ガイ夢
  



私達の横を通りすぎる彼女らを横目に見れば、それは最高の甘味を食べたり自分好みの洋服を見つけた時よりも、断然輝いており思わず目を細めた。

何故こうも彼女らと自分は違うのだろうか、可愛さよりも機能を重視した服装(それでも私は結構気に入っている)と幸が薄そうな自身の表情を思い浮かべて、その理由はあまりにも明確である事を再確認させられる。


しかし仮に私がめかし込んで春の日溜まりの如く笑みを浮かべても彼女、否、彼女と彼の幸福そうな雰囲気に勝るという事態はおこらないのだろう。

それこそ奇跡がおこらねばならない、何せそうなる為には前で歩いている、正確に言うと1メートル先を歩く彼をどうにかしなければならないからだ。

その彼をどうにかするのが自分にとっても、また彼にとっても流れ星を捕らえるのと同じ位に難しく、そして長い間存在し続ける問題である。


野に咲くタンポポの様な金髪を恨めしげに見つめた後、私は息と共に行き場のないこの気持ちを吐き出すと、聞こえてしまったのかゆっくりと金髪の彼がこちらを向いた。



「どうしたんだ?」

『あっ、いや、何にもありませんよガイさん』



その声はどんな人間の耳にもするりと入ってきてしまうだろうと思う程に心地好いものであった。

その声が今は自分を心配する為に発せられたものと思うと、一時的な優越感に満たされ、知らずの内に目元が優しいものへと変化する。


それと同時に彼に気を