おぶって貰ったのは良いが、追ってくる海軍をベポさんは私がいるのを気にせずにガンガン攻撃をしている。落ちてたまるかと必死になってしがみ付く。気付けば海軍を振り払っており船まで戻ってきていた。

「船長!無事で良かった!」
「戻ってきてない奴はいるか」
「いえ、船長達で最後です」

船に居た船員の人達とファー帽子の男の双方の確認を終えるとファー帽子の男が指示をする。その言葉を皮切りに船員達は一斉に動く。

「俺も潜る準備するからサヤは部屋に戻ってって」
「潜る?」
「そう、潜る。じゃあまた後でね」

ベポさんが私を降ろすとそう言ってきた。しかし今の会話で気になる単語があり思わず聞き返してしまった。しかし、聞き返した後に思い出す。
船と言うより潜水艦と言った方が正しいのだろうか
昨日、この船を見た最初の印象と先程のベポさんの言葉。急いで船内に入るのと丁度、船が下へと下がっていく。やはりこの船は潜水艦の役割もあったのか。


「麦わらが天竜人を殴ったのは本当ですか!?」

食堂に集めら、れ先程までの出来事をあの場に居なかった人達に問われる。その問いにファー帽子の男が肯定すると皆がどよめいた。

「すげぇ…。本当にブッとんだヤローだったんだな…」
「俺、ロロノアが天竜人の前で歩いて、あまつさえ斬りかかろうとしたのを見たよ。ジュエリー・ボニーがその時はなんとかしたけどよ」
「マジかよ。船長も船員も頭ブッとんでいる訳か」

麦わら海賊団が話の中心になっていた時、「船長これを」と一人の船員がファー帽子の男に新聞を渡してきた。その新聞を受け取り目を通すと眉を寄せ顔をしかめた。

「船長、どうしたんすか?」

ファー帽子の男の様子に気づいたシャチさんが問いかけながら新聞に目を通すと数秒もしない内に「はあぁぁー!?」と大声を上げた。

「“白ひげの2番隊隊長の火拳のエースを公開処刑”ー!?」

それを聞いたペンギンさんとベポさんも驚き急いで新聞を見る。大声は上げなかったが二人共シャチさんと同様の反応だ。何故彼等がそんなに驚いているのか分からないがここで質問するなんて空気の読めない事をする強い心は持っていないのでとりあえず黙っていよう。そして後でペンギンさんに聞いてみよう。

「海軍は火拳で白ひげをおびき出すつもりなのか?」
「だとすると今の海軍と海賊の均衡は崩れるぞ!」

“白ひげ”と“麦わら”、この二つの話題で食堂にどよめきが広がる。その時だった

「お前ら、よく聞け」

ファー帽子の男の一声で、あれだけ騒がしかったのに一瞬で静寂に変わる。この瞬間だけでも、この人がここにいる人達に大きな影響を与えるかが分かる。

「現状コーティングをするのは難しい。ほとぼりが冷めるまでは海中に潜む」

今後の方針を伝えるとファー帽子の男はペンギンさんを連れ出て行った。残った人達はまたも先程の勢いを戻し、話を再開した。私はその輪の中には入りきれないので部屋へと戻ろうとしたがあの時の立て続けの緊張のせいか喉が渇いてしまい部屋へ戻る前に水を飲む事にした。厨房へ向かうと誰も居ないと思ったのだが

「んっ?どうした?」

今朝方自己紹介をしたこの船のコック、セイウチさんが居た。

「えっと、喉が渇いてしまいまして…」
「なんだ水か」
「は、はい…」

セイウチさんは料理の準備に取りかかろうとしていたが、コップに水を注ぎ私に差し出してくれた。

「ほらよ」
「ありがとうございます」

コップを頂き水を口へ流し込むと、渇きが全身に行き渡るかのような感覚になり一気に水を飲み込む。

「ははっ、良い飲みっぷりなだ」
「生き返りました!ありがとうございました。セイウチさんは夕食の準備ですか?」
「そろそろ始めないと夜に間に合わないからな。ったくあいつ等話に夢中で忘れてんじゃねーだろうな…」
食事当番の人が話に夢中で来ていないようだ。あの人数の料理を作るのは大変だ。だったら…

「あの、よろしければ私もお手伝いをしてもよろしいでしょうか?」
「あんたが?」
「はい。一人暮らしで自炊もしていたので料理はできます。で、でも本格的な料理とか盛り付けはちょっと…」

コックであるセイウチさん並みの腕前を期待されては大変なので伝えると「そんな期待はしてねぇよ」と言われた。それはそれでショック。

「いや、あんた。あっちでシャチやベポと一緒に居なくても良いのか?」
「シャチさんとベポさん?」

何故二人の名前が出るのかと思ったがどうやらセイウチさんは自分といても気まずいのではないかと思っているようだ。

「いえ、私は先程の話がちゃんと理解できずにいるので、皆さんに話題に水を差すのは悪いと思います。でしたら私ができる事をしようと思いまして。…も、もしかして逆にお邪魔でしかた?」

