28.まともに生きますから



片思い相手と一緒に帰るはずやったのに、キャベツとソースが入っとるビニール袋を提げながら1人歩く帰り道ほどイライラするもんはない。


「ほんまに最悪や…。」


なんやこれ、ミーティングを抜けだした罰かいな。しゃーないやんけつまらなかったんやから!せやけど神様、次からはまともに生きます。だから慎との時間は削らんといてください…。

慎、と名前を浮かべれば足取りは一層重みを増す。今頃どうしとるんやろ…困ってへんかな、なんて。


「…俺も、残ったほうがよかったんかな。」


30分もかかる作業、俺も行って手伝ってやれば一分くらいは縮められたかもしれん。冬が近づくにつれ暗くなるのがはやなったせいか、慎が心配でしゃーない。慎が帰る頃は今より寒いやろうに。もっと暗いやろうに。

せやけど今更そないなこと心配しても意味がない。キャベツをソースを持って学校まで戻るわけにもいかんし。
朝の雲が消失してもうた綺麗な夕暮れを眺めれば、カラスが二羽並んで飛んどるのが見えて足を止めてもうた。俺はカラスが結構好きやったりする。綺麗やとも思う、確かに迷惑な鳥かもしれんけど黒い体はつやつや輝いとるし寒くて首を引っ込めとるところは可愛え。
そんなカラスも二羽並んで飛んどるっちゅーのに…。

止めたい考え、愚かな脳内、グルグル巡る淋しさ、吹きあがりそうな不安。


「…会いたい。」


恋してから、ずっと。ずっと思う。
会いたい、楽しい事も悲しい事もどんな事も共有したい。掌の冷たさも空の美しさも2人で共有したように、どんな些細なことでもええから全てを共有したい。

吐き出るため息に自然と落としてまう肩、下がる視線に下げてまうヘッドバンド。とぼとぼと家へ向かう足を急かすことなくゆっくり歩き進む。

周りも何も気にしとらんかった、ただ頭の中の世界に浸っとった。つまりはボンヤリしとった。
せやから、角を曲がるときに反対側から誰かが来とる事も全然気付かんかった。


「…っ、うお、」


下げとった視界に突然入りこんできたスニーカーに『ぶつかってまう』、そう反射的に後ろへ体重をかけた。せやけど少し遅かった、軽くぶつかってもうた相手はバランスを崩したらしく尻もちついて倒れ込んだ。

その一連の流れを見るだけ、俺は相手が倒れ込んでから3秒ほど茫然と立ちつくした。


(やってもうた…。)


俺は無傷やけど、相手は大丈夫やろうか。
怪我しとったら…と嫌な考えを浮かばせつつ倒れた相手の傍へしゃがみこんで、そこで知った。相手が自分と同じ学ランを着とること。四天宝寺の生徒や、それはそれであかん気がする。より慌てて声を掛けた。


「す、すまん。大丈夫か?」


夕陽を背にして俯いている相手の顔を覗きこもうと地面に膝をついてビニール袋から手を離した。
俺の言葉に顔を上げない相手に痛さからの沈黙やないかと思い「どこか痛いか?」と聞いてみるが、これにも返事はない。愛想ないのかキレとるのか、しゃべれんくらい痛いのかどれや!言えや!…あ、言えへんのか。

何も言ってくれんのは困る、しゃーないから悪いとは思ったんやけど俯く顔を隠す髪をソッと上げた。夕陽と俺が作る影のせいでいまいちハッキリしない不思議な色合いに、俺は妙なときめきを感じながら。

その時点で気付くべきやった、いや最初から気付くべきやった。


「…んで、」
「へ?」


「なんで、ゆうじなんだよ…。」


声とともに吐き出された空気でサラリと揺れる髪、掻きあげた部分から覗く瞳は夕陽でオレンジに煌めく涙をそこに溜めて。

ゆっくりと上がった顔は、俺の会いたかった人。


どうして、泣いとるんやろ?




まともに生きますから




弱々しく眉を寄せながら俺を見るその視線の力のなさに、息が詰まった。
初めて見た涙に俺は何も言えなくなってもうて、ただ震える唇から零れた言葉に動揺するだけ。


『なんで、ゆうじなんだよ』


「…」


きっと会いたくないって思われとった。せやから出た言葉なんやろう。
そんな言葉、言われるやなんて思っとらんかった。それも顔を合わせて直に。

いきなり絶望の淵へ追いやられた俺は何をどうしたらええのか分からんくて、その言葉に柄にもなく傷つきコッチも泣きそうになった。


それでもや、


「…慎、俺ん家、今日お好み焼きやねん。」


下手くそながらに笑ってやろうと思った。ソレに釣られて笑ってくれんかなってバカみたいな願いを込めて。

(泣かんといて。)

赤くさせとる瞼を頑張って開いて俺を見る慎は、急な話に驚き涙を止めてくれよった。引っ込める事も出来ん行き場を無くした涙がぽろり、零れて頬を伝っていった。オレンジ色した太陽の光りを受けキラキラ輝く涙の美しさに心臓は締め付けられたような苦しさに襲われてまう。

笑って、そう願う強さに手を繋いだ時の勇気が蘇ったらしい。
涙で濡れとる頬を学ランの袖で拭ってやって、指で目元をなぞってやる。熱いそこは痛々しい赤、悲しい赤。俺が全てを癒せたらええのに。


「良かったら寄らへん?」
「……」


震えとった唇を結んだ慎は、涙を拭う俺の腕を掴んでソッと頷いた。


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お好み焼きには
餅をいれたい。


2013,10,31

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