拾壱

目の前に広がるは赤。彼岸花が一面に咲き誇り果てが見えず、空は夕暮れ時を表しており緋色に染まる。辺りを見回していると違和感に気づく。私の身体に咲いていた花は無くその為か全身を蝕んでいた痛みも感じない。現実離れをしたこの場所と痛みを感じない自分の身体。そこから導き出される答えは一つであり、その答えに私は動揺より先に苛立ちを覚える。
呪術師になったからには長生きができるとは考えてはいない。自分が納得できる死に方ができるとも思ってはいなかった。それに対して理解はしていたつもりだ。しかし、それはやはり“つもり”だっただけである。脳裏に浮かぶのはあの光景

呪霊に拘束される真希先輩
私と同様に呪霊の攻撃を受けながらも戦おうとする伏黒君

何もできなかった役立たずの自分に腹が立つ。役立たずな、不甲斐ない自分に腹が立つ。自分自身に対し苛立ちを覚える中で最後に聞こえたのは虎杖君の声。彼は今も特級呪霊と戦っているのだろか。無事なのだろうか。そんな時にどうして私はこんな所で突っ立っているんだ。
虎杖君は私に「頑張った」と言ってくれた。けれど弱いままでは、死んでしまっては頑張っても意味が意味がない。「頑張った」なんて今の私には相応しくない。

野薔薇ちゃんと互いに頑張ろうと言ったじゃないか。
伏黒君と強くなろうと決めたではないか。
虎杖君が戻って来てくれたのに、「気をつけてね」と言っておきながら私が死んでしまっては何と間抜けな抜けな事か。

此処で嘆いていても苛立っていても何も始まらない。帰るんだ。戻るんだ。皆の所へ。
そうと決めたら足は自然と動き出し咲き誇る彼岸花を掻き分けて進む。進む先の景色に変わりは見えず。もしかしたらこれは夢なのか。いや、夢だとしても何と趣味の悪い夢を見ているのだ。そしたらさっさと目を覚ませ。先程とは違った苛立ちを感じていると数珠が突如震え出す。呪霊がいるのかと身構えるが気配がしない。では何に反応しているのかと見回すとある一点に目を向けると震えが強くなった。目を凝らして反応が大きくなった所をみると一面の赤の中に何かがあった。急いでそこに向かって走るってみると何かの正体が判明する。鳥居だ。花と空と同じ、赤い鳥居が建っていた。それも一つだけでなく幾つもの連なってまるで道のようになっている。鳥居の前に立った頃には数珠が痛いくらいに手首を締め付けていた。こっちへ来いとも、来るな。とも考えられるこの状況だが考えるまでもない。これが罠だったとしてもあの場所でただ立ち止まってはいられない。鳥居の中へ足を踏み入れ前へ前へと進む。
あれからどれだけ歩いただろう。鳥居の道は続き果てが見えない。外の景色は幾つもの鳥居が隔て見ることもできない。変わった変化が有るとしたら辺りがだんだんと暗くなっていという事だけ。それでも、前へ進む。このまま辺りが暗くなり、見えなくなっても歩みを止めるつもりはない。歩き続ける中、ふっと思いだす。赤く覆われた現実離れをした場所。私はあの場所に覚えがあったのだ。だとすると何時、どのような時に?記憶を探ろうとするが靄がかかったかのように思い出せない。

それでも、私は昔あの場所を知っていた。




「女性のタイプを聞かれて答えたら親友認定された?意味わかんない」
「いやいやそれがマジなんだって」

目が覚めた時、私はベットの中にいた。側にいた家入さんに診療を受けながら今の状況を聞いてみると特級呪霊の襲来から一日が経っており私は今までずっと寝ていたみたいだ。私が気を失った後虎杖君と東堂先輩が特級呪霊を追い込み帳が上がった事で五条先生とも合流できた。しかし五条先生の規格外な術式で祓ったか祓ってないのかは判明はできていないらしい。
家入さんから私の身体に問題はないとお墨付きを貰った後、昨日から何も食べていないので空腹を感じていると扉が勢いよく開かれた。そこに立っていたのは虎杖君と野薔薇ちゃんで、何故か宅配ピザの箱を持っていて

「琴葉!さっき目が覚めたんだって?大丈夫なの?」
「大丈夫だよー」
「如月腹減ってるか?」
「ペコペコだよー」
「よしっ。みんなでメシ食うか!」

そして伏黒君が居る部屋へ出向き、今に至る。

「あのゴリラに一体どんな答えを返したわけ?」
「尻と身長のデカい女の子」
「オープンすけべか」

話題は虎杖君と東堂先輩について。野薔薇ちゃん曰く二人はとっても仲良しさんだったらしい。でもあの人ってそんなにフレンドリーな人ではない筈。以前の伏黒君から話を聞いたらそんな印象なのだけれど。虎杖君からの話によると質問の回答を気に入ったから親友認定されたと。
気に入らない質問には殺されかけ気に入ったら親友認定される。厄介な話しだ。しかし虎杖君の質問に対する回答、気に入らない点がある。

「うそだー。部屋のポスターおっぱいの方を強調してたじゃん。本当はおっぱいの方が好きなんだろ!」
「なんで如月は俺の部屋の事情知ってんの」
「どっちにしてもオープンすけべじゃない。で、アンタはそれが理由であのゴリラと仲良くなったと」
「いや、仲良くなったっつーか…」

野薔薇ちゃんの問いに虎杖君は言葉を濁す。虎杖君にしては珍しい言動だ。

「記憶はあんだけどあの時は俺が俺じゃなかったというか…」
「何アンタ酔ってたの?」

洗脳されていた訳でもあるまいに「俺じゃなかった」とは如何なものか。それ以上は虎杖君は思い出したくないのか話は私と伏黒君に関してに変わる。

「でもまぁ伏黒も如月も怪我が大した事なくて良かったな」
「あの時呪力がカラカラだったのが逆に良かったみたいだ。根を取り除いた時点で家入さんの治せる程度だった」

伏黒君が虎杖君に説明する。それに対し家入さんに診て貰った時の事を思い出す。特級呪霊と戦っていた時、伏黒君は呪力が空っぽだったようだが私にはまだ温存している呪力があった。そうなると私の方が重症だったようで。というか死にかけていた。では何故こんなにピンピンしているのかとなると家入さんのお陰でもあるが私の回復も急激に早かったらしい。今まで何回か家入さんに怪我を診てもらったがこんなの始めてだ。反転術式を使ったのかと言われてもあんの高度な術式、私に使えるわけない訳で。

「眠っていた時夢とか見なかった?」
「そんな夢で体力回復しちゃうんなら毎回見たいですよー。うーむ…」

答えを見出せない私に適当に家入さんが尋ねるが夢がきっかけで回復とか有り得ないと思う。しかし言われた通り思い出そうとしてみるが

「思い出せないですねー」

何か、夢は見ていた筈なのだけど全く思い出せない。まあ夢ってそんなものだよね。
ピザとサイドのフライドポテトを食べながらそう思っていたら、

「虎杖、オマエ強くなったんだな」

口数が少なかった伏黒君が虎杖君に対し声をかける。伏黒君は特級呪霊と戦い抜いた虎杖君に思う事があるようだ。

「あの時俺達それぞれの真実が正しいと言ったな。その通りだと思う。逆に言えば俺達は二入共間違えている」

正しい正しくないの。この二択だけで世界は成り立たない。皆自分の主張を持って、考えを誰しもが持って生きているのだから。それは伏黒君も分かっていて、後はそれが納得できるかどうかだ。

「我を通さずに納得なんてできねぇだろ。弱い術師は我を通せない。
俺も強くなる。すぐに追い越すぞ」

伏黒君が虎杖君を真っ直ぐに見据える。その目には確かに強い意志がある。対する虎杖君は嬉しそう。

「ハハッ。相変わらずだな」
「ちょっとー。二人だけの世界にならないでー」
「私達抜きで話進めてんじゃねーよ」
「それでこそブラザーの友達だな」

場違いな野太い声が会話に入っている。声の持ち主はいつの間にか現れた東堂先輩で、私達の動きが止まるのを御構い無しに一人勝手に頷いている。
そんな一瞬の中で虎杖君の行動は速かった。窓から虎杖君は逃げて行きそれを東堂先輩が「ブラザー」と叫びながら追いかけていく。

「あの時の俺は正気じゃなかった!」
「何を言っていいる!ブラザーは中学の時からあんな感じだ!」
「俺はオマエと同中じゃねぇ!!」

親友認定されてたら勝手に記憶も捏造されるとか怖っ。あの虎杖君が必死になって逃げるだけの事はある。東堂先輩にドン引きしながら残っているピザを手に取る。
強くなる。伏黒君が宣言をした言葉。夢の内容は覚えていないけれど、私も強くそう思った。そのような気がした。



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