そうだ。セイウチさんの立場からしたら昨日いきなり現れた自称異世界からきた女と二人っきりになるのは気まずいだろう。やはりでしゃばらずに部屋に戻ろう。そう思っていたらセイウチさんは私の考えを察したようだ。

「勘違いしているようだがそれは違うから安心しな。それじゃお言葉に甘えて手伝って貰うか」
「はいっ!よろしくお願いします!」


今朝と日中の食事、そして今料理の手伝いをして思ったが、この世界の料理は私の知っている料理もちらほら存在している。まあ、食材は私の世界にはなかった魚や肉を材料にしているのも多いが。しかしその中で衝撃を受けたのが

「握る飯は作れるか?」
「…えっ?」
「何だ。握り飯知らねえのか?」
「い、いえ!知ってます!作れますっ!」

まさか異世界で、私の母国の食べ物の名前が出るとは思わず動揺し返事をするのに時間がかかってしまった。それよりもこのおにぎりが存在するという事は日本に近い文化の国もあ

「いえ、私は先程の話がちゃるのではないか。そんな考えが過ぎりながらおにぎりを作ろうとすると

「ああ、梅干しのは三角にしてそれ以外は丸にしてくれ」
「わかりました。けど、梅干しだけ分けるのは苦手な人がいるんですか?」

見た目で分けるとは梅干しが苦手な人はそんなに多いのだろうか。そんな疑問を思いながら尋ねると「まあ、そんなもんだ」とセイウチさんから返答が返ってきた。その答えに梅干しって酸っぱいからこの慣れないと苦手だよね。と私の中で結論に至り、おにぎり作りを再開した。


「セイウチー!飯はできたかー?」

セイウチさんの手伝いを続けていくと美味しそうな匂いが厨房に漂い、それに釣られたのかシャチさんと数人が現れた。

「できたか?じゃねーぞ!当番サボりやがて!!」

そんな彼等にセイウチさんは怒るが「ごめんなー」と軽く謝るだけのシャチさん達。するとシャチさんが私の存在に気付き声を掛けてきた。

「何だサヤ。部屋に戻ったと思ったら此処に居たんだな」
「はい。微力ながらセイウチさんのお手伝いをしていました」
「ってことはサヤちゃんも作ったの?」
「っしゃー!女子の手料理!!」

シャチさんの問いに答えると他の人達が凄い笑顔で喜んでいる。そんなに期待をしないで欲しいと伝えても聞く耳を持ってくれない。というかどれだけ女性の手料理に期待と夢を持っているんだ。

「茶々を入れるんなら料理を運ぶのくらい手伝え!」

見かねたセイウチさんが再度シャチさん達に一喝をした。


料理を運び終えた頃、ペンギンさんとファー帽子の男も食堂へ戻ってきたので食事は始まる。何処に座るか迷っているとシャチさんに隣に座れとお誘いを受けたのでお言葉に甘え席に着く。食事での話題もやはり今日の出来事と、そして

「お前等にも見せたかったぜ!サヤの活躍!」

シャチさんが私の背中をバシバシと叩きながら話す。ちょっとそんなに強く叩かないで頂きたいです。痛い痛い。

「そんなに凄かったのか?」
「すげーのなんのって!サヤの力で大半の海軍を足止めしたんだからな!」
「シャチさん、大げさですよ…。あの時はただ必死だっただけで…」
「その必死で七武海にもあんな攻撃したんだからよくやったよ!」

シャチさんの話す内容を聞きあの場に居なかった人達は「意外と喧嘩早いんだな」「大半の海軍を足止めって何したんだ?」と半信半疑の眼差しで私を見る。

「生きた心地がしませんでした。…生きているのが本当に奇跡です」

あの時を振り返ると本当にゾッとする。ファー帽子の男の助けがなければ私は此処に存在していないのだから。離れは席に座っているファー帽子の男を見るとおにぎりを食べている最中であった。…おにぎり似合わないなこの人。
まじまじと見ていたら気付かれ喧嘩を売っていると思われるかもしれないのですぐ様視線を外しシャチさん達との会話を続ける。

「なーなー。料理の手伝いしたって聞いたけど、どれ作ったの?」

隣りに座っていた一人がそう聞いてきた。作ったと言っても殆どは食材を切ったりと大した事はしてないのだか、まあ一人で作ったものはあるとしたら

「おにぎり、です」

それを伝えると周囲でおにぎりを食べてた人達が

「これが女子のおにぎりっ…!」
「女性らしくて繊細で可愛らしいな!」
「うめーっ!」

だから女性の手料理に夢を見過ぎでしょ。ここまでくると恐怖を覚えてしまう。んー?でも確かこのお皿のおにぎりは

「お前が食っている皿の握り飯は俺が作ったものだぞ。繊細で可愛らしくて美味かったか。…ありがとな」

セイウチさんがそう言うとおにぎりを食べて褒めてた人達から「うっせえっ!」とツッコミが返ってきた。

「彼女が作ったのはそっちの皿だぞ」

そう言ったセイウチさんの視線の先はファー帽子の男が座っている席にある皿。そっちで食べている人達から「よっしゃ!」と言う声が聞こえてきた。いやだから執着し過ぎで怖いから。

