入江さんの場合



俺、天城慎はU-17代表合宿に招待されたはいいけれど、腕を怪我したままの俺は行かないつもりだった…んだけど周りがとにかく来いというので一緒に行くだけ行ってみたら、コーチに気に入られて結局お手伝いする羽目になってしまった…というのがここ最近の俺の身に起きた出来事。


「じゃーん!」


ソレだけならまぁ良かったんだけどな。悲しい事に高校生のみなさんに気に入られてからかわれる日々。年上ってこともあって嫌がり切れない俺をいいことに皆さん好き勝手してくれやがる。

今、俺の目の前でニコニコしている入江さんはその1人。
やたらと俺の後ろを着いて回ってくる。他の高校生曰く入江さんはストーカーらしい、本人もこの間それを言われて照れていた、なんで照れるんだよって突っ込んでも喜ぶばかりだった。
またも練習を抜け出してきたらしい入江さんが何やら片手に小さめの段ボールを持っている。何度か左右に振ってカタカタと音を鳴らしてから俺へ差し出してくる。


「慎くん、これあげる。」
「はぁ…。」


またか、とは言えないからとりあえず生返事。この人の変なプレゼントは最早いつもの事だから慣れたけど、その全てがかなり高額品だから貰えない。
この間は有名ブランドの服を似合うからとクローゼット付きで10着、その前は指輪だっけ?それをペアで。さらに前は携帯ゲーム機とソフトを20本、それからブランド腕時計もあった…徐々に安くなってきている様な気がするけれど、到底高校生が人にプレゼントするものにしては高額過ぎる。それもただの中学生にあげるものにしては。

今回もどうせ高い物なんだろう、と呆れつつまずは受け取ってみる。結構軽い、という第一の印象に続いて箱をひっくり返してみれば、国内大手の携帯企業のロゴ。
それを目にして『まさか』と思うなか、入江さんが待っているので恐る恐る箱を開けて中を見てみれば…黒のシンプルな新型スマートフォンが入っていた。


「この間発表されたばっかりの新型だよ。」
「あの、俺もう自分のスマホあるんで…」
「でもアレって結構前の奴でしょ?コッチの方がいいよ。」
「それに高いですよねコレ、貰えないです。」
「ううん、今まで君にあげたものの中では一番安いから安心して。」


昨日ニュースで見たばかりのものが自分の手の中にある、という味わったことのない不思議な感覚に頭がクラクラする。そしてこの人の異常な俺への嫌がらせに近い執着心に冷や汗たらり。

返そうと箱を閉める俺の手を制してくる入江さんの笑顔になんと言い返せばいいのか分からず頬が引きつる。でも此処でコレを受け取るわけにはいかない。
確かに欲しいものではあるけれど、こんな高額なものを貰う訳にはいかない。だって徳川さんが言っていた、入江さんからプレゼントを受け取ったら今以上に追いかけ回されるって。
今でも困っているのにこれ以上は勘弁、湧き上がる唾を飲み込み箱を入江さんの胸元へ押し付ける。


「おっと、」
「駄目です!もらえません!」


じゃ、と入江さんに頭を下げて一刻も早くその場を離れたい一心で近くのコート目掛けて走り出す。きっとコートに鬼さんとかいるはずだから助けてもらおう。
決して振り返らずに一心不乱に走ったから、俺の背中を眺める入江さんの素の表情もポツリ、零れ落ちた本音も知らない俺は、


「…やっぱバレているのかな?」


カバーの下に忍びこまれている盗聴器とGPSをまぐれで回避していた。というか今まで貰ったもの全てにソレらが仕込まれていたと気付くのは、まだまだ先のことで。


「次こそは騙してみせるよ。」


とにかく今は、逃げるので必死です。




入江さんの場合。




「また入江の奴に?」
「はい、いい加減やめてほしいんですけど…。」


相変わらず鬼さんはいい人だ、俺の話しを聞いて後で入江さんを怒ってくれると約束をしては溜め息を吐き出してくれる。
でも俺のせいで迷惑かけます、と言うと何も言わずに撫でてくれる。この合宿中で俺を安心させてくれる人の一人だ。


「無駄かもしれねぇけど言っておく。」
「すいません、お願いします。」


翌日、懲りもせずに俺へ昨日のスマホを渡しに来た入江さんは鬼さんによってコッテリ怒られて種ケ島さんに笑われたのでした。

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