!前サイトでの3話分を1話にまとめたので長い文章になっております


男のあまりの横暴な態度に、反論する余裕はなく私は放心状態でただじっと地面を見つめていた。

「おい」

私に投げかけたであろう言葉が頭上から聞こえてきた。ゆっくり地面から声のした方へ顔を上げる。ペンギンと英文字で書かれた帽子を被っている男が立っていた。この男がいるだけでファー帽子の男はいなくなっていた。

「…何ですか」

力のない声で男に問いかける。

「アンタの世話をするよう船長に命じられた」

男がそう言う。世話係でなはく監視役の間違いだろうと思いながらも「そうですか」と答える。そんな私に男はバスタオルを差し出してきた。その行動の意味が分からずとまどっていると

「そんな格好で船内を汚されたら面倒だから風呂にでも入れとけ。ってのが船長のもう一つの命令だ」

こんな格好にさせたのはお前のせいじゃないか

なんて言いたいがファー帽子の男はいないので言うのを抑える。まあ目の前にファー帽子の男がいたとしても言うことはできないだろうが


「とりあえずそれで体を拭け」

此処で意地をはっても何の意味もないので、素直に男からバスタオルを受け取り濡れた体を拭く。



あれっ、これってもしかしたら此処から逃げる絶好の機会なのでは?


ふっと、そんな考えが頭の中を過る。ファー帽子の男の変な能力で捕まってしまい逃げられなかった訳だが今はそのファー帽子の男はいない。目の前の男は移動中に襲ってきた男達を倒していたがファー帽子の男のような能力を使っていなかった。おそらくこの男は肉弾戦のみで戦闘をしているのだろう。

この男だけだったら此処から逃げることが可能だ。頭の中で考えがまとまりそう断言する。
絶望を味わっていたが希望の光が見えてきたかもしれない。そうと決まれば能力を使ってこの男を気絶させよう。そしてファー帽子の男が騒ぎを聞きつけて此処に来る前に逃げ出すのだ。
そんな計画を考えていた私であったがある異変に気付く

ない。ないのだ。私のバックが

何処かに置いてきてしまったのだろうか。それとも海へ投げ出されたときに手を離してしまい海へ落としてしまったのか。
と思いながら焦りを感じ必死になりながら記憶を辿る。

思い出した。

白クマが私からバックを奪いファー帽子の男に渡していたではないか。というか何故そんな大事なことを忘れていたんだ私
バックの中には部屋の鍵が入っている。財布だって入っている。財布の中には現金だけではく大切なカードだって入っている。なにより今の私にとって唯一の連絡手段である携帯電話がバックの中に入っている。

数々の貴重品が入っているバックを見捨てることは私にはできない。そして、そんな私の大切なバックを持っているのは恐らくあのファー帽子の男

望みを見出していた私だったがこの状況に望みは消え失せ再び絶望を味わうことになる。

「ボケっとしてないでさっさと拭け」

再び放心状態になりかけている私に向かって男が言う。その男の言葉が嫌にズシンときた。





結局逃げることができず私は今船内にいて男の後ろをついて歩いている。そうしていると脱衣所に辿り着いた。

「向こうがシャワールームになっている。着替えは後で用意しておくから入って来い」

そう言うと男は出て行き私一人が残される。
はっきり言って、こんなよく分からない場所で裸になるのは気が引ける。が、服が濡れ肌に張り付たり海水で肌がベトベトして気持ち悪い。この不快感を振り払いたい。その気持ちの方が勝ち意を決して私は濡れた服に手をかけた。




シャワーを浴びサッパリした気持ちで脱衣所に戻ると脱いだ服はなくなっており代わりに籠の中にタオルと服が置いてあった。籠へと手を伸ばすと下着もある。
この下着はこの船の女性船員から借りたものなのだろうかという疑問はあったが、裸でこのまま突っ立っている訳もいかないので下着を着用する。下着のサイズが上下ぴったりなことも気になるが
服はファー帽子の男以外の人達が着ているのと同じつなぎであった。こちらは男性用の服なのか全体的に大きく、袖と裾が長い。つなぎを着て袖と裾をまくり脱衣所からでると扉から少し離れた場所に男が立っていた。

男は私を見ると「ついて来い」と言って歩き出し、再び私は男の後を追う。次に男に連れられた場所は食堂と思われる部屋であった。

「そこに座れ」

そう言われ私はテーブルの席に着く。それを見ると男は私達が入って来た扉とは違うもう一つの扉の方へ行ってしまった。
またも私一人が残される。そしてこの状況、正に逃げろよ!とでもいうような絶好のチャンスなのだが携帯電話と財布その他諸々が取られてるので逃げたくてもできない。このもどかしさ

荷物を探して無理矢理取り戻して逃げたらどうよ?