「せんちょー。サヤの作ったらおにぎりどうですかー?」
「んなっ!?」

シャチさんが面白そうにファー帽子の男に尋ねる。ねえわざとやってますよね!?
皆の視線を集めながらもファー帽子の男はなんのそのな様子でおにぎりを食べながら、一言

「食えないわけじゃねぇ」

美味しいのか不味いのか、又はは褒めてるのか貶しているのか。何と分かりづらい回答なのだろう。でも周りが普通に食べているし不味かったら「食えたもんじゃねえな」と言いそうだから恐らく大丈夫だろう。うん、多分。

「良かったな!」

シャチさんが親指を立てながら笑うが本当そういうのどうかと思いますよ。

食事も終わり、後片付けもセイウチさんと一緒に終え部屋へ戻る。今更だけど今日の疲れが一気に押し寄せてきた。寝る前にお風呂に入りたいがどうしたら良いだろう?ペンギンさんを探し相談しよう。そんな事を思いながら歩いていると前方で誰かが立っているのに気づく。ペンギンさんだろうか?そう思いながらよく見るとファー帽子の男だった。

「……お疲れまさです」

挨拶をしてその場を去ろうとするが

「来い」
「…はい」

ですよねー。と心の中で呟きながら私は後ろを付いて行く。行き先はファー帽子の男の部屋。もうパターンになってきているよね。どうしよう今後1日1回は今日の報告とかで毎日されたら。それに今日話す事って何?今日の1日を振り返ってみると、うん。色々と心当たりがあり過ぎて何を言われるか逆に検討がつかない。

「戦いに慣れているようだが何処で学んだ」

まさかの私に対する追求であった。これは予想外だったので驚きどう伝えるか迷っていると眉間に皺を寄せてきたので急いで答える。

「えっと、私がいた世界ではこの能力を活かし人助けをする“ヒーロー”がいます。私もそのヒーローで、戦闘などもあったのでそれで今回動けたのだと思います」

そういえばヒーローの件はこの人には伝えてなかったな。でも昨日のあの状況で言ったら異世界人でヒーローなんて設定盛りすぎだろうと言われて馬鹿にされ、怒られるか笑われそうだったし。現に今もこの回答になんて言われるか恐る恐るしていると

「ペンギンから聞いた時はふざけているのかと思ったが」

おっと、どうやら昨日のペンギンさん達との会話は筒抜けのようだ。今後ペンギンさん達とも喋る時は話す内容も注意をしていかないといけないな。

「ヒーローは誰でもなれたのか」
「い、いいえ。ヒーローはNEXTの、限られた人しかなれません」
「ならどうしてお前はヒーローなろうと思った」
「それは…」

私がヒーローになった経緯を知っている人は一部の人だけ。ヒーロー仲間にも深い理由までは伝えた事はない。それを昨日出会った、ましてや無理矢理私を海賊にしようとするこの男に伝えるのは大きな抵抗がある。

「言え。ただ人助けをしたかった。なんて偽善意外にも理由はあるだろ」
「……っ!」

しかしこの人は私が拒むのを許さない。適当なそれっぽい言葉を並べても見抜かれてしまうだろう。

「…私のNEXTは強力な能力に分類されていました。NEXTを、超能力を得た人を恐れる人達は存在します。私が能力を得たばかりの頃は腫れ物を扱うかのように、怖がられたりもしていました」

私自信もNEXTを得た当初は怖かった。自分の体ではないような、何かの衝撃で壊れてしまうような、それは体の中に爆弾が入っているかのようであった。私という人間が、どうすれば良いのか分からない。そんな時に私にヒーローの道を教えてくれた人がいた。
私の力は怖がられるだけではない。人を守ることができるんだ。この力と、どうすれば良いのか迷っていた私と向き合い、前へと進む事ができた。

「ヒーローになったのは、私が私で有り続ける意味でもあります」

話を終えるが上手く説明できた自信はない。だってこの話をする人なんて今までいなかったから。これを聞いてこの人はどう思っただろう。弱い人間が考える事だと馬鹿にするだろうか。

「でも人助けを。という気持ちは勿論あります。なので平和を願う私にはこの世界は刺激が色々と強過ぎます」
「“何が平和を願う”だ。そんな女は相手を容赦なく叩き潰そうとはしねぇ」

私が最後に強がりで言った言葉にファー帽子の男は鼻で笑いながら言い返す。今日のあれは死ぬかと思ったしロボットだと思ったからちょっと手荒にしただけであって…。
「そうですか?」と言いながら視線を逸らしているともう思ったよりも早く戻っていいと部屋をでる許可を頂けた。「失礼しました」と言い部屋をでようとドアノブに手をかけると

「海に左右されずに、戦闘経験もある。想像以上に良い拾い物をしたようだ」

その言葉に振り向いてみるとファー帽子の男が薄い笑みを浮かべながら私を見ていた。この男は最後の最後に…!

「それは良かったですね!私も良い拾い物だと思いますっ!」



名前を持たない君の話


お題,秘曲

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