特級呪霊が私達に攻撃をかける前に狗巻先輩が呪言で動 きを封じる。その隙に植物で塞がれた中庭の出入り口とは別の場所から建物内に入る。

「如月!おまえのスマホは使えたよな。五条先生に連絡しろっ!」
「分かった!」

伏黒君のスマホは先程の攻撃で使えなくなってしまい五条先生と連絡取れるのは四人の中では私だけ。特級呪霊は三人に取り敢えず任せ、急いで先生に電話を掛ける。

「琴葉、状況を教えて」

ワンコールもしないで先生は電話に出てくれた。異常事態が発生していると先生も察している筈だが冷静で落ち着いた声で喋る先生に、焦りが少し治る。

「特級呪霊と遭遇。追いかけっこをしてるよ」
「…そうか」
「先生が絵に描いてた頭富士山じゃなくて目が花の呪霊と。ねえ先生、先生達はどうんな状況?」
「歌姫とお爺ちゃんは帳の中に入った」
「先生は入ってないの?」
「この帳、僕だけの侵入を拒むようなんだ」
「はぁー?」

私に対する先生の問いは想定を超えるものであった。進入を拒む帳は確かに存在する。しかし、特定の人物を拒むものなんて滅多にない。

「僕クラスになるとこんな対策を取られちゃんだから有名人で最強は困っちゃうね」
「最強ならその帳をなんとかしてよ」

あははー。と笑う先生だが最悪な状況だ。笑っている場合か。

「僕もこの帳の対策を考えてる最中だから。でも琴葉、さっきの言葉よく考えてみて。“僕個人を拒む”んだ。そうなると?」
「…他の人は帳の効果が薄い?」
「正解。僕以外なら出入りはできる。だからそのまま特級呪霊から逃げ切って」
「了解。また何かあったら連絡するね」

こちらも切羽詰まっている状況なので長電話はできない。必要な情報共有を終えたので電話を切る。

「如月!先生は何って言ってた!」

現状を知りたいのは皆同じで走りながらも三人の視線が私に集中する。私は三人に聞こえるように大声で、言う。

「五条先生だけ帳には入れない!でもそれ以外は出入り可能!だから帳まで走る!!」



狗巻先輩の呪言で特級呪霊の動きを止め残りの三人で攻撃をして距離を取り、帳の外を目指す。これが今私達ができる対策だ。

『止まれ』

狗巻先輩が呪言を放ったのですかさず特級呪霊に砕花雨で攻撃を掛ける。特級の全身に無数の珠を放つがダメージは無いに等しい。あったとしても頭部に珠が当たった跡が残る程度。次に加茂先輩が頭部に攻撃をすると小さな傷を残すことができた。

「急げ。どうせすぐに直してくる」

加茂先輩の言葉で特級に攻撃するのを一旦辞め階段を登り上へと目指す。やはりあの特級は防御面にも特化していて中々攻撃を通す事ができない。私達の目的は特級から逃げ切る事だが

「ゴボッ」
「狗巻先輩、喉辛い?」

狗巻先輩はのど薬を飲み表情は辛そうだ。先輩は私達に比べると汗をかいているのも走っているからだけではない。この中で大きな負担を追っているのは狗巻先輩だ。呪言を数回使っているがどれも強力なものではない。でも相手が特級だから通常よりも負担は大きい筈。

「先輩みたいに長い時間はできないけど、私でもあいつの動きを止めることはできる筈。そうしたら先輩の喉、少しは回復できると思うの」

望月で大きな盾を特級の前に出して動けないようにする。そんなに距離を開けて術式を展開するのは難しいし盾を破壊されてしまう恐れもある。それでも狗巻先輩の負担は多少は減らせる筈だ。

「おかか」

しかし私の提案に狗巻先輩は首を横に振る。提案を否定するものではあったが辛そうな顔でも笑みを浮かべて私を見る。それは否定だけではなく心配するな。気を使ってくれてありがとう。と言っているようにも思えた。
階段と扉を抜け、私達は建物の瓦屋根の上に立ち扉から現れる特級を待ち伏せする。

「狗巻先輩が止めてくれる。ビビらず、いけ」

伏黒君は鵺に指示をする。私も数珠を持ち待機していると特級は現れる。鵺が勢い良く特級へ向かう。ここで狗巻先輩が呪言を発動する筈だったのだが呪言は発動されなかった。狗巻先輩の口から大量の血が溢れ出し膝を突いて倒れたから

「先輩!」

私達の意識が狗巻先輩に集中する。特級は私達の隙を見つけ出し鵺を攻撃したと思ったら加茂先輩の顔面に攻撃を掛けた。そしてと止めと言わんばかりに複数の樹の珠で加茂先輩を攻撃しようとするが私が望月で加茂先輩の前に盾を貼り守る。その隙に伏黒君が動けない加茂先輩を救出してくれた。伏黒君が声を掛けるが反応は無い。伏黒君と私は加茂先輩の前に立ちこの状況をどうするか頭を駆け巡らせる。

