目の前の人の口から光が放たれたと思えば大きな爆発が発生した。前後撤回、口からビームを出す"人"なんていてたまるか。あれはロボットだ。そうに違いない。
非現実的な光景に理由をつけ無理矢理納得する。とにかく、あのロボットを何とかしないと先に進むことができない。

「後ろから海兵が来るぞ!」

誰かが焦った声でそう伝える。走って来た道を見ると此処まではまだ距離はあるが海兵であろう小さい人影が沢山見える。しかし、シャチさん達とユースタスさんとその仲間の人達は後ろの海兵ではなく目の前のロボットに意識を集中している。海兵が此方に辿り着く前にあのロボットを倒すつもりでいるのだろうか。だが、ロボットを倒せず海兵が此処までは辿り着いてしまったら?
あのロボットを何とかするのでも骨が折れそうなのに相手側の援軍があんなに来られてから戦うなんてこちらが不利になるのは目に見えている。このまま海兵に素直に捕まっても、天竜人を傷付けた海賊の一味と私は見なされ最悪の未来を辿る確率は高いだろう。

………………………本当はこんなことをしたくない。だけどこれしか方法が思いつかない。………………本当はこんなことしたくない。が、逃げる為だ。そう自分に言い聞かせ、私は一人だけロボットから背を向け先程走った道へ戻る。

「おいっ、何してんだよ!」

皆から背を向けて走ったので逃げると思ったのだろう。シャチさんが大声を上げて付いて来た。今はシャチさんの相手をしている余裕がない。刻一刻と海兵は此方へと向かって来ているのだから。
此処からだとまだ距離はあるがはっきり海兵達の姿がはっきり見える。凄い大人数。あんなの一人一人相手をしてられるか。

能力(NEXT)を発動する。

此方に向かってくる海兵達の周りを巨大な荊を数十本も生成し、海兵達を巨大な荊の檻で此方に来られないよう囲い込む。檻を突破する人達が現れる恐れもあるので、檻の周りを数十本の巨木でこちらの様子が見えなくなる程に囲み込む。これなら簡単に突破はできないだろう。
私の能力は、他の能力を持つヒーロー達に比べると攻撃では劣ってしまう面がある。だが長時間相手を拘束する、動きを止めるという面では一二を争っていた。しかし私のいた世界、シュテルンビルドはビルが沢山あるコンクリートジャングルの大都会。土地の都合と、お偉い方の都合で凄くピンチな場合じゃない限り力を抑えて能力を使っていた。一方この場所は建物が少なく緑も多く植物を生成しやすい。皮肉なことに此処は私の能力が思いっきり使える最高の場所なのだ。
巨木であちらの様子を確認することができないが突如植物が生え自分達を取り囲んだことに海兵達は混乱と動揺をしているようだ。よし、これでこっちは暫くの間は何とかなるだろう。そう思っていたら突然シャチさんに両肩を掴まれ揺さぶられた。

「サヤ、よくやった!お前の力すげえよ!!」

シャチさんが興奮した口調でそう言うが揺さぶるのは止めて下さい。頭グラグラする。

「よし今度は七武海もこの調子で倒してくぞ!」

揺さぶるのを止めてくれたシャチさんは意気込みながらロボットの方へと走って行った。シチブカイって何?あのロボットの名前?そんな疑問を抱きながロボットがいる方へ走る。

戻るとベポさん達がロボットと戦っている最中だった。私の戦闘スタイルは先程も述べたが能力(NEXT)有りきの攻撃や拘束である。同じヒーロー仲間で能力以外にも肉弾戦も得意なドラゴンキッドやワイルドタイガー達とは違う。よって、私が接近戦であのロボットと戦ったりでもしたらビームの餌食になり即お陀仏だ。なので、少し遠くからロボットの様子を伺う。
ユースタスさんの仲間、仮面の人が刀で攻撃してもロボットは腕でガードをする。ガードした腕には傷一つ付いていない。ユースタスさんの他の仲間がロボットに炎を放つ。ロボットは炎に包まれるが一瞬で消し去り、ダメージを受けていない。今度はベポさん達が肉弾戦で攻撃をするがこちらもダメージは今ひとつ。むしろ、攻撃を見切りかわしていく。ベポさんが足を狙って攻撃をしたがベポさん自身がダメージを受けて地面に蹲ってしまった。打撃戦だと下手すると自分にダメージが返ってくようだ。そんな蹲ってるベポさんにロボットは攻撃を仕掛ける。