なんて考えが頭の中に浮かんだがすぐさまその考えを振り払う。荷物を持っているのはファー帽子の男だ。あの男から無理矢理取り戻すのは悔しいが無理だと思う。
実行する前から諦めんなよ!なんて思われるかもしれないが絶対、無理だと思うのだ。むしろ返り討ちにあって酷い目をみるだろう。
ただでさえ最悪な状況に陥ってるのにこれ以上、自分で最悪な状況をつくるなんて馬鹿げた行動だ。とりあえず今は此処の様子と状況を見て最善策の考えをまとめよう。

そんなことを思ってると男が食べ物を持って戻ってきた。その食べ物を私の前に置くと男はテーブル越しに私の向かい側に座った。

「えっと、これは…」

食べていいのか少し戸惑いを見せる。


「腹が減ってたんだろ?」

そんな私に男はそう言う。まあ、確かに空腹状態なのですが、…もしかして男に腹の音を聞かれてしまっていたとか?というか男のこの言葉からすると聞かれたんだろうな。私の腹の音。

やだ恥ずかしい


羞恥心が私を襲うが空腹なのは事実。そんな私の前には美味しそうな食べ物


「ではいただきます」

迷いなく目の前の食べ物に手を伸ばす。色々と考えることはあるかもしれないが整理的欲求には勝てないものだ。食べ物を口に入れると旨味が広がった。
思い出してみればトレーニングを終え夕食を何にようと考えていたところを飛ばされたのだ。それからずっと歩き続けたのだから空腹になるのも当然だ。


「美味いか?」

男がそう尋ねてきた。私は男に「美味しいです」の意味を込めて首を縦に振り「ありがとうございます」と食事を用意してくれたことに対し感謝の言葉を口にした。

「俺は大したことはしていない。食事をつくったのもウチのコックだから礼はコックに言ってやれ」

私の言葉に男はそう言い、そして「さっき買い出しに行ったから今は言えないけどな」付け足したように言った。

「食事を作って下さった方にも後でありがとうございました。と言いたいです。ですが私が食事をすることができたのは貴方のおかげです。だから貴方にも私は感謝しているのです。本当にありがとうございます」

私が思ったままの気持ちを男に伝えると男は帽子に隠れて目元は見えないがポカンとした表情になる。

「そう言われると何か照れるな…。まあその感謝の気持ち貰っておく」

照れ臭そうにそう言った。そして話題を変えたいのか

「そう言えば名前、聞いていなかったな」

と言ってきた。

「言われてみたらそうですね。私はサヤ、来栖サヤと言います」

「俺の名前はペンギンだ」

驚いて扉の方を見るとキャスケット帽子の男が立っていた。


「おっ!此処にいたのか」

キャスケット帽子の男が私達を見てそう言う。ペンギンさんに用があるのかと思ったがキャスケット帽子の男は此方には来ないで廊下の方へ戻って行った。そして言い合いをしているような声が聞こえてきた。

何だ?と思いながら私達は扉の方を見る。すると再びキャスケット帽子の男が扉を開けた。男の隣りには白クマがいる。どうらや白クマと何か揉めていたようだ。男と白クマは食堂に足を踏み入れ、キャスケット帽子の男はペンギンさんの隣りに座った。
一方、白クマはと言うと座らずに私の前で立ち止まる。白クマは何処と無く落ち着きがないように見える。不思議に思いながら白クマを見つめていると「あのっ!」と白クマが勢いよく声を上げた。

「はっ、はいっ!?」

いきなり大声をあげたものだから私も反射的に大声で返事をしてしまった。

「さっきは本当にすみませんでしたっ!」

白クマはそう言うと腰を90度に曲げてた。白クマの行動と言葉で、海に投げ込んだことに対して私に謝っているのだと理解した。


「…貴方も自分の意思で自ら進んであんなことしたわけじゃないし、その」


此処で「全然気にしてないから安心して。大丈夫だよ」なんてこと今の私には言うことができない。だって下手したら私は死んでいたのかもしれないのだから。私はそれを許すような聖人君子のような心を残念ながら持ち合わせてはいないのだ。
しかし「お前のせいで大変だったんだよ!どう落とし前つけてくれるんだ。ゴラァ!」なんてことも言うつもりもない。だってこの白クマ、あのファー帽子の男に命じられてしたのだから。自分の意思で私を投げ落とした訳ではないのである。あのファー帽子の男には白クマ、というより此処の人達は逆らえないようだし。そんな白クマに頭ごなしに怒ることなんてできない。何て言ったら良いものか。精一杯頭の中で考える。
そして結局、