「高菜」

その時だった。気づけば伏黒君の後ろに狗巻先輩が立っていた。流れていた血は止まっており喋る事ができる。しかし、それは

「やめて」

狗巻先輩は私達の前にでる。伏黒君も先輩の名前を呼んで止めさせようとするが先輩は止まらない。私は狗巻先輩の腕を掴み止めようとするがそれでも先輩は、止まろうとしない。

「先輩、やめて。後は私がやるから。だから、やめて」

狗巻先輩には私と伏黒君の声は耳に入らずただ一点を、特級呪霊を見つめる。そして


『ぶっ とべ』

強力な呪言を特級にぶつける。でもそれは大きな負担を与える訳で。呪言を放った狗巻先輩は
血を吐いて意識を失ってしまった。倒れそうになる狗巻先輩を抱きとめる。

「ばかっ…!」

先輩を抱きしめる腕に力が強くなるが気を失っている先輩は気づかない。そして思わず口に出た言葉は無茶をする狗巻先輩に対してか、あるいは何もできなかった自分に対しての苛立ちなのか、それとも両方に対してなのか。自分でも分からない。
しかし苛立っていても何も始まらない。特級が飛ばされた方を見ると真希先輩と伏黒君が特級と戦っている。真希先輩が伏黒君から呪具、三節棍を受け取っている。その呪具は恐らく等級が高い物なのかその呪具で攻撃をすると特級は森の方まで飛ばされた。何をしているんだ琴葉私はまだ戦えるじゃないか。

「琴葉!動けるんなら恵と一緒について来い!!」
「はいっ!!」

苛立ったり自己嫌悪で悲劇ぶっている時間なんてないんだ。狗巻先輩を横に寝かせ、真希先輩達と一緒に特級呪霊が飛ばされた方向へ向かう。
私達が特級呪霊に近づくまでの間は玉犬が相手をする。呪霊の気配を追って走ると、見つけた。川の上で特級と玉犬が戦っている。現に特級は玉犬に意識を奪われて私の存在に気づかない。

玉犬は囮である。

数珠で特級呪霊を拘束させる。私の今あるだけの呪力を数珠に注いでいるので特級は動けずにいる。私の術式では狗巻先輩みたいに長時間拘束できないのは分かっている。だからこの短時間に賭けるんだ。

「今だよっ!!」

私の合図で真希先輩と伏黒君が動くき特級の顔面に呪具で二人は力の限りの攻撃する。

「私はまだいけるから続けて攻撃し…っ、ぐっ、あ”ぁっ!?」
「如月!?」
「どうした琴葉っ!」

まだ拘束できる。そう二人に伝えようとした時だった。胃から這い上がってくる感覚があったかと思うと口の中に血の味が広がり抑えきれず血が口から溢れる。気づくと腹部には花が咲いておりそこから激痛が走り、術式が上手く組めなくなり拘束が緩んでしまった。その僅かな時間で伏黒君は私と同じように身体に花が咲き動けなくなり、呪霊の攻撃で真希先輩は肩に鋭い木の枝が刺さる。伏黒君は私と同じように術式が組めないのか玉犬が消えてしまった。
特級呪霊曰く、私と伏黒君が打ち込まれた芽は呪力を好み術を使うほど身体を蝕むらしい。

「御親切に!!どうせ殺すつもりだろ」
「隱ャ譏弱@縺滓婿縺悟柑縺上?縺梧掠縺?i縺励>」
ー説明した方が効くのが早いらしいー
「雋エ譁ケ縺ッ縺セ縺?蜈?ー励◎縺?〒縺吶′縺昴■繧峨?蠖シ螂ウ縺ッ縺ゥ縺?〒縺吶°縺ュ」
ー貴方はまだ元気そうですがそちらの彼女はどうですかねー

特級の言う通り、説明を聞いた途端全身が痛くなり立っているのもやっとな状態だ。あの時伏黒君よりも呪力を使っていたので私の方が花の成長スピードが早いようだ。
私の所為だ。私が特級の攻撃を気づかずに受けてしまったから。その所為で特級に攻撃をする隙を与えてしまって二人も危険に晒されてしまった。私の所為だ。
霞む目で見えるのが特級に捕まり動けない真希先輩と伏黒君の叫びが聞こえてくる。やめてよ。真希先輩を離してよ。

「私らの仕事は終わった。選手交代だ」
真希先輩が何かを言っているけど上手く聞き取れない。次の瞬間、何かが落ちてきて川に衝撃が走る。只でさえ立っているのがやっとだった私はその衝撃に立ってられずに倒れそうになる。しかし倒れる事なく誰かに抱きとめられる。

「頑張ったな如月」

背中を優しく叩かれながら私の名を呼ぶ声。その声に痛かった身体と心が心なしか軽くなったように思えた。


ああ、虎杖君が来てくれたんだ。



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