「危ないっ!」

巨大な荊をロボットの身体に巻きつけ動けない様にする。その間にベポさんにあそかから離れて貰おう。そう思った矢先、バキバキと穏やかでない音が耳に入る。音の正体は荊が壊された音であった。


「えっ!?」


あのロボットに巻き付けたのは蔦じゃなくて荊だよ!?それも巨大な荊!私の荊は弱点の炎でもない限り傷を付けたり壊すのは至難の技だ。それをあんな意図も簡単に壊すなんてなんて怪力なの!?
いや、そんな事よりベポさんを助けなくては!ベポさんを助ける為もう一度能力を発動しようとしたら


「ROOM」

ファー帽子の男が何か呟いた。それと同時に現れた半球体の円。これって…


「シャンブルズ」

次の瞬間、ベポさんと先程仲間になった男性の位置が変わっていた。これだ。私が捕まったのもこの攻撃をされたからだ。昨日、私が捕まる直前も薄い壁みたいなのがあったがあれは半球体の円だったのだ。だけど何、あの能力?謎は深まる一方だ。
私がやっとファー帽子の男の能力を目の当たりにしている間も先程仲間になった男性とロボットは力比べをしている。五分五分といったところだろうか。


「じれってぇな。これならどうだ!」

ガチャガチャと音がすると思ったら、ユースタスさんの両腕に大量の金属が集まり巨大な金属の腕を作り上げていた。その腕をロボットにぶつける。今までで一番重い音が響き渡り攻撃を受けたロボットは地面にのめり込んでいた。

「す、凄い…」

頑丈だったロボットをたったの一撃で倒すなんて。ユースタスさんは勝ち誇った表情でロボットに背を向ける。が、


「まだだぜユースタス屋」

ファー帽子の男がそう言ったのと同時にロボットは立ち上がる。立ち直るのはやっ!普通、暫くは動けなくなる流れでしょうこれ!?

「まだ喰らいたらねぇみたいだな」

ユースタスさんは再度金属を集め攻撃をしようとする。一方、ロボットは手袋を外した手をユースタスさんに向ける。手のひらから光が漏れる。あ…あれってまさか。
本能的に私の前に木を生成する。次の瞬間、爆風と炎が襲いかかる。爆風で飛ばされそうになるのを木に必死にしがみつき阻止する。手からもビームが出るなんてそんなの有り!?

「うぅ…」

爆風も収まり木から離れて周りを見る。他の人達もビームの直接的な攻撃は避けたようだがダメージは負っている。

「来るぞ」

ファー帽子の男の言う通りロボットはビームを撃ってきた。しかも見境なしな乱射。皆、ビームを避けて攻撃をする。一方、運動能力は一般の平均より少し上程度の私はこのビームを避けるのに命懸けである。あんなビームを喰らってでもみろ。文字通り“死んでしまう”皆がロボットを接近戦で倒そうとするが中々上手くいかない。だったら

「これなら、どうだあぁぁ!!」

どんな生物(今戦っている相手はロボットだが)でもバランスを崩すと集中力が途切れ十分な力が発揮できなくなる。二足歩行の生物のバランスを支えているのは“足”だ。ロボットの足に能力で発動した巨大な荊を巻き付ける。ロボットは突然の事に足取りがおろそかになる。バランスを崩したロボットを巻き付けている荊で持ち上げ、地面に叩き落とす。相手に攻撃を与える隙を作らせては駄目だ。もう一度攻撃をして畳み駈けなければ。もう一度ロボットを地面に叩き落とそうとするとロボットが手をこちらに向けてきた。やばいっ!
ロボットへの攻撃を止め、私の目の前に何本も巨木を生成する。ロボットが私に向けてビームを放つが生成した巨木が盾になりビームの威力を落とす。しかし、爆風でバランスを崩し今度は私が倒れてしまう。

「っ……」

立ち上がろうとしたらロボットがこちらにビームを放とうとするのが見える。今から能力を発動しようとしてもロボットの方が攻撃を仕掛ける時間が早かった。今、私が能力を発動したとしてもロボットのビームには間に合わない。ビームを避けるにしても身体が倒れた衝撃で素早く動くこともできない。ビームの光で明るくなり何も見えなくなる。



私、死ぬの?