「…とりあえず顔を上げてください」

なんてことしか言えなかった。私の言葉に白クマは顔を上げもう一度「すみませんでした」と謝罪の言葉を口にし、私の隣りの席に座った。

此処にいるつもりなのか「一件落着ってことだな!」

キャスケット帽子の男が私達を見て笑ってそう言う。これは一件落着と言うのだろうか


「なあ、さっき船長から聞いたが俺達の仲間になるって本当か?」

キャスケット帽子の男が私に尋ねる。えらい直球に聞いてきたな
しかしこれにもどう言えばいいだろう。私は仲間になるつもりははっきり言ってない。しかし、ここで素直にそんなことを言ってそれがあのファー帽子の男にでも伝わったら私の身が危険だ。かと言って、此処で「はい。仲間になりました」と言えば良いのかもしれないがそれはそれで何か嫌だ。

どうしたものかと悩んでいたらそれが表情に出ていたらしくそれを見てキャスケット帽子の男は理解したらしい。

「その様子だと無理矢理、か」

私は肯定の意味を込めて首を縦に小さく振った。

「船長らしいっちゃ船長らしいよなー」


キャスケット帽子の男は笑いながらそう言った。こっちは笑い話では済まないというのに


「それによーく考えてみれば自分から進んで海賊になるなんて言う奴には見えないもんなっ!」

そんなこと絶対言うものか。私がそう思っている一方でキャスケット帽子の男は喋り続ける

「でも船長が女を仲間に入れるなんて今までなかったことだから凄いことだよ」

「“仲間に入れてー”なんて言われてもバッサリ切ってたしなー」

白クマとキャスケット帽子の男がそんなことを言う。ちょっと待て

「この船には女性の船員はいないんですか?」

「そうだぜ。栄えあるハートの海賊団の女海賊第一号!ってわけだ」

では私が今身に包んでいる下着は何処から調達したというのだ。私の下着が乾いたら一刻も早く取り換えよう。

「アンタも色々あるみたいだけど此処の船員になるわけだし名前、聞かせて貰ってもいいか?」

「…来栖サヤです」

船員にはなるつもりはないと思いながらも名前を言う。

「サヤか!俺の名前はシャチ。まあよろしくな。っで、こっちの白クマは…」

「オレはベポ。よろしくサヤ」

「そしてオレの隣りにいるのが…」

「俺はもう自己紹介はもう済ませた…サヤ、聞きたいことがある」

「はい。何てすか?」

そう言った瞬間、ペンギンさんの雰囲気が変わった。そしてペンギンさんは喋りだす。

「船長はアンタのことを“別の世界から来た女”とも言っていた。恐らくシャチ達もそれは聞かされただろう。船長にどういうことか聞いても“あの女に詳しいことは聞いてみろ”としか言わなかった。実際のところどうなんだ」

「んなこと船長言ってたな。でも、別の世界から来たなんてんなことあるわけないだろ」

「でもキャプテンそういうこと普段は信じようともしないよ」

別世界から来た。と、あり得ないことを言った身元不明の私をペンギンさんは警戒心を持っているようだ。一方、キャスケット帽子の男ことシャチさんは信じてしない。そして白クマのベポさんはどっちつかずと言ったところか



「多分、私は此処の世界の人間ではないと思うんです」


此処で嘘をついても何も得をすることはないだろう。まあ、私が電波な女だと思われるかもしれないが。私は話を続ける

「ってそんなこと言っても普通信じられませんよね。でも私がこの島に飛ばされてから

見たり聞いたりしてきたものは私の世界では考えられないものであり知らないことばかりなんで。こうなってしまうと別の世界に飛ばされてしまったというのが今の私に考えられる結論なんですよ。…貴方達の船長さんは私の荷物の中身をみて文化や文明が違うと分かったらしく信じてくれてみたいですけど。

