あの光景を見て私は無我夢中で走った。そして気付いたときには街から離れた人気の少ない場所にたどり着いていた。結構全速力で走っていたからか息切れが激しい。走るのをやめ呼吸を整える。
息切れで呼吸をするのが苦しいがそれと同時に足に疲れを感じた。そういえばトレーニングを終えてから結構な距離を歩いたり走ったりしていたから疲れが溜まってしまったのだろう。何処かで足を休めよう。それと少し頭が混乱していから冷静になろう。
そう思い何処か腰を下ろせる場所はないか周りを見回していると此方に向かって歩いている人達が目に入った。

その人達は三人の男性で、二人はつなぎを着て帽子をかぶっている。一人はつなぎを着ていない。ファー帽子をかぶっていて手には男の身長以上の日本刀と思われる長刀を持っている。その長刀を所持しているということから彼等が一般人ではないというのは感じれられる。しかし男の長刀よりも目を惹かれるものがそこにいた。

男達は白クマを連れて歩いている。
もう一度言おう。白クマを連れて歩いているのだ。

しかも動物園で見るような白クマではない。服を着て二足歩行で歩いているのだ。

“白クマ”がだ。

白クマらしくないその白クマの存在と、そんな白クマを癖のありそうな男が連れて歩いているというギャップに何だあれはと思いながらまじまじと見ていたら、こちらに向かって歩いているファー帽子の男と目が合ってしまった。急いで私は彼等から目を逸らす。「おい何テメーじろじろ見てんだよ」なんて言われたらどうしようとハラハラしていたが何も言ってこない。どうやら気にしていないというか私のことは眼中に入っていないようだ。絡まれなくて良かったと心の中で安堵する。
気付けば男性達がすぐ近くまで来ていた。このままだとすれ違う。すれ違うのは何だが気まずいから彼等から少し離れた場所に行き休憩できる所を探そう。あの白クマのことは気になるが

そう決め歩きだそうとしたら


「見つけたぜ!懸賞金2億ベリー、トラファルガー・ロー!!」


男の大声が聞こえてきた。何だと思い声がしたほうを見ると、人気が少ない場所だったはずなのに何処からともなくぞろぞろとガラの悪い男達が20人程現れた。しかも全員銃やら刀等物騒な物を所持している。本当に何処から現れたと思ったのだが男の言葉が気になった。ベリーとはこの島の国の通貨の名前なのだろうか。しかしベリーという通貨、聞いたことはない。
ベリーの価値がどれ程のものなのか分からないが懸賞金2億って…この人達、悪い人どころか下手したら世界的なお尋ね者ではないか。


「お前の首、貰い受けるっ!」

私が少し考え込んでいるのを余所に武器を所持した男達は“懸賞金”が掛けられているらしい彼等に襲いかかってきた。私は彼等の近くに立っている。そうなると武器を所持した男達は私の方に向かって来てる訳でもある。

えっ、ちょっと待って

「船長、此処は俺たちが!」

つなぎを着た男の一人がそう言ったと思ったら、つなぎの男二人と白クマが私の存在なぞ目もくれずに襲ってきた男達との戦闘を開始した。

だからちょっと待て

それに白クマも戦うんかい。しかもあの白クマカンフーのような動きで戦っている。何あの白クマ

此処にこのままいたら危険なので逃げよう。そう思い走り出そうとしたのだが刀を所持した男が私の目の前に現れた。


「お前もトラファルガーの仲間か!」

どうしてそうなる。

どう見ても違うだろ。明らかに私はこのゴタゴタに巻き込まれた一般人だろ。

「いえ全くもって違います。私は邪魔だと思うので今から去ります。なので私のことは気にしないで下さい。では私はこれで」


冷静さを装い、そう言ってこの場から去ろうとしたが男が私の腕を掴んできた。男は下品な笑みを浮かべながら「こいつは人間屋(ヒューマンショップ)に売り飛ばすか」なんて言ってきた。ヒューマンショップとは何なのか分からないが男の言葉から“売る”という言葉が出たので穏やかなものではないことは明らかだった。

