29.まともと肩並べ隊



「帰ったでー。」
「おかえりって、友達連れてくるんやったら電話入れんかい!!」


近くにあったスリッパでスッパーン、と俺の頭をぶん殴るおかんほど、恐ろしいもんは居らんと思う。


「い…ったいわ!!なにすんねん!!」
「嫌やわー、うちの馬鹿息子がお世話になっとりますー。」
「話しを聞けや!!」


何事もなかったかの様に俺を無視して一緒に玄関へ入った慎に挨拶を始めたおかんに突っ込めど俺などアウトオブ眼中や!このクソオカン!
いきなりの流れに東京育ちの慎は赤い瞳をパチパチと瞬かせ、おかんの挨拶に「お世話になってます…」と小さく返した。ビビっとるやんけ!
これ以上此処でアホなことやってもしゃーない、俺はビニール袋をおかんへ押し付けた。こんなんやってられん。はよ部屋に逃げたろ。


「おら、キャベツとソース。ほんで飯出来たら呼びや。」
「おおきに。友達も食べていくやろ?」
「え…でも、」


おかんの言葉にどもる綺麗な標準語をガシッと押さえつけ「ええから!」とおかんはキッチンの方へ歩いて行く。
ん?おかんにしてはあっさり引きよった…不思議に思いながら慎を見れば、あぁ…泣いたって分かる顔。事情は知らんけど何かがあったっちゅー事を察してくれたんかな。おかんにしてはやるやん。

靴を脱いでまっすぐ階段を昇る。居間に居ってもおかんが喧しいだけやし二階の自室の方が落ちつくやろうし。
部屋の扉を開けて後ろを振り返れば、慎が入ってええのかな?と悩んどるのが分かって腕を引いてやった。コッチ来いって。そうすれば素直に中へ入ってくる、一応扉は開けっぱなしにしとく。

綺麗とは言えんけど汚くもない、普通の俺の部屋。机の横に鞄を置いて座布団を机の傍に置いて「座っとき」、それだけ言って学ランの上を脱いでハンガーにかける。
クルリ振り返ればきちんと正座しとる慎が俺を見とった。素直に座ってくれよった慎に安心してまいながら廊下へ向かう。


「飲みもん取ってくるわ、ちょお待っとき。」
「…なんか、ごめん。」
「謝られる覚えはないで。」


そう言い部屋を後にする。今は1人にしてやるのも大事やろう。

階段を下りながら此処に来るまでの事を思い返す、なにも喋らんかったこと。俯いてただ俺の手を強く握る冷たい手。
『なんで、ゆうじなんだよ』その言葉とは真逆な力強さに自分と言う存在の価値を知った。きっと泣き顔見られたないっちゅー意味やったんやな。まぁ自分かて泣き顔見られたないわ。

キッチンに行けばキャベツを刻む音がして腹が鳴りそうや。くっそ、腹へっとるの忘れとった。
コップを棚から二つだし、冷蔵庫を開ければ


「そこにジュースあるで。」


コッチも見んで答えるおかん。流石我が家のキッチン番…なんでも知っとる。


「あの子名前なんて言うん?」
「慎。」
「何処からきたん?」
「二年前やったか東京から。」


俺でも答えられる質問には答えておく。そうしたらおかんは「なら大阪の味でええか」と呟いた。いや、おかん今まで修学旅行以外で大阪から一歩も出たことないってこの前…まぁええか。疲れるだけや。
ジュースをコップに入れて持っていこうとする俺に「お家に電話はさせるんやで」と言う笑顔のおかんに、素直に返事する。親として大事なことやからやろう。

また階段を昇って扉を開けっぱなしにしとる部屋へはいれば、正座を崩した慎がまた俺を見とって。


「ジュースやけどええ?」
「うん。」


さっきよりも落ちつきを取り戻したらしい柔らかく表情をほころばせてくれよった。
俺の部屋に慎が居る。そんなあり得んようであり得てしもうた光景やのに、何故やろうか…心臓は落ちついとった。きっと泣きやんでくれたからやろう。

机を挟んで慎の向かいへ回り座って、ジュースを渡せばまだ冷たい指先が俺の指を掠めコップを受け取る。まだ冷たい、ごっつ冷たい。


「暖かいもんのが良かったか?」
「大丈夫だよ。」
「せやけど指、めっちゃ冷たいで。」


そう言えば、やっとしっかり笑ったと言える笑顔が返ってくる。「そうだけど大丈夫」なんて言う姿の、何処かに違和感を覚えつつ。分かっとる…その笑顔は偽物なんやと。
いつも通りやない、強がっとるその姿が俺には儚くもろいものにしか感じられんくて。ジュースを一口飲んで立ち上がっとった。


「そっち、ええ?」


短い言葉、それだけ言うて指差した場所は慎の隣。指差された場所、座布団も何もない場所を見て俺を見て、もう一度指差された場所を見て。
慎はなんて答えてええのか分からんようで、最後に俺を見ては首を傾げた。せやから俺は遠慮しないで踏み出す。

神様、俺はどうしようもないひねくれた奴です。
せやけどそんな俺かて、好きな奴の笑顔を見たいんです。慎ともっと傍に、もっと一緒に居って肩並べて生きたいんです。

隣に腰を下ろせば、何も言わんで俺の方へ傾く慎の体を受け止めた。あぁ、ずっと誰かに支えて欲しかったんかな、遅なってほんまにごめん。




まともと肩並べ隊




コツリと、ぶつかる肩と肩。
慎の掌に被せる自分の掌。


「ユウジは暖かいよな、色々。」
「さよか?」
「うん、皆から酷い奴だって聞いていたからさ。」
「…誰や、そんなん言うたの。ソイツら死なす。」


クスクス、くすぐるような笑い声。
釣られてしまう自分の笑い声。


「ユウジで良かった。」
「おん?」
「傍にいるのが、ユウジで良かった。」


ことり、預けられる頭の重み。
どくり、苦しくなる心地よい心臓の震え。


「…俺も、慎で、良かった。」


強くなる掌を握る力。


強くなる、愛しいという感情。
もう止まらない、止められない。


「慎が、好きで、良かった。」


出てきた、零れた、溢れた、言葉の重さ。


「…うん。」


慎は、分かって頷いとるの?


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まだまだ続きます。

2013,10,31

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