まあ信じる信じないは皆さんの自由ですが、私のことは“別世界から来たと言っている女”とでも頭に入れといて下さい」

「“この島に飛ばされた”って言ったがどういった経緯でこの島に来たんだよ?」

私が一通り喋った後にシャチさんが不思議そうに言った。私が飛ばされた経緯を話すより初めにNEXTについて言っておいた方が色々と分かりやすいだろう

「飛ばされてしまったのにはNEXTが関わっているのでそちらの方から話してもいいですか?」

そう言ってシャチさん達を見ると皆「いいぞ」と言って頷いてくれた。


「NEXTって俺達と会った時にも言ってたね。それがサヤの力なの?」

「はい。ベポさんが今言った通り私の植物を生みだし操る力はNEXTによるものです。NEXTは超能力のことを指す言葉です。NEXTは誰でもなれるわけでなくNEXTを持っている人は少ないんです」

「そのNEXTの能力って個人によって違ってくるのか?」

「そうですね。攻撃に特化したNEXTの人もいれば情報等様々な面に特化したNEXTの人もいます。…中にはそれNEXTなの?って思う能力を持つ人もいますが。能力は千差万別と言ったところですね。以上がNEXTについての簡単な説明です。

では次に何故私がこの島にいたかという話をしたいと思います。実は私この能力を使って犯罪者等を捕まえる仕事をしているんですよ」

ヒーローのことまで説明しなくていいだろうと思いながら簡単に私の職業を言うとシャチさん達は驚いたと言わんばかりの顔をした。

「平和ボケしたような顔してんのにそんなことしてんのかよ!?」

シャチさんが驚きながら私に向かって言う。このような反応は向こうの世界でもよくされていたから多少は慣れてるが今、貴方結構失礼なこと言ったぞ。

「成る程、だからあの時狼狽えずに攻撃できた訳か」

シャチさんとは対照的にペンギンさんは何か納得したようだ。「私は今日も犯罪者を捕まえようとしていました。その犯罪者は瞬間移動のNEXTを持っていました。捕まえようとしたのですが…」

「反撃された、という訳か」

言おうとした言葉をペンギンさんに言われてしまった。それは事実なのだが第三者にそうはっきり言われてしまうと恥ずかしい。

「まあペンギンさんの言う通りです。瞬間移動の攻撃を受けてしまい気づいたらこの島にいたという訳ですよ」

恥ずかしさから心なしか声を抑えながら言うとシャチさんから「間抜けだなー」なんて言っているのが耳に入った。

この人はさっきから失礼なことを言ってくるな

「違う世界にも行けるなんてそのNEXTって凄いな」

ベポさんが感心しながら言うが、世界を越えるなんてNEXTでも流石に考えられない、あり得ないことなのだが

「しかしそんな凄い能力、今まで耳にしたこともなかったな」

「私としてはNEXTを知らない方が驚きですけどね。殆どの人達は知っている訳ですし。このことも私が別の世界に来てしまったかもしれない思った理由の一つなんですけどね」

私がそう言うとペンギンさんが「そう言えば別の世界から来たという設定だったな」と言ってきた。やはりペンギンさんはあまり信じていないようだ。








男ことペンギンさんと互いに名前だけの自己紹介を済ませる。しかしペンギンという名前、随分と個性的だな。それにペンギンさんが被ってた帽子、自分の名前が大々的に書かれた帽子を被っていることになる。自己主張が強い人なのだろうか。

そんなことを思ってたら扉が勢いよく開かれた

「しっかしNEXTってのを聞いてみると本当悪魔の実の能力に似てるな。お前の能力見たときロギア系の能力者だと思ったしよ」

シャチさんの言葉で思い出す。そうだ、私は気になったことがあったではないか

「あの、皆さんが言っているその“悪魔の実”と“ロギア”って何なんですか?」


悪魔の実

私の能力を見た人はそう口々にした。この世界にはNEXTと似た能力があるのだろう。
そしてそれが“悪魔の実”

「あー、悪魔の実って言うのわな“海の悪魔の化身”って言われる実でこれを食べるとすっげえ力が得られるんだよ。んで、悪魔の実を食べた奴らを能力者と呼ぶんだ。能力もその実によって違ってくるんだけど大きく三種類に分けられてその内の一つが自然系、ロギアって言われるんだ」

