「虎徹さんっ!」

此処は私のいた世界ではない。私の知っている人は誰もいない。ひとりぼっちになったしまった。
そんな事実に不安と孤独でどうにかなってしまいそうな時に聞き慣れたあの人の声。私の知っている人の声。咄嗟に声がした人の腕を掴んでいた。そして私は腕を掴んでいる人の顔を見る。

そこにいたのは黒いスーツを身に纏った金髪の男性であった。


「……誰?」
「知らねぇのかよッ!?」

虎徹さんだと思ったら知らない人というまさかの展開に思考が止まりかけたがなんとかその一言を言うことができた。その私の一言にシャチさんが思いっきりツッコミを入れてきたが。

「えっ、と…その、私……」

人違いをしてしまうなんて思っていなかったから戸惑いと恥ずかしさで頭の中が混乱してしまう。しかし、掴んでいるこの手は離さなくては。そう思い、手を離そうとしたら、金髪の男性が腕を掴んでいない手で私の手を握ってきた。

「こんな可憐なレディに声を掛けて貰えるなんて俺はなんて幸せ者なんだあぁ〜!」

金髪の男性が締まりのない顔で突然そんなことを言ってきた。金髪の男性の言葉に長鼻の男性のは「いや明らかに人違いだろ」とツッコミを入れたが金髪の男性にはそのツッコミは残念ながら耳に入っていないようだ。しかし、これで完全に理解した。この人の声、瓜二つと言っていいほど虎徹さんに似ている。だから勘違いをしてしまったのだ。
…でも、よく考えたらそうじゃない。此処に虎徹さんがいるはずないじゃない。些細なことにすがりつこうとする。助けてほしいと思っている。
私の心は自分で思っている以上に追い詰められていたようだ。

「貴方と声が似ている人が知り合いるので…人違いを、してしまいました……。ごめんなさい。私…」

小さな期待もすぐに打ち砕かれた私の声は情けないほど震えていた。今の私の顔は酷いものだろう。人違いをしておいてそんな表情をするなんて相手に失礼なこと。男性がどの様な反応をするのか怖く、男性の目をみることができず視線をに落としてしまう。
私の肩にぽんっと手が置かれた。戸惑いながら視線を上げると男性は先程の締まりのない顔をしていなかった。

「間違いは誰にでもあることだから気にしないでくれ。むしろレディが悲痛な顔をしていると俺も悲しくなる」「ご、ごめんなさい」
「…レディ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「サヤです。来栖サヤと言います」
「サヤちゃん、探し早く人見つかるといいな」
「!」

男性は私の様子をみて誰かを探しているのだと察したのだろう。私に優しい言葉を贈ってくれた。
外見は違う。虎徹さんが言わないだろう言葉を言う。だけど、この人は虎徹さんの様に優しい人なのだと感じた。全く違うけど知っている人の面影を感じ、抑えていた涙が溢れ出しそうになる。駄目、泣くなサヤ。泣いてしまったらこの優しい人を困らせてしまう。この人は悲しそうな顔をいないでと言ったじゃないか。言ったそばから泣いてどうするんだ。
涙を堪え、真っ直ぐと男性を見つめる。

「はい、見つけられる様に頑張ります!あの、私も貴方のお名前を聞いてもいいですか?」
「サンジと申します。レディ」

金髪の男性の、サンジさんは素敵な笑みで自己紹介をしてくれた。私も出来る限りの笑みをサンジさんに返す。

「サンジさん、ありがとうございました」

深くお辞儀をした後、シャチさん達の所へ戻る。
探し人は此処では見つけることができないかもしれない。そんなネガティブな思いは心の隅にあったが、この世界で触れた小さな優しさに私の心は一時的なものかもいれないが、満たされていた。


「サヤ、今の…」
「ペンギンさん」

シャチさん達の所に戻ると、ペンギンさんが何かを言いたそうだった。ペンギンさんの言葉を私は遮って言う。

「此処にいたら危険なんですよね?だったら早くあの人を追って此処から出なきゃ」

今の話題を彼らには追求して欲しくなかった。そのことを直接は言わないが、言葉で態度で拒絶の意を表す。私の気持ちを読み取ってくれたペンギンさんはやれやれと言うかのようなため息を小さく吐く。

「そうだな。取り敢えず出るか」

そう言って歩き出す。…ごめんなさい、もう少し気持ちが落ち着いたら話したいと思うから待っていて下さい。



「そういえば、あの人一人だけ先に行ってて大丈夫なんですか?」

外に出る扉を目指し私達は歩く。もう一度言おう。走っているのではなく“歩いている”のだ。この屋敷は海軍が囲んでいるとファー帽子の男は言っていた。きっと外には武器を所持した多勢の海軍が待ち構えているはずだ。そんな危険な場所に一人で行ったなんて大丈夫なのだろうか。そして彼等は何故こんな状況なのに走らないで歩いているのか。

