狩りしましょ 6-3-



光を休ませている場所から、そう遠くない所に銀色のリオレウスは羽を休ませながら俺達を探していた。そこへ矢を打ち込んだ所からは…自分の事を客観的に眺める自分がいて驚いた。

幾らか俺の放った矢が宙を舞ったし、リオレウスの吐き出す火球は草を燃やしつくした。
お互い傷を負いながら時間を消化していけば、根を上げたのは俺のほう。
弦をひくのも辛くなったのを良い事に、リオレウスが俺を尻尾で薙ぎ払った。


「っ、うわ…!」


足元を払ったソレを避ける事が出来ずに腰から地面へ着地し倒れ込んだ…そこを待ってましたとリオレウスは俺の上へ足を乗せて来た。
光を蹴りあげた足の爪が肩に食いこめば、一番の痛みに喉から声が出ず音のない悲鳴が口から発せられて。見上げる先には星空をバックに口を大きく開くリオレウス、その時「今から食われるんだ」と覚悟した、俺を見据えるその瞳の輝きは生き残るためだけに俺を殺そうとする強い光りを秘めたものだったから。


(おれ、しぬんだ。)


そう言葉として脳に浮かび上がった…けれど体を支配するのは怖いという事より光にごめんって言いたかったなという、情けないもの。
何とかするからって約束したのに、俺は結局何も出来なかったなって情けなさに笑えた、泣くよりも先に笑っていた。
格好悪い先輩は格好悪いまま死んでいくのだろうか、後輩にごめんという一言すら言えずに終わってしまうのだろうか……。


(そん、なのって、)


そう。

それが…リオレウスに反撃した理由でリオレウスの命を奪った理由。

握る弓は矢がなくては何も出来ない。だが矢へと手は伸びない。唯一動ける範囲で掴めたもの…それはモンスターの皮やうろこをはぎ取るためのナイフ。俺は太ももにコレを付けていた。
肩が痛い、リオレウスの息が涎が顔へかかる中どこか冷静な頭でナイフの持ち手を掴み力を込めた。川の冷たさの中で拳を握った様に。
大きな足の指を抜け、ナイフを握った手を自分の胸元まで持ってきてナイフの輝きを一瞬眺め、リオレウスが俺へ鋭い歯をつきたてようとした時、銀のリオレウスの胸に刃を突き立てた。

その瞬間、間を開けずにリオレウスは大きな咆哮をあげ刺さったナイフをそのままに羽を羽ばたかせ俺から距離を取った。


「ぃ…っ、くっそが、」


肩に刺さっていた爪が抜ける痛みに悪態つきながら、歯を食いしばった。この好機を逃したら俺は今度こそ死ぬ。
そう理解してから体は痛覚を何処かへ押しやった、痛いという事を客観的に捕えていた。あぁ痛いだろうに…なんて他人事のような感想を持ちながら、俺は矢を手にリオレウス目掛け走っていたのだから。

下がったリオレウスの体はよろけていて、いきなり走りだした俺をその瞳に捕える事が出来なくなった。ソレを良い事に背後へ回り込み美しい鱗に覆われた背に乗り込んだ。なにも考えなんかなかった、ただ矢をリオレウスへ放ってやることしか頭にはなかったんだ。恐ろしい話…初めて体全てで「殺してやる」と思った、殺すためなら何でもしてやると。
弦をひき、矢を頭目掛け放った。空を裂く矢には俺の命をかけていたと言ってもいいだろう。コレが外れたら俺の負けだったから。


「生きたいんだ…っ!」


リオレウスも願っていただろうその思い。俺は強く願った。









痛みからか疲れからか…俺はその場に寝転がって明るみを増していく空を仰いだ。
どんどん色を変えていく空は美しくて、傍で一緒に寝転がる銀色はソレをうけ体の色を見たことのない色へ変えていく。ただ…銀の体はドンドン熱を失っていく。
そんな体へ寄れば、生きている事が怖くなった。犠牲を伴いながら生きているという事を知ったから。
なら早く動けばいいのだろうけれど…とにかく動けなくて冷たくなっていく空の王者を撫でてながら放心していた。
でも血は流れていくのを止めない、傷1つ1つに心臓があるかの如くトクリトクリ痛みを訴えてくるからコレで死んでしまうのだろうか…また他人事のように考えていた。


「…慎、さん…?」


だけど、俺が生きようと願うきっかけを作った後輩の震えた声が鼓膜を揺るがせた。
あぁ生きていてくれたんだ…光は無事だったんだ、弱々しい声だったけれどソレだけは知れたから嬉しくて弦を引いた右手を上げて小さく振って見せれば、少し離れた所から聞こえた地面を蹴る音。
歩いている、光が俺の方へ歩いてきてくれている。その音が不規則なのは光も痛いのを我慢してくれているから。


「慎さん…っ!」


また泣いているの?もう大丈夫だよ、リオレウスは死んで俺は生きているから。
足を縺れさせながら頑張って俺の傍へ辿りつけば、崩れ落ちる様に地面に座りこみ俺の顔をのぞきこんで。久しぶりに見た顔は酷く歪んでいた。


「も…ぜったい、しんどるかも…って、おれ、」
「…ひでー…。」
「慎さんの、あほ…!」


光の涙が俺の頬へ降り注ぐ中、痛くて気が遠のきそうな俺は笑えていたはず。
聞き慣れない光の素直な本音はちゃんと脳まで届いている、そうだねって頷いて見せれば首へ回る光の腕。暖かな体温に、俺は安堵した…光が生きているって。
暗くなっていく視界に恐怖はなかった、また目覚めるだろうという根拠のない事に瞼を下げるのを止めず、最後に光の頬へ手を伸ばした。今度こそ涙を拭ってやろうとして。


「もう、おれを置いて、いかんでください…。」


最後に聞いた声に返事を返すことは出来ず、そこから先の記憶はなくなった。


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