成る程、植物を出して操っていたから自然系のその、悪魔の実の能力者と勘違いした訳か


「悪魔の実の能力者かどうか確かめる為に海に投げ込まれたことってどういう関わりがあるんですか?」

私がそう言うと再びベポさんが謝ろうとしてきたのですかさず「謝罪の言葉はもう大丈夫です」と言う。

「悪魔の実を食うと凄ぇ力を手に入れる代わりに、海から嫌われちまうんだ」

「海から嫌われるって?」

「泳げなくなるってことだよ」

「えっ?」

“海の”悪魔の化身と言われてるのに海に嫌われるってどういうことなのなんて疑問を持った。
しかし、これで海に投げ込んだ理由はハッキリした。

「だからお前が海ん中で能力使ったときはマジで驚いたんだぜ」

シャチさんが私に向かってそう言うが、この人達は私のことを悪魔の実の能力者と思っていた訳だから私が海に投げ込まれたとき溺れるだろうと思ったんだろうな。


「それにしてもサヤの仕事は海軍みたいなもんだな」

「だとするとサヤは海軍から海賊になったようなもんだね!」

ペンギンさんとベポさんがそう言う。しかしその言葉は今一番気にしていることなので二人の言葉に私の気分は重くなる。


「皆さんが言っている海賊ってあの海賊ですよね…」

「どんな海賊を求めているのか知らないが、今お前が思っている海賊であっていると思うぞ」

「…ですよねー」

分かっていても認めたくないものなのだ。

「そんな落ち込もなって!自由でいられるし海賊も慣れると楽しいぞ」

シャチさんがそう言うが慣れてたまるか。

「皆さんが海賊をしている目的って何なんですか?やっぱりお宝を奪ったり、とかですか…?」

「宝っちゃ宝だけど俺達の目的はワンピースだしそれに奪うと言うより手に入れることだからなー」

「…えっ?」

今、シャチさんの言葉からワンピースって単語が出てきたよね。えっ私の聞き間違いとかじゃないよね。ワンピースってあれ衣服のワンピースだよね。
えっ、大の男が女性の服、ワンピース手に入れるために海賊しているってこと?
何その状況。

「…言っておくが服じゃないからな」

混乱している私を見て何を思っているのか理解したらしくペンギンさんが呆れた口調で言う。えっ、服じゃないの?

「じゃあそのワンピースって何なんですか?」

「ワンピース(ひとつなぎの大秘宝)ってのはゴールド・ロジャーが残した宝だ」

「ゴールド・ロジャー?」

「海賊王のことも知らないのかよ!?」

「別の世界から来たものですから」


シャチさんとそんなやり取りをする中、ペンギンさんの話は進む

「ゴールド・ロジャーはこの世の全てを手に入れた海賊王だ。今も言ったがロジャーが残したとされる宝がワンピース(ひとつなぎの大秘宝)という訳だ。このワンピースを手に入れる為に多くの海賊がそれを目指している」

「へー」

何となくそのゴールド・ロジャーが凄い人だと分かった。そして、その宝を手に入れる為に彼等は海賊をしているのだというのも分かった。
ペンギンさんの話を聞いてみると宝を目指していると言うのだから海賊より探検家や冒険家に近いもののように感じる。


「まっ、俺達も海賊だからたまーには悪いことをするけどなっ!」

良い方向に考えようとした矢先シャチさんその言葉に私の気持ちは急降下してしまった。もうこの人黙って欲しい






「そろそろ行くか」

食事を済ました私を見てペンギンさんはそう言った。私が食器を片付けようする前にペンギンさんは食器を取り上げ台所の方へと下げに行った。


……ああいうさり気ない気づかいのできる男の人って良いな


なんて小さなときめきを感じてたらペンギンさんはすぐに戻って来た。


「俺たちも一緒についてってやろうかー?」

茶化すかのように言うシャチさんに「お前等は自分の仕事でもしろ」とペンギンさんは少し素っ気なく言った。

「冷てーの。サヤ、また後でな」

「またなーサヤ」

シャチさんとベポさんの軽い別れの言葉に対し、私も「また後ほど」なんて軽く返す。そして私とペンギンさんは食堂を後にした。


ペンギンさんは船内の中を案内してくれた。船、ましてや海賊船なんて見る機会がないから楽しさを感じる。
しかし色んな部屋を案内してもらって気になることが二つ。


「ペンギンさん、ペンギンさん」

「何だ」

「先ほどから人に会わないのですが他の船員さん達は何処にいるんですか?」

「出かけに行った。夜にでもなったら戻って来ると思うぞ」

「成る程」

一つ目の疑問、解消。残りの疑問、あと一つ

「ペンギンさん、ペンギンさんではもう一つ」

「何だ」

「どうして船の中に手術室なんてあるんですか!?」

私が今案内された場所は手術室なのだ。大事なことだと思うからもう一度言おう。手術室なのだ!
船の中に診療室ならあると思うが手術室なんて普通あるものなの?何で手術室なんてある。