「離して!」

怪我を負うのとはまた違った身の危険を感じた私は男の手を必死になって振りほどこうとするが中々離れない。そんな私に男は苛立ったのか「大人しくしろ!」と言って掴んでいない手で私を殴りかかろうとしてきた。

「…っ!」


殴られる
そう思った私は自己防衛からか無意識に能力を発動し生成した木で男を攻撃してしまった。私の攻撃を受けた男は低い唸り声を上げ地面に倒れた。掴まれていた腕が自由になり今度こそ逃げようとした。が、

「あの女、能力者だぞ!」


私と男の一連の行動を目撃してた男が大声をあげ言ってきた。その男の声に反応した他の男達が「能力者だと!?」なんて言いながら私に向かって来た。

だから何で私に攻撃しようとする。貴方達の目的は私ではなくあっちでしょ!あっち!!
どうしてこっちに来る!!

男達の行動に苛立ちと、ガラの悪い男達が武器を所持して私に向かって来るということに少し恐怖を感じた。この状況で逃げても捕まってしまうであろう。こうなったら男達の動きを止めるしかない。
覚悟を決め、私は再び能力を発動した。

ヒーローの時、複数の武器持ちの犯罪者相手に攻撃されるなんてことはよくある。でもそれはヒーロースーツを着用しているまだ安心して相手とやり合うことができる。しかし今回はヒーロースーツを着用していない無防備な状態、相手の攻撃を受けないよう集中し攻撃してくる男達を倒す。次第に私に攻撃を仕掛けてくる人はいなくなった。一方、攻撃をしかけた男達は皆地面に気を失って倒れている。
意識を戻し襲ってきたらやっかいなので更に蔦で身体を縛りあげ、暫くは動けないようにする。
最後の一人を縛りあげ少し達成感を感じていたら誰かが此方を見ている様な気がして視線があると思われる方を見てみると、気を失っている男達の当初の目的であった白クマを連れている彼等が私のことを見つめていた。つなぎを着ている二人は口をぽかんと開けている。


「………失礼します」

この何とも言えない空気に耐えれられないのでとりあえず彼等に挨拶し此処から去ろうとする。


「待て」

「はっはい!」

急に呼びとめられ反射的に答えてしまった。私を呼びとめたのはファー帽子の男だった。先程は白クマに目が行きあまりこの人のことを見ていなかったがよく見るとファー帽子の男はイケメンの部類の顔立ちをしている。が、目の下の隈のせいか目つきが悪く見えそして不健康そうである。そして両腕には入れ墨が入っている。
凄く怖そうなお兄さんであることが判明した。
この場から走って逃げだしたいが男から「逃げたらどうなるか分かるだろうな」という雰囲気が伝わってくるので怖くて逃げだすことができない。先程攻撃してきた人達とは違いやっかいな人物だということが感じられる。
ここは男の話しに耳を向け適当に話しこの場をやり過ごそう。そう決め込み男が何を喋るのか待ってると

「ロギア系の能力者か」

私がNEXTであるかどうか聞いてきた。しかし男の言葉が気になる。ロギアとは何なのだ。この島ではNEXTのことをロギアと言うのだろうか。しかしNEXTは世界共通の言葉であったはずだからそれは変だ。
それにロギア“系”と言っていた。何かの種類別の言葉なのか。
私が男の問いに答えず不思議そうな顔をして考えているので、男は違う問いかけをしてきた。


「何も知らねぇで悪魔の実を食べたのか」


「んー?」

男の言葉は更に分からないものだった。何だ悪魔の実って物騒な名前だな。どういった経緯で食べ物にそんな名前をつけたんだ。そして、まるでその悪魔の実というのを食べたから能力がついたとでも言うような言い方。一体何だって言うんだ。

「…悪魔の実を食ってないっていうのか」


私が又も考え込んで答えないことに男は次の問いかけをしてきた。今度の問いには答えることができる。

「食べてない、と言うより私はNEXTですからその悪魔の実というのは食べる必要はないと思います」

そう答えると今度は彼等が不思議そうな顔をした。

「NEXTって何だ?知ってるか?」


「いや?」

つなぎの二人がそんなことまで言っている。NEXTのことを知らない?
NEXTは45年前と近年存在が発覚したが今では世界中に知られている。知らないなんてそんな、あり得ない。

