リョーマと二年目



「じゃーん。」
「おー。」


帰ってくるなり見せつけられたのは、ピカピカ傷一つない免許証。それはリョーマの名前が書かれているし顔写真も眠たそうな顔しているけれど、確かにリョーマのこの世に一つしかない免許証だ。
エヘンと胸を張って褒めろと顔に書いた生意気な恋人の頭を撫でてやれば、思いっきり抱きしめられる。高校二年くらいから抜かされた身長差は抱きしめられると苦しいものだ。


「おめでとう、流石だ。」
「当然だけどね。」
「一年かかってるけど。」


余計な一言を言ってやれば「なんか言った?」とリョーマが誤魔化しに入る。まぁテニスの大会で忙しかったから仕方ないということで。


大学生になったリョーマが何を思ったのか「慎さんの家のほうが大学近いから一緒に住んで。」と言いだしたのは二年前。あまりの急な提案に顎が外れたかと思うほど口あんぐりさせたのはいい思い出。
最初は断った、するとコイツ「だって慎さんが好きだから。」と言っては半ば強引に当時1人暮らししていたアパートの一室へ転がり込んできた。
その時はまだリョーマに対しては弟の様な奴、としか考えていなかったが、不器用なりに俺へ確かな愛を送るリョーマに惹かれてしまい、気付いた時には全てを受け入れていたり。


「ねぇ、何処か行かない?」
「今から?」
「せっかくだし。」


珍しくとても上機嫌なリョーマが俺の腕を引いて首を傾げた。今はまだ13時と余裕はあるし予定は特にないけれど…と呟けば「じゃ行こう」と強くなるリョーマの押し。
車は俺の両親が使っていなかった軽があったので貰い、もう数日前から駐車場で待っている。何度か2人で乗ってみたりしたけれど、鍵を差し込んだ事はまだない。
余っていたキーホルダーを付けている車のカギを取り出すリョーマの笑顔に、俺はリョーマが免許を取ると言いだしたきっかけを思い出して恥ずかしくなった。


『旅行いきたいなー…。』
『…慎さん、俺が免許とったら一緒に行く?』
『え?うん。』
『ふーん。』


俺がきっかけ、なんて。
あの時も嬉しそうにしていた、たぶん俺と2人で旅行へ行きたがってくれていたんだと思うと…もうリョーマからの車を使ったお出掛けを断る理由が思い浮かばない。

仕方ない、と軽く上着を持って家を後にする。家の鍵を閉めアパートの階段の下りれば目の前の駐車場にまさに今日からリョーマの愛車になった軽。まぁそのうち買い替えるんだろうけれど…今はまだコレで十分。
これでリョーマもテニス大会へ行くの楽になるよなーと軽く考える俺とは違い、色々考えているだろうリョーマが運転席ではなく、まずは助手席の方へ向かったと思えば、扉を開けて俺待ち…って、


「いやいやいや、自分でやれるし。」
「誰のために免許とったと思ってるの?」


早く、と急かしてくる年下に「コイツ…」と呆れた思いを零しつつ。こんな状況から後部座席にーなんていう行動を取れるはずもなく、仕方なく開かれた扉から助手席に座る。
ちゃんと座った事を確認してからリョーマが扉を閉めた一連の流れ、外国育ちだからって言ってもこの行動はなぁ…なんて不満を積もらせていれば、開く運転席の扉。


「…」


が、しばらく待っても扉が開いたままで肝心のリョーマが乗り込んで来ない。
アレ?と右を向けば俺を見たままで動きを止めていた、大きな瞳がじーっとコッチを見ているまま。


「リョーマ?」


見られ続けるのは居心地が悪い、名前を呼んでやれば何事もなかったかの様に「なに?」なんて軽い返事で時を進めだした。やっと乗り込み扉を閉め、鍵を差し込んで捻る。
一体なんだったのだろう、かかるエンジンの音を聞きながら今度は俺がリョーマを見つめる番。ジッと見てやれば視線で思いが伝わったのかシートベルトを締めながらこちらへ振り返るのは、笑みをたたえた恋人。


「さっきなんで止まってたの?」


車という狭い空間で見る恋人、どうしてだろう、別人みたいだ。これからたくさん見られるだろう今は新鮮な世界では、いつも以上に格好良く見えてしまった。

でもそれは、


「べつに。」
「は?」
「好きな人が助手席にいるって、いいなって思っただけ。」


車の持ち主も同じらしい。
グイッと助手席の方へ身を乗り出し狭い空間をさらに狭くする恋人は、「夢を叶えたい」と突然呟いた。それは映画で見た車の中でのキス、そして俺が行きたがっていた旅行。


「嫌って慎さんが言う位、叶えたいんだけど。」


いまこのキスまでのカウントダウンが始まっている状況でも、嫌と言える勇気もない俺がこの先どうやって嫌と言えるのだろうか。




二年目からのカーライフ




「てか、これからどこ行くの?」
「買い物?」
「決めてないのかよ。」
「慎さんが行きたい所でいいけど。」
「…マックかスーパー。」
「それは庶民的すぎない?」
「うるさい。」



next...柳
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ずっと書きたかった
免許とるリョーマ。


2013,12.09

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