何もできず、ただ漠然としていると光が消えていた。


「えっ…?」

いや、これは光が消えた訳じゃない。私がいた場所が変わっているのだ。こんなことできる人なんて一人しかいない。顔を横に向けるとファー帽子の男が立っていた。やはり、この男が私を助けたのだ。

「あり…ありがとうございます」

ファー帽子の男にお礼の言葉を言う。だって、私この人の助けがなければ死んでた。今この瞬間、こうして存在することなんてできなかった。その事実に背筋が寒くなる。


「おい、七武海野郎!」

男の大声で私の意識ははっとする。大声の主はユースタスさんだった。ロボットはユースタスさんに標的を替え口からビームを出す。

「危ない!」

近距離からのビームをユースタスさんは金属の腕でガードする。爆発がロボットとユースタスさんを包み込む。仲間の方々はユースタスさんの名前を呼ぶ。爆発によって起きた黒煙でユースタスさんの安否は分からない。次の瞬間、お腹に金属の腕がめり込んでいるロボットが思いっきり跳ばされ宙を舞いながら現れた。そして真っ逆さまに頭から地面に落ちる。それと同時に黒煙も薄れる。でそこには肩で息をするユースタスさんが立っていた。ユースタスさんは勝利宣言をし仲間共に喜んでいる。しかし、それも束の間。ロボットは立ち上がった。

「嘘でしょう!!?」

あれで倒せないなんてどうやって倒せばいいの!?ロボットはユースタスさんにビームを放とうとする。それに対しユースタスさんはやはりダメージが大きかったのか攻撃をする力が残っていないようだ。どうしようと焦っていた時だった。気付けばファー帽子の男がロボットに刀を刺していた。その攻撃が効いたのかロボットは倒れ動かなくなった。

「…今度こそ倒したの?」

数秒経ってもロボットが動く気配はない。倒したんだと確信した途端、私の足は力が入らなくなり座り込む。怖かった。本当に怖かった…。
しかし安心しているのも束の間、私が檻を作った場所とは違う方向から海軍がこちらに向かってきた。立たなきゃ。そう思い足に力を入れようとするが、力が入らない。どうやら恐怖で腰が抜けてしまったようだ。って、いやいやいや“腰が抜けてしまったようだ”なんて冷静になってる場合じゃないぞ!誰かに手を貸して貰わなくては!シャチさん達が近くにいないか周りを見渡したら。

いた。

シャチさん達ではなくファー帽子の男が私の近くに立っていた。

「……」
「……」

気まずい。だが、このままでは立つことすらできない。

「あの!」
「キャプテーン!海軍があっちから沢山来てるよ!って、サヤなに寛いで座ってるの?」
「…いや、これは」

勇気振り絞ってファー帽子の男に声を掛けようとした途端、ベポさんの声で遮られてしまった。あと寛いでるわけじゃないから。ベポさんに理由を言おうとした瞬間

「こいつは腰を抜かして動けねぇんだ。ベポ、そいつをおぶれ」

ファー帽子の男が私の代わりに説明をした。その内容に「そうなんだ」とベポさんは納得をし私を持ち上げおんぶをしてくれた。

「おい」

ベポさんもこもこして気持ちいい。そんなことを思っていたらファー帽子の男が声を上げた。ファー帽子の男はベポさんやシャチさん達のことを呼ぶ時は名前呼びだ。そうなると声を掛けた相手は必然的に私となる。緊張感の欠片もないことを思っていたのがばれてしまったか。


「は、はいっ!」
「ムラのある動きが目立ったが、初陣として見れば上出来だ」
「………えっ?」
「ベポ、行くぞ」
「アイアイ、キャプテン!」
「…えっ?えっ?」

ファー帽子の男の合図でベポさんは走り出す。走っている途中、追ってきた海軍に攻撃をし、その衝撃で私は振り落とされないように必死だったが、あの一言が私の頭の中で一杯になっていた。

“上出来だ”

…褒められた?

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お題,コランダム

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