Day`s eyeをあなたへ | ナノ


  7.リゾット・ネエロの能力


「あれ?ナマエ、目ぇ赤くなってるよ。泣いた?」

ペッシの影に隠れるようにしてリビングに戻ってきたのだが、開口一番メローネに言われてしまい言葉に詰まる。

「ギアッチョに何かされた?」

ニヤニヤと笑うメローネから隠れるようにしてペッシの後ろに隠れる。
なんでこの男はこんなに鋭いんだろう。今だって一瞬しか顔を見せていないのに泣いたことに気づかれるなんて。

「ペッシ邪魔だ。ナマエ、こっちへ来いよ。俺が慰めてやるよ。」

「…いいです。」

手招きするメローネを無視してペッシの影からリビングの様子を伺う。
そこにギアッチョの姿がなかったことに、ホッと胸をなでおろした。

「ナマエ、そこに座れ。」

リゾットの声に一瞬にして場の雰囲気が張りつめたものへと変わる。
覚悟はしていた。
十中八九これから話すことは、私の今後の処遇についてだろう。
リゾットに示されたところへと私は腰かける。

「…もう一度聞く。ナマエ。俺たちに協力する気はないか?」

再びあの威圧するような雰囲気。
この答えを口にしたら、きっと私の命はないだろう。
だけどずっと答えを濁している訳にもいかない。
そして私の答えは、この先ずっと変わることはないのだから。

「………私はギャングではないので組織のこととか、お金のこととか何も分かりません。
でも、ジョルノもブチャラティもボスの行動に疑問を思い、倒すために行動していました。
だから私は、今のまま組織を乗っ取ろうとしているあなたたちに協力することはできません。」

小さな声で、だがはっきりとリゾットの問いに対して否定を示した。
言ってしまった。だけど後悔はしていない。ブチャラティたちを裏切るくらいなら死んだ方がマシだ。
嫌な沈黙が辺りを支配する。
リゾットはため息をついたかと思うと無感情に言い放った。

「ナマエ。お前のその仲間を思うまっすぐな気持ちは美点なのだろう。だがな、世の中には死ぬよりも辛いことが沢山ある。俺はこれから協力を頼むお前をできればそんな目に合わせたくない。先ほどと今、お前の気持ちは少しも変わらないのか?」

「おい、リゾット。お前まさか…。」

無表情。
プロシュートの言葉を無視したリゾットからは、何の感慨も、ましてや断られたことに対する苛立ちの感情さえも、何も読み取れなかった。

その瞬間だった。


「___ッ!!?」

足に激痛を感じて言葉にならない悲鳴を上げる。
何か鋭利なもので皮膚が引き裂かれたような激痛。全身に脂汗が滲む。痛みのあまり足を抱えソファの背もたれに顔を埋めた。

「俺の能力、『メタリカ』だ。俺のメタリカは血液中の鉄分を鉄に変える。ハサミだったり今みたいにカミソリだったりな。今はお前の身体の血液中の鉄分をカミソリに変化させた。」

リゾットの恐ろしい能力に背筋が凍りついた。コロン、と一つのカミソリが私の足から床へと転がる。
これがリゾットの能力、メタリカで私の皮膚を突き破って外に出てきたのだろう。
ボタボタと傷口から血液が滴り落ちる。
リゾットの説明からすると、彼は私の身体中の血液がなくなるまで攻撃を続けることが可能だということだ。
なんて残酷で、そして暗殺に向いた能力だろうか。自分の顔からカミソリや釘なんかが皮膚を突き破ってでてくるのを想像して更なる痛みに身体を震わせる。
恐怖と痛みで身体が動かなかった。

「うわー…。女の子にメタリカはないんじゃないの?やめろよ。ナマエの肌に傷が残ったらどうするのさ。
そんな風に痛めつけるよりもさ、リーダー。俺に任せてよ。
ナマエも痛いより気持ちいい方がいいよな?」

