狩りしましょ 6-4-



ガタガタ揺れる、ソレはもう慣れたことだった。ただどうやら慣れた揺れ以外のものが俺の体を揺さぶっているらしい。
銀色のリオレウスの爪が食いこんでいた俺の肩に手を乗せ強めに力を込めて「起きてください」と揺らす張本人の声は、あの日を忘れさせてくれそうなほど凛と澄んだ真っ直ぐなもの。


「慎先輩。」
「…ん?あれ…寝てた?」
「そらもうぐっすり。」


重い瞼を上げてみて、そこで自分が眠っていたのだと気付き光が起こしてくれていたのだと知る。

もうすぐ砂の海です、光が馬車の外を指差すから何度か目をこすってから外を見てみれば陽炎で揺らめく砂の景色に目が冴える。
「すっげー」と子供のような感想を軽く口にする俺を笑う光の声が聞こえたけど、慣れたものなのでもう気にはならない。馬鹿にされているわけじゃないのは分かっているし。
どうやら謙也もユウジも蔵のいる馬車の運転席へ行っているようで、俺と光しかいない空間に俺は見ていた夢を思い出して砂漠ではなく光を見た。

あの日から、光は俺の事を『慎先輩』と呼び俺の後ろを必要のない時でもついて回る様になった。蔵達に狩りへ誘われた時は素直に行くけれど、暇な時は必ず俺の傍へ来ては他愛もない事を話し時間をつぶした。
昔抱いていた才能による余裕なんかは壊したようで、必死に真面目に一人前を目指し、村を守るハンターの仲間入りしたのはあっという間のこと。
そのうち鎧や倒したモンスターの素材なんかで客間が溢れかえってしまい、光は俺の家から出ることを決意し1人暮らしを始めた。それはあのリオレウスの事件から半年しか経っていなかった。


「…どないしました?」
「んー…。」


家を出て行った光に、寂しさはあった。けれど俺の後輩が一人前になって巣立っていったのだと思うと嬉しさの方が大きくて涙は出なかった。そんな事もあったな…なんて考えてながら光を眺めれば首を傾げられる。


「夢でさ、あの日の事みたんだ。」
「あの日って…」
「リオレウスに襲われた日。」


アレ以来、光が泣いている所を見ていない。その瞳に涙は浮かばずただ強さと誇りを宿したりなんかして。
「そんな悪夢見とったんですか」と懐かしそうにでも嫌そうに言う光は、昔を悔いている。才能に浮かれていた自分を。だからこの話しをすると嫌そうにするんだけど、それでも俺達が今の様に打ち解けあうきっかけとなった出来事だから大切な日だと思ってくれてはいるだろう。


「それで思いだしたんだけど…俺、光に謝らないとって思ってたんだ。」
「あやまる?何をです?」


君は覚えているはず、未熟な俺へ伸ばしたあの左手を。


「手、握り返してあげれなくてごめん。」


今さらだけど、俺は光の左手を取り掌と掌を合わせてちゃんと謝る。あの日出来なかった事をやっておきたい、この先後悔しなくて済むように。
成長して俺を追い越した今でも、先輩と言い続けてくれる俺の後輩は俺が何を言っているのか理解するまで数秒を要したがすぐに「あぁ…」と少しばかり恥ずかしげに唇をへの字にして掌に力をこめて囁く。


「そんなん…俺こそほんまにごめんなさい。」
「なにが?」
「…守ってくれたことっすわ。あと、肩の傷の跡とか…。」


あの日の夜、リオレウスの爪が食い込んだ跡が肩にはまだ残っている。きっと一生消えないだろう…光はソレをずっと気にしてくれているようだけど、俺はこれはこれで良い気がしている。
だってコレが残っている限り、俺はあの日の事を忘れる事が出来ないのだ。月の美しさも光の涙も伸ばされた左手もリオレウスの美しさも命をかけ生きたいと願ったことも。全て大事なこと、1つたりともかけてはならないこと。


「俺は先輩だぞ、後輩を守るのは先輩の仕事だ。」


言葉ばかりのものだけど、俺はずっと光を守っていくつもりだ。力及ばなくとも思いと決心はあの月夜から変わらない。




例え月が消えようとも




俺のこの誓いは消えない。


「……慎先輩、俺が守る側になりたいんすけど。」
「え?」
「今度こそ守ったりますから。」
「いやいや俺が先輩だし。」
「そうやなくて。」
「え?」


(俺、永遠に後輩の枠から出れんのか…?)
(はっ俺じゃ力不足ってか!?)


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この話しを書くにあたって
一話目を少し変更したりしました。
対して気にするほどではありませんけど。

2014,03,07


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