妖精ってパワフル



「懐中電灯にランタンに、着替えにあと水と…」


大きなキャリーバッグの中に使いそうなものを最低限入れていく。もうこの家にも帰ってこれないかもしれないから。
昔…このキャリーバッグを修学旅行の時に使ったな。着替えにトランプにウノ、そしてお土産が入っても余裕があったほどの大きなもの。祖父から貰った大事なもの。


「…あとは、何をいれよう。」


大きいのに余裕がもうすでに無くなっていてパンパンになっている。もうコレでいっかと諦め混じりに溜め息零しキャリーバッグの口を閉めた。

もうこの家には帰らないと思う。
あの胡散臭い蔵と一緒に大阪の地下へ行かなくてはならないから。なんで大阪かって言うと、今はそこに地球さんがいるらしい。俺も話していて全く理解できなかったんだけど、地球が蔵と同じ妖精の姿でいるという、そんで大阪に居座っているらしい。

とはいえ、東京の俺の家から大阪まではかなりの距離がある。新幹線もバスも交通機関全て機能していない今の世界では、そこまで辿り着くのはとても時間がかかるし労力も半端ない。

それを蔵に訴えれば、まぁ笑って言いやがるよ。

『平気平気、地下に妖精専用の線路通っとるから!』


「俺、妖精じゃねーし。」


カラカラとキャリーバッグを引きながら居間へ向かう。なんでもこの家から持っていきたいモノがあるとかで蔵は居間で怪しい事をしているらしい、本人がそう言っていた。
まったく…何を持っていくつもりなんだろう、服とかかな。現実味のない話しのラッシュに疲れショート寸前な頭でぼやぼや考えながら居間へ辿りつけば、


「準備終わった…って、テレビは無理だろ!!」
「おー、終わったん?ちょお手伝ってくれへん?」


うちの地デジ対応薄型テレビをコンセントも抜かずにおいしょーっと持ちあげている蔵がそこにはいた。いやいや、妖精ってこんなにパワフルなの?俺は認めないぞ。


「何やってんだよ!まずはコンセント抜かないと引っ張っても無駄だぞ!」
「そうなん?抜いて抜いて。」
「重いだろ下ろせよ。」
「妖精パワーでジャガイモより軽く感じんねん。」


例えに出すのがジャガイモってどうなの?ややこしくなりそうなのであえて突っ込まないぞ、人類最大の素晴らしいスキルと言えばスルースキルだろ。
蔵の要望通り、繋がっているコンセントや配線全てを取り外してやれば「おおきに」と笑いながら床に下ろした。マジで持ってくの?


「…これ、持ってくの?大阪に?」
「おん。」
「電気ないのに?」
「妖精パワーがあるんやって。」


もうその言葉聞きたくない。
「あっそ」と素っ気なく返せば、家から離れるのが寂しくて元気がないと思われたのか心配されたけど、それも華麗にスルー。この家から離れるのは寂しいさ、でも蔵のその変な妖精パワーのせいでも元気がゴリゴリ減っていくよ。

はーっと深いため息を吐き出し、まだ時間がかかりそうな蔵を置いて外へ出た。なんでも妖精専用の線路があるのは人間が使っていた地下鉄の駅から入れるらしい…疲れる、色々と。
歩いて地下鉄の駅までは10分ほど、今が12時26分と一日の半分を過ぎてしまっている事もあって急がなくてはならないから自転車を用意しよう。俺の家に俺が使っていたのと、ご近所さんを探せば1つくらい出てくるだろう。

なんだか騒がしい家の中をもスルーして、自転車調達に歩きだし、かけて…


「…妖精って、自転車のれんの?」


止まった足は、騒がしい家へUターンをしなくてはならなくなったのだった。


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2013,09,28


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