
「ちょっ、なんでヤル気なんだよオマエ!」
「ゲーセン行ったりメイド喫茶行ったりするよりは、ずっと気分がマシだ」
「やっぱり二人でメイド喫茶行ったんだー。ウケるー」
「不可抗力だ」
「虎杖は兎も角伏黒まで?すました顔してとんだむっつりスケベねや野郎共」
「だから不可抗力だ」
「俺は兎も角って何!?」
「そう見れてるってことでしょー」

五条が決定してしまっては覆すことができない。揚げまんじゅうを食べながら待っていると言う五条の側に琴葉と釘崎は今日の戦利品を置き隣のビルへ向かう。

「釘崎はトンカチと釘持ってるか」
「念の為持ってきたわ。あーっ。まさか本当に使うなんて」
「トンカチ持ち歩く女子高生ってよく考えたら物騒だよなー」
「戦闘には必要なんだからしょうがないでしょ」
「如月は数珠はあるよな」
「もちろーん」

ある日曜日の秋葉原、多くの人が賑わう中で四人の男女が話しながら歩いている。側から見れば友達同士で遊びに来たのか、又はダブルデートだと思うだろう。何もおかしくない光景。

「アンタ達帰り荷物持つの手伝ってよね」
「えー。何でだよ」
「元はと言えばそっちが蒔いた種じゃない」
「こうならなくても帰りに荷物持ちさせるつもりだっただろ。オマエら」
「うっさいわね」
「ねえねえ帰りケーキ買ってもいい?」
「いいぞー。俺も買おうかな」
「終わったらここら辺の美味しいケーキ屋さん探してみるねー」

実際は彼等は高校生でありながら呪いを祓う呪術師で、今から呪いを祓おうと他の人達から見たら日常とはかけ離れた事をしようとしている。しかし、これが彼等の日常でもある。

「よっしゃ。じゃあ行くとしますか」

虎杖の言葉を合図に四人は廃ビルの中へ入る。そんな四人の姿を誰一人気にすることなく人々は通り過ぎて行った。

じゅじゅさんぽ 上野編


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