Day`s eyeをあなたへ | ナノ


  5.彼らも人間…?


「…ん……。」

腫れぼったい目を擦ってベッドから起き上がる。
なんだか良い夢を見た気がする。
こんな場所にいるのに何故だろう。先ほどまで明るかった空は、オレンジ色に染まっており陽が傾いてきている。
起き上がろうとした私の身体の上からパサリ、と何かが落ちた。

「ん…?ブランケット…?」

このベッドに備え付けられていたものではない。まさか、誰かが掛けてくれたのだろうか?

「…いや。まさかね。」

ナマエのつぶやきは誰に聞かれることもなく消えていった。
ふとベッドの上に目をやると綺麗に畳まれた見慣れない服が目に入る。

「なんだろ…?これ。」

これを着ろということだろうか。広げてみるとそれは真っ白のワンピースだった。
とにかく着るのを躊躇ってしまうような白い可愛いワンピースだ。
しかしこのギアッチョの大きすぎるシャツを着ているよりはマシだろう。
完全に皺くちゃになってしまっている制服のスカートも脱ぎ捨てて用意されたワンピースを着る。
鏡に映る自分の姿を見てハァとため息をつく。

「…酷い顔。」

自嘲的に笑い腫れた目を擦る。


___コンコン、

ベッドから起き上がった瞬間部屋の扉がノックされた。
返事をする間もなく扉はすぐに開く。

「起きたか。」

「…プロシュートさん。」

「似合ってるじゃねぇか。シニョリーナ。」

プロシュートはナマエの片手を手に取ると、その手の甲に口づける。
王子様のようなその仕草に頭が沸騰したように熱くなる。
そんなナマエの様子を特に気にすることもなく、プロシュートは紳士的に彼女の腰に手を添えて部屋の外に出るようにエスコートする。
あまりにもスマートなその行動にナマエもされるがままだ。

「あの…、この服、置いてあったんですけど、着てもよかったんですかね…?」

「おまえが着なきゃ誰が着るってんだ。メローネに用意させたんだが成功だったな。」

「え”…っ、これ、メローネさんが選んだんですか…!?」

思わず服の状態を確かめる。
それを見てプロシュートは可笑しそうに笑った。

「安心しろよ。意外とアイツ、女にやるもののセンスはいいんだ。たぶんその服に関しちゃあ、お前に似合いそうだからって純粋な理由で選んできたんだと思うぜ。ま、ヤツの服に関しては何も言わないが…。」

確かに、メローネの奇抜すぎる服装と普段の行動を見たら、誰も彼のセンスが良いとは思わないだろう。
それにしてもプロシュートさんがこんな風に笑うなんて思わなかった。なんだか見てはいけないものを見てしまったように気になってしまう。

「と、ところであの…、逃げないので、手、手を、離していただけないでしょうか…?」

「あ?なんだ、お前。こんなんで照れてんのか?」

ニッと笑ったプロシュートさんの笑顔にめまいがする。腰砕けになりそうな私を彼はグッと力強く支えてくれたため更に距離が近くなる。

「しっかり歩け!また縛られて歩かされるよりマシだろう。」

確かに拘束されたまま歩かされるよりはずっといいが、それよりも密着したプロシュートのせいで心臓が持ちそうにないと思うナマエであった。

リビングに入った途端飛び込んできた物体にナマエは悲鳴を上げた。

「ナマエー!やっぱり俺の見立ては間違いなかったね!ディ・モールト!ディ・モールト!ベネ!!
可愛いよ、ナマエ…。」

「ぎゃあっ!!は、離してください…!!」

メローネにすっぽりと抱きしめられてしまったナマエは必死にバタバタと暴れる。
耳元でハァハァと荒い息を上げる男に背筋をゾワゾワとしたものが駆けた。

「おい、メローネ。やめろ。」

やはりプロシュートさんは神様だ。ペッシが『兄貴』といい慕うのも分かる気がする。
私からメローネを引きはがしたかと思うと遠ざけてくれた。

「あ、あの、メローネさん…、この服、ありがとうございました。お、おいくらでしょうか…?」

一応言っておかなければと思いビクビクしながらもお礼を述べる。
そんな私を見てメローネは優し気に微笑んだかと思うと口を開く。

「ナマエ。俺はお前にそれを着てほしいと思ったから選んだんだ。お前は金のことなんて気にしなくていいんだぜ。それを着てその姿を俺に見せてくれただけで俺は満足さ。」

「メローネさん……。」

思わず彼の言葉に感動してしまう。
もしかして私は今まで勘違いをしていたのかもしれない。私のことを信用していないからあのようなことをしていただけで、本当の彼は実は良い人なのかも。
そう思ったのも一瞬のことだった。

「まぁその服を剥くのが俺の楽しみなんだけどな。」

「ハハッ!メローネ!俺もそれに一票!」

ソファに座るホルマジオも同意を示してくる。
感動して損をした。

「ん?ナマエ、それ…。何を抱えてるんだ?」

メローネに指摘されたものは私が部屋を出たときからずっと抱えていたものだった。

「あ、これ…。誰かが寝ていた私にブランケットをかけてくれたみたいで…。返そうと思ったんですけど、どなたのですか…?」

私の言葉にこの場にいないリゾットと鏡の人以外の視線がそのブランケットに集まる。
「あ」と声を上げたのはペッシだった。

「それ、俺見たことあるよ。掃除をしていた時に、確かギアッチョの、「うぉおおいッ!!コラァッ!!ペッシ、テメェェエエ!!」

突然ペッシに向かって怒鳴り声を上げたギアッチョに怒りを向けられた彼本人は勿論、私も驚いて身を竦ませた。
そんなギアッチョの可笑しな態度に対して怪しげな声を上げたのは勿論この男だ。

「ギアッチョォ〜?お前も隅におけないなぁ?いつの間にナマエに取り入ろうとしたんだよ?」

「は、はぁ!?俺はそんなことしてねぇし!!ペッシの勘違いだろ!!」

「別にそんなに隠すことじゃあないだろ?それとも何か?さてはお前寝ているナマエに興奮して何かイタズラしようとしたんじゃあないだろうな?」

「テメェじゃあるまいしする訳ねぇだろッ!!ボケッ!!」

なぜかギアッチョさんはブランケットを掛けてくれたことを頑なに認めようとしないが、メローネ同様私にもこれが彼のものであるとなんとなく確信があった。
ブランケットからは彼のシャツと同じ爽やかな香りがしたからだ。
恐る恐る怒りが爆発しそうな彼に話しかける。

「あ、あの…。ギアッチョさん。」

「あ”ぁ!?なんだ!?文句あんのか!?」

目の前の彼はそれはそれはすごい迫力だ。しかしここで怯んでいては今後彼とのコミュニケーションは成立しないだろうと、勇気を振り絞ってブランケットとずっと借りていたシャツを差し出す。

「こ、これ…!ありがとうございました。本当はしっかり洗濯して返すのがマナーなんでしょうけど…、さすがにここのものを勝手にお借りするわけにはいかないので…。」

「別にいらねぇよ!!」

「むしろそのままのほうが都合がいいよな?ギアッチョ!」

またこの男は止しておけばいいのに余計な事を言わずにはいられない質なのか。
ギアッチョはスタンドこそ出さなかったが、視線だけで人を殺せるんじゃないかと思うほどの睨みをメローネに対して送ると、私の手から奪うようにそれらを受け取り部屋のあるほうへと向かっていった。
きっと自分のスペースに置きに行ったのだろう。

「さぁ、座れ。ナマエ。」

いつの間にかリゾット、それに全身包帯グルグル巻きの鏡の人がソファに腰かけていた。
リゾットに促されるまま私はメローネから一番離れたソファへと腰かける。

「あれぇ?すっかり嫌われちゃったみたいだな?俺。」

「当たり前だろ。少しは自分の行動振り返ってみろや。」

プロシュートさんの言う通りだと思います。
一方そのまま私の隣に座ってきたプロシュートさんにドギマギしてしまう。彼の隣も少し心臓に悪い。

リビングの雰囲気は重い。
今度は一体何を言われるのだろうかとドキドキしながらリゾットが話し始めるのを待つ。

そしてついに彼はその口を開き、低い声でこう言ったのだ。

「午後6時___。夕飯にするぞ。」

私は思わずずっこけそうになった。


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