「おい」

私が焦りと不安を感じていると又もファー帽子の男が話しかてきた。
今すぐにでもこの場を去り、駐屯所に行き真実を知りたい。早くこの人達との会話を終わらせよう。そんなことを考えながらファー帽子の男を見ると、今まであまり無表情でいた男に笑みがうかんでいる。だが笑みと言っても楽しくて笑う笑みではない。バーナビーさんの十八番である営業スマイルのようなものでもない。男は何か悪いことを考えているような、そんな笑みを浮かべている。男の笑みに私は背筋が寒くなるのを感じた。そういえば人達は懸賞金が掛けられていることを思い出す。

「その話、じっくり聞かせてもらおうか」


男の言葉を聞いた瞬間私の頭の中で警報が鳴り響いた。男からは未だに「逃げたらどうなる」という雰囲気を漂わせているが逃げなければ、でなければ厄介なことになる。


「いやーお話したいのは山々なんですが私今から用事があるのでちょっと無理なんです。お会いする機会があったらその時に詳しくお話しますね」

さようならーと彼等に向かって別れの挨拶をする。足の疲れか少し痛みを感じる。休憩したいがそんなことをしている余裕んてない。姿が見えなくなったら何処かで休憩しその後に駐屯所に向かうとしよう。そんなことを思いながら街に向かって歩いていたら


「ベポ、捕まえろ」

「アイアイキャプテン!」

そんな会話が聞こえてきたと思ったらこっちに向かった走ってくる足音が聞こえた。まさか…と思いながら足音の方を見ると白クマが私の方に向かって走って来ている。


「えええー!?」


白クマが私を捕まえようとしているまさかの光景に大声を上げてしまった。
それに今の会話からだと白クマが喋ったのかと気になったがこのままだと白クマに捕まってしまう。
走って白クマから逃げるが、私の足は疲れきっていて思う様に速く走れない。一方白クマは物凄い速さで走り私を追って来る。

捕まってたまるか。その思いで私は能力を発動した。蔦で攻撃しそのすきに身体を縛りあげ動きを止めようとするのだが、この白クマやはりすばしっこい。私の攻撃を避ける。白クマの動きを止められないのなら動けなくなるような場所を作ってしまえばいい。
巨大な荊を数本生成し白クマの周りを囲み動けなくする。念の為男達の周りも白クマ同様周りを荊で囲む。巨大荊の檻の完成だ。
この巨大な荊に白クマは「何これ!?」と驚いている。やはりあの白クマ喋れるのか。

こうなってしまえば追って来ることはできないだろう。「フハハハハ!残念だったな!」と心の中で高笑いしながら私は走る。

しかし此処は本当にどうなっているんだ。安全な場所なんてないんじゃないか。そう思いながら走っていたら目の前に透明な薄い壁のようなものが現れた。
何だこれ?と思った次の瞬間、視界が歪んだ。しかし歪みは一瞬で納まる。疲れて目の錯覚でも起こしたのだろうか。そう思ったのだが、目の前に広がる光景に目を疑った。

荊があるのだ。私の目の前に。どうなっているのだと周りを見回すと私は茨の檻の中にいた。そして走っていた場所にはキャスケット帽子をかぶったつなぎを着た男が一人立っている。

「えっ…何で?」

どうして私が檻の中にいるのか。訳が分からず混乱していると「選ばせてやる」

近くから声が聞こえた。その声に再び背筋が寒くなるのを感じた。恐る恐る声のする方へ顔を向けるとファー帽子の男とつなぎのペンギンとスペルで書いてある帽子をかぶったつなぎの男がいた。


「話をするかしないか、選らばせてやる」


ファー帽子の男がそう言う。


「いやだと言ったら今度は逃げられない様に足を切り落として無理矢理にでも話を聞くがな」


選ばせてやるなんて言って選ばせるつもりはないじゃないか。男の言葉に口元が引きつるのを感じた


Come here,my dear


お題,秘曲

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