「船長は医者だからな」

混乱している私とは対照的にあっけらかんとペンギンさんは言う。しかしその言葉に私は手術室以上に驚く

「医者?医者ってあの、此処の船長さんが?」

「ああ」

「海賊なのに医者何ですか?」

「船長は船医でもあるんだ」

「スペック高いですね。でも手術室があるのは凄すぎますよ」

「船長は外科医だからな」

「そういうもんなんですか?」

「そういうもんだろ」


納得できない面もあるがそれよりも私はファー帽子の男の言葉を思い出していた。ファー帽子の男は、逃げよとしたら足を斬り落としてやる的なことを私に言った。その時は男の剣幕と脅しで私さガクブル状態だったけど、今手術室を目の前にして理解した。
あの男は本当に足を斬り落とすことが可能なのだと。
その事実に血の気が引き、体が震え出した。



生きた心地がしないままペンギンさんに連れて行かれた場所は小さな部屋だった。ベットと机と椅子、そして何も置かれてない棚があるだけの簡素な部屋。「此処がお前の部屋だ。俺は用があるから此処で待機してろ。何かあったら呼ぶ」

ペンギンさんのその言葉に私は「分かりました」と頷きながら言う。

「それと」

ペンギンさんはまだ言いたいことがあるようだ。

「逃げようなんて、思うなよ」

その言葉に私の心臓は大きく跳ねた。そんな私の変化に気づいているのか、もしくはきづいていないのか分からないがペンギンさんは喋り続ける。

「感づいていると思うがあの人は自分に刃向かう、逆らう人間には容赦しない。自分の身が大事だと思っているなら逃げようなんて考えはやめとけ。念のため扉に鍵を掛けさせてもらう」


そう言ってペンギンさんは部屋から出て行ってしまった。


「……はあっ」

とりあえず、ベットの上に腰を下ろす。そして出てくる重い溜息
ペンギンさん達との会話で別の世界に来てしまったと確信した。こうなってしまったらこの世界で戻る方法を探すしかない。


本当に戻ることなんてできるの?

頭の中でそんなことを思ってしまう。私が此処に来てからあっちの世界はどれ位時間は経過しているのだろう。でも遅かれ早かれア

ニエスさん達に私が夕暮れピエロに遭遇し、飛ばされたことは耳に入るはずだ。
皆、私のこと探してくれるかな?でも、何処を探しても私は見つからない。だって違う世界にいるのだから、私の知っている人は誰一人いないのだから、見つかるなんてできっこない。
私が見つからなかったら行方不明に扱いになるんだろうな。お母さん達心配するだろうな。「ヒーローなんてやらせるんじゃなかった」なんて言うかも。
私がいなくなったら社長や会社の皆にも迷惑掛かるだろうな。でもすぐに新しいヒーローを見つけるかもしれないか。あっ、でもそうなると私、クビになるってことだよね

悪いことを一つでも考えてしまうと、連鎖でもするかのように次々とネガティブなことを思ってしまう。そして目から涙が流れる

「…っ、うっ、…うっ」


涙を止めようとしても私の意志とは反対に溢れ出る。

どうしてこんなことになってしまったのだろう。
あの時、男の子達を気にせず通り過ぎれば良かったの?
夕暮れピエロを見つけても一人で何とかしようと思わなければ良かったの?
私の考えのミスでこうなってしまったの?


ああしていれば良かった。こうしなければ良かった。と後悔が私に押し寄せる。今ここで後悔したって何の意味がないのに


それにこの船にいたら、海賊になってしまったら人を傷つけてしまうかもしれない。この能力が人の役に立つならと思ってヒーローになったのにこのままだと私はヒーローとは逆の位置にいる、犯罪者になってしまう。
そんなこと嫌、したくない。なりたくない。でも此処からはそう簡単には逃げることができない。


どうしたらいいの?
私一体、どうなっちゃうの?

そんな疑問を思っても今の私には答えを見つけ出すことなんて、できない。


報われない未来

お題,コランダム

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