Day`s eyeをあなたへ | ナノ


  2.ようこそ、暗殺チームへ


ここはどこだろうか。
重たい目を必死に開けて辺りを見回す。
ガシャリ、と自分の手首から鳴った音に驚き、身を起こそうとするが上手くいかない。
どうやら両手を手錠か何かで真上に繋がれているようだ。
漸く私は気を失う直前に起こったことを思い出した。
そうだ。彼らは確か、メローネとギアッチョと名乗っていた。
トリッシュを追っていた暗殺チームのメンバー。私はついにあの男たちに捕まってしまったのか。
だけど今の私を捕えたところでなんの価値もない。だってブチャラティたちとは完全に袂を分かったわけなのだから。
聞かれたところでトリッシュの居場所など答えようもない。

(私、殺されるのかな)

だけどそれでもいいのかもしれない。
フーゴには悪いがはやり私には今更普通の生活に戻るなんてことはできそうもない。
きっといつになってもブチャラティのことを忘れることはできないだろう。
このひび割れて壊れそうな心を抱えながら生きていくくらいなら、一層のこと。

__カチャ、

誰かが部屋に入ってきた。必死にそちらに目をやるが、満足に起き上がることもできないため何も見えない。コツコツと私が寝ているベッドに近づいてくる音に恐怖で身体を震わせる。

「漸く起きたんだね。ナマエ。」

このどこか甘ったるいような胸やけしそうな声は今さっきも聞いた。自分の視界に男が踏み込んだことにより、私の予想が当たったことを確認する。
メローネとかいうこの男が私は怖くてたまらなかった。
優しそうな顔に声、それなのに目の奥は笑っていない。
正直この男よりもあの氷使いのギアッチョとかいう男のほうが、まだまともそうなのでそちらであることを期待したのだが、現実はそう甘くはない。
願わくば以前に出会ったプロシュートさんならもっと良かった。
彼ならまともに話ができそうだと思ったのに。

「ハハッ!俺で期待はずれって顔してるな。…ずいぶん嫌われたもんだぜ。
『まだ』何もしていないはずなんだけどなぁ〜。」

「な、何が目的なんですか…!?私はもうブチャラティたちと一緒に行動はしていません…!トリッシュの居場所をいくら聞き出そうとしたって無駄ですよ…!」

必死に虚勢を張る私を男は一笑に伏したかと思うと、私が拘束されているベッドの端に腰かけた。
ベッドはギシリと安っぽい音を鳴らして二人分の体重を受け入れる。
すると男は私の頬に手袋をした手を当てると肌の感触を楽しむかのように撫で始める。
ゾワリとした感覚に鳥肌が立ったが、その目に見つめられるとなんの抵抗もできなかった。

「メローネ。」

「……は、」

「俺の名前はメローネだ。さぁ、その小鳥のよううな可愛らしい唇で言ってみて。」

「メ、メローネ…。」

「うぅーん!ベネッ!!良いぞ!ディ・モールトベネだッ!」

途端恍惚とした表情を浮かべるメローネに恐怖だけでなく気持ち悪いという感情も抱く。
はぁはぁと息を乱す男が気持ち悪くて仕方がない。
この男の目的が分からなくてゴクリと喉を鳴らした。

「ねぇ…!わかったでしょう…?私を捕まえたって今更無意味なの…!だから早く私を開放してよ…!」

メローネは人当たりのよさそうな顔でニコリと笑ったかと思うと残酷な言葉を放った。

「ダーメ。俺たちの目的はトリッシュだけじゃない。お前にもあったんだぜ。ナマエ。
大丈夫。手荒な真似はしないさ。お前が大人しくしていればの話だけどな。」

そう言うとメローネは頬を撫でていた手をスルリと首のほうへおろして、私の着ていたパーカーのジッパーをゆっくりとおろし始めた。
男の目的が嫌でも分かってしまった私は、身体を捻って必死に抵抗する。

「や、やめて…っ!!こんなことして、ただで済むと思っているの…!?」

「んー?お前が俺に何かするって?ハハッ!面白い冗談だな!
___できるならやってみろよ。」

男はベッドサイドに座っていた身体を完全にベッドの上にのせて、私の身体の上に馬乗りになる。
そして一気にパーカーのジッパーを開け放った。
中には下着しか身に着けていなかったので、男の眼前にあられもない姿を晒してしまう。

「んー、やっぱり良い身体をしている。とても小娘のものとは思えない。だがこのパーカーはあまり頂けないな。俺としては前に出会ったときに着ていた服のほうが好みだったんだが、あれはどうしたんだ?」

恐怖で男の言葉など耳に入ってこない。
抵抗できなくてただ身体を震わすことしかできなかった。

プツンと頼りない音が聞こえた瞬間、今まで支えられていた胸が開放される。
ふるりとブラジャーに圧迫されていた胸が大きく揺れた。
それに気がついて漸く私の口からは抵抗の声が出始めた。