メローネはソファに顔を埋めるナマエの顔を無理やり持ち上げて、脂汗でくっついた前髪を優しく払う。

「俺がお前のこと、快楽でドロドロにしてあげるよ。そうすればもう俺らに協力するのを拒んだりしないだろう?」

痛む身体を無理やり捻って近づいてくるメローネの顔を拒む。

「プロシュートさん…、助けて……っ」

このアジトに連れてこられてから唯一自分に対して優しく対応してくれた男に懇願する。
プロシュートは痛みで涙を流すナマエを見てその吊りあがった眉根を寄せるが、自分を諫めるように一つ息をついたかと思うと冷酷に言い放った。

「___ナマエ。言え。俺たちに協力すると。」

プロシュートの冷たい瞳が突き刺さる。
彼の瞳が言っていた。一言言えば、そうすれば助けてやる。
絶望のあまり私は辺りを見回した。
ホルマジオは先ほどまでのふざけた様子など微塵も感じさせないような冷たい視線でこちらをジッと見つめている。ペッシはオロオロと私とプロシュートの様子を交互に伺っており、イルーゾォに至っては我関せずといった様子で鏡から出てきさえもしない。

「お前はブチャラティたちにお荷物だからと置いて行かれたんだろう?今更何を義理立てする必要がある?
俺についてこい、ナマエ。俺たちがボスを倒した暁にはお前にもそれ相応の対価を与えよう。」

リゾットの台詞に言葉を詰まらせる。
恐怖で喉が張り付いて声がでない。だけど無理やり声を絞り出して私は否定した。

「い、嫌だ……。私は、ブチャラティを裏切れない……。」

答えた瞬間再び同じ個所に激痛が走った。
一度目よりも猛烈な痛み。必死に口元を押さえるが呻き声は押さえきれない。
床に今度はカミソリが二個転がった。

「次は3個、その次は4個だ。途中で足が千切れてもお前が首を縦に振るまで俺はやめない。」

「リーダーってホントに鬼畜。でも痛みを我慢するナマエもディ・モールト良い!
セックスの時の表情みたいでさぁ、興奮するぜ…。せめて俺が優しく抱きしめててあげるからさ、その可愛い顔をもっと見せて。」

ベロリ、と私の首筋の汗をなめとったメローネを押し返す気力もない。
だが力を振り絞り目の前にいるプロシュートさんの顔を見上げる。
彼はジッと深い青色の瞳でこちらを見ていた。睨んでいるわけでも同情しているわけでもない。ただただ、目の前の出来事をじっと見ていた。
きっと彼は私が一言「協力する」と言えば、リゾットを止めて、メローネを止めて、そしてすぐさま私の足を手当てしてくれるだろう。
だけど私が首を縦に振らない限りは目の前でどんなことが起ころうと動かない。彼の瞳がそう言っていた。

___ここに私の味方は一人もいないのだ。

絶望のあまり目の前が真っ暗になった。
それになんだろう。目の前がチカチカとして身体を支えていることができない。
呼吸が苦しい。

「貧血だな。」

リゾットの冷静な声がやけに遠くで聞こえる。
これ以上攻撃されたら痛みがどうとかいうよりも先に、身体の方が限界を迎えることは明白だった。
メローネに抱きしめられていなければ、自分で身体を支えていることすらできないだろう。
密着してくる彼から離れたくて必死に手を伸ばすが力が入らず上手くいかない。

(目が、かすむ…。)

目の前が真っ暗になり意識が飛びそうになる。

(このまま死ぬことができたら、もう苦しい思いをしなくて済むのかな?)

足の激痛、そして精神的なストレスから、ナマエは限界まで追い詰められていた。

もう、いいのかもしれない。
今まで頑張ってきたけどやっぱり私みたいな普通の人間が無理だったんだ。
私はもうブチャラティに会うことはできない。


____二度と。


『さよならだ。』

ブチャラティの冷たい表情が脳裏をよぎる。

__ポロリ、
ナマエの瞳から、一粒だけ涙が流れた。




グイ、腕を引き上げられたと同時に、身体がソファから浮き上がった。
かすむ目を必死に凝らして自分を担いでいる人を見ようとする。

この水色のカールした髪の毛は___?

「…な、ん……、」

だけど一体なぜ?

疑問を口にする前に私の意識は暗闇へと落ちていった。


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