「船長がこれくらいでやられるわけないだろ」

シャチさんが当たり前のように言うが、いや私のあの人の力がどれだけのものなにかちゃんと理解していないから。

「船長だけでも余裕だろうけど、麦わらとユースタスもいるし大将がいなきゃ楽勝だろ」

あいつらと言うのはあの会場にいた他の海賊のことのようだ。麦藁というのはあの麦わら帽子の彼のことだろう。って、あれ?“麦わら”って

「麦わらって、さっきの麦わら帽子を被った人ですよね?あの人が3億の“麦わらのルフィ”なんですか?」

あの時のあ状況では思い出すことができなっかったが今になって数時間前のレストランでの会話を思い出す。

「なんだ麦わらの手配書見たことなかったのが」

シャチさんが呆れるが、だから昨日この世界にきたというのにあれが誰でなんて分かるわけない。それよりも“麦わらのルフィ”ってファー帽子の男より1億も金額が上の人じゃない。確かに彼の行動には驚かされたが、想像の中の“麦わらのルフィ”はもっと怖くて危険な人だった。それに“ユースタス”も億越えの一人って言ってたような…。では、外では3人の億越えが戦っているってこと?

「もしろ心配なのは船長じゃなっく海軍の方だな」

私が状況を理解したのを見て、シャチさんが悪そうな笑みを浮かべながらそう言った。


外にでると信じられない光景が目の前に広がっていた。大量の刀や銃そして鈍器等が錯乱し、大勢の海軍の人達が倒れていた。
たった3人で恐らく短時間でこんな状況にするなんて通常の肉弾戦だったらまずあり得ない。一体あの人達はどんな戦い方をしたというのだ。そんなことを思っていたら、負傷していない海軍がぞろぞろ出てきた。

「全兵一斉攻撃を開始する!!海賊共を討ち取れーっ!!」

海軍の指揮官が大声を上げて指示を出した。

「………って、えっ?」

ちょっと待って、海賊“共”って言った?それって私も…
なんて思ってたら海軍の人達はが私に銃を向けてきた。

「やっぱり私も含まれてるーっ!?」

いやいやいや!待って誤解です!私、海賊じゃなくて無理矢理誘拐された一般人!

「待って下さい!私は、」

話を聞いて貰おうとしたら、ベポさんが海軍を足蹴りで倒した。ちょっ、おま!何してるの!?海軍に狙われてた私を助けてくれたようなので本当だったらありがたいのだけど、何してるのー!?
私の当初の目的は海軍に助けてもらうこと。しかし犯罪者と見なされているなんて。確かに、ドクロマークの服を着ているからはたから見れば海賊の一味と思うだろう。だけど違うんです。これには深い理由があるんです!しかし、海軍の方々はそんな話聞く耳持たず攻撃をしかけてくる。
私達は何もしていないのに攻撃をしてくるなんて…いや、ファー帽子の男が海軍に攻撃したからしてるか。で、でも事の発端は私達ではないのに共犯扱いをするなんて私達が一体何をしたと…いや、“海賊”だからこんなことになっているのか……。

探し求めていた海軍に出会えたかと思ったら、どうしてこうなった。

NEXTの能力で木を生成し発泡してくる銃弾から身を守るが、ショックで立ち尽くしてしまう。それに見兼ねたシャチさんが「何してんだ行くぞ!」と私の腕を取り走り出した。




走って逃げるが海軍は襲いかかってくるがベポさん達が次々と倒していく。そして高速服らしき服を着た大柄の男性が私達と一緒に逃げている。ファー帽子の男があのどさくさの中、勧誘して仲間にしたらしい。何してるのあの人

「お前新入りだから俺の下ね!!」

ベポさんが大柄の男性にそう言ってる。以外と上下関係には厳しいみたいだ。

「こっちはサヤ。昨日入ったばかりでお前と同じ新入りだから」

続けてわたの紹介までしてた。大柄の男性はチラリとこちらを見る。その表情は少しだけ怪訝な色を浮かべていた。大まか「何故見るからに一般人の女が仲間なんだ?」と思っているのだろう。

「よろしくお願いします…」

取り敢えず挨拶をすると大柄の男性から「ああ」と返事が返ってきた。そんなやり取りをしているとシャチさんが何かを見つけた。

「船長!アレ…」

その声色は驚いているみたいだ。シャチさんが指差す方を見ると人がいた。あの人は先程ファー帽子の男と麦わらのルフィさんと一緒に海軍に喧嘩を売ってた、ゆ、ゆ…ユースタスさんだ。とその仲間達。それにあの人達と向かい合ってすっごく大きい何かがいる。何あれ人?
シャチさん以外の皆もその大きい人を見て驚いている。恐らく海軍の側の人間なのだろう。そして、先程かの海軍の人達よりも厄介な相手。どんな攻撃を仕掛けてくるのか身構えていたら口からビームを出してきた。あんな攻撃予想できるか!


緩やかに続く悪夢

お題,コランダム

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