「や、やだぁ!!やめて!!やめてよっ!!誰か!誰か助けて…!」

「綺麗なピンク色の乳首だ。ディ・モールトベネ!!あんな男たちの中にいるんだからてっきり使い込んでいるものだとばかり思っていたが…、ブチャラティとはまだ繋がっていなかったのか?」

叫んだ私を黙らせるように男はズィと顔を近づけて大きな手で口を塞ぐ。

「んーッ!んーっ!!」

「叫んでも無駄だぜ。ここには誰も助けになんて来ない。
さぁ、身体検査の続きを始めるぞ。」

メローネの手がスカートの中のショーツに伸びる。
「終わった。」私はこの変態に犯されてしまうんだ。そう思うと涙が溢れてくる。
ジュルリ、メローネが耐えられないといったように涎を垂らした瞬間だった。

「ガッ___ッ!」

苦しそうな声と共に私の上に乗っていた重みがなくなる。
そして向かい側の壁にメローネは思いきり突っ込んだ。
目の前で起こった出来事が理解できずに私は目を白黒させた。
私の足元に立つ美しすぎる男には見覚えがある。
彼だって初めに会ったときは敵として現れたはずなのに、今の私には救いの神にしか見えなかった。

「メローネよぉ…。目が覚めたらまず報告だって俺は言ったよなぁ?それがなんでこんなことになってんだ?テメェ…。誰がこの女を襲っていいって言ったよ!?えぇ!?」

「お、落ち着けってプロシュート…。今のはなかなか良い蹴りだったぞ…!」

プロシュートに顔面を蹴られて、鼻から口から血を流すメローネは何故か嬉しそうにニヤニヤとしている。
そんなメローネをプロシュートは無視して私のほうへと向き直る。
彼は部屋の机の上から何かをとると、私の横になるベッドへと近づいてくる。
一瞬ビクリと身を竦ませると、彼はそれに気がついたのか「何もしねぇよ。」と一言だけ言うと私を拘束している手錠をあっという間にはずしてしまった。
未だ血を流すメローネから「あーあ。」という声が上がるが、その声色に特に感情はこもっていない。

「さっさと服を整えろ。またあそこの変態に襲われるぞ。」

「は、はい…。」

たけどプロシュートがちっとも視線を逸らしてくれないので、ブラジャーをはめるのに戸惑ってしまう。

「あ、あの…。」

「ダメだ。」

「え…?」

「後ろを向いてほしいって言うんだろ?それはできねぇ相談だ。俺はお前を信用していないからな。
安心しな。そこの変態と違って俺はテメェみたいなガキには興味はねぇよ。」

きっとプロシュートさんは頑として自分の言い分を曲げないだろう。むしろ彼はまだ紳士的な方だ。このメローネとかいう変態に比べれば。私は変態の舐めるような視線を気にしないようにして手早くブラジャーをつけた。
そしてパーカーのジッパーを上げようとしたときに「あ」と思わず声を上げてしまう。

「なんだ?」

「あ、あの…、服のジッパーが…。」

先ほどのメローネが無理やりジッパーを引き下げたせいだろう。見事にジッパーが壊れてしまったそのパーカーはもはや本来の機能を果たしてはいない。必死に前の隠すように服の端とは端を手繰り寄せる私を見てメローネは舌なめずりをする。
プロシュートはそれを見て一つため息をついたかと思うと口を開いた。

「おいメローネ!ギアッチョを呼んで来い!アイツの服ならコイツにも着られるものがあるだろう。」

「え〜、なんで俺が?プロシュートが行けばいいだろう。」

プロシュートは悪びれもなくそういうメローネに対してカッと目を見開いたかと思うと、もう一度その顔面に蹴りを入れた。

「テメェとナマエを二人にできねぇから言ってんだろうがッ!!俺は!!」

メローネの端正な顔立ちは見る影もなく血だらけだ。なのに彼は嬉しそうによろよろとその場から立ち上がって鼻歌を歌いながら部屋から出て行った。

「ったく…、相変わらずだな。アイツは。」

今部屋の中には私とプロシュートさんしかいない。
意を決して私は一番話の分かりそうな彼に聞くことにした。

「あ、あの!ここはどこなんですか!?わ、私、なんでこんなところにつれてこられたんですか…!?」

私の顔をジッと見つめた後、プロシュートさんは近くにあった椅子を引き寄せてベッドの横に置いてそこに腰かけた。
ただの安っぽい椅子だというのに、彼が座った途端高そうなものに見えるから不思議だ。
そして私は目の前の彼から驚きの言葉を聞くことになる。

「…ここは俺たち、『暗殺チーム』のアジトだ。テメェはメローネとギアッチョに捕まったんだよ。せっかく俺が見逃してやったのに、結局つかまってりゃあ世話ねぇな。」

ハンッ、と鼻で笑う彼の癖は数日前に見たままだ。
そんなことよりもどうしよう。
まさか敵対していた暗殺チームのアジトに連れて来られてしまったなんて。

「ま、覚悟を決めるこったな。俺たちはブチャラティたちのように甘くはねぇぞ。」

私の額から、今更ながら冷や汗が流れ落ちた。


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