握る



「世界中の活火山が噴火して一年とちょっと。まだ活動を続けとる火山もあるらしいなぁ。」


テレビやらを何処へやったかは知らないけど、妖精の間では有名な書のコピーを入れているペッタンコな鞄1つだけしか荷物を持っていない蔵が最寄りの地下鉄の駅まで向かって行く。
その後ろをキャリーバッグを引きながら歩く俺。蔵が話し始めた今へ至る冗談みたいな本当の歴史を聞いていた。


「日本の火山は噴火しなかったやん。」
「うん…日本だけ、しなかった。」
「それな、慎がおったからやで。」


神様やから。そうつけたした蔵が振り返って笑顔を見せた。だから代わりに納得できないと唇をへの字にして睨んだ。なら俺以外の大切な家族とか友達とかも助けてほしかったのに…神様の近くにいるだけじゃご利益なしなのか。

…でも、色んな国を旅して思ったけど、こうも綺麗な状態で人類だけがいなくなっているのは日本だけだと思う。
火山がある国は勿論だけど、その周辺の国は噴火による地震や津波、地割れに火山灰で綺麗だっただろう街並みはがらがらと崩れ色を変えていた。
日本だけは、風にのってやってきた火山灰に混じった有害な塵による病気などで皆亡くなってしまったけれど、街並みは火山灰をかぶりながらも綺麗なまま。


「…なぁ、俺が病気にならないのも神様だから?」
「せやで。」
「生まれた時から神様だったの?」
「んー…そうやと思うけど…その辺は地球に聞いたって。」


時間によって少し荒れた国道の真ん中を歩く事に慣れた俺が、蔵のシャツを掴んで悔しさを口にしない分こうして伝えた。
悔しい、すごく悔しい。
いなくなった人たちを前に何度も思った、どうして俺じゃないんだろうって。置いていかれるのはとても苦しくて涙が出て辛くて。そしてなによりソレに慣れていった自分が怖かった。

なんで俺なんだろう、実感のない…信じられない話しを聞かされて「そうかなら納得だ!俺は神様だ!」なんて言えるわけもなく。
ただただ、怪しい耳のとがった自称妖精な蔵ノ介の後をついていく今の俺のつきない悩み。


「大阪にはよ行こうな。」


ぶくぶく沈んでいく俺の思考を見抜いたのかは良く分からないけれど、シャツを握っていた手に重なる他の熱。コイツ、妖精の癖に俺より手がデカイ、傷も全然ない手は綺麗…魔法を使う手なんだと言われたら、今だけ信じられそうだ。


「地下鉄の駅に妖精の駅もあるって言ってたけど、駅の何処にあるんだよ。」


シャツからするり、手を離し蔵の手を掴みかえした。老人の手よりもサラサラしている。老人の手は生きていた時間の重みを感じたけど、蔵の手は魔法を使える重みを感じる。
男同士で手を繋ぐって変かもしれないけど(それ以前に妖精に性別あるのかな)、この世界には俺と動物と微生物と妖精しかいないならどうだっていい。誰かと一緒だという幸せを実感できるから。


「線路あるやん。」
「うん。」
「その線路を歩いて、ちょお行ったとこにあんねん。」
「…ホームとかじゃなく?」
「おん、駅と駅の中間やな。」


ただ、妖精の常識が分かりません。


-----

2013,10,10


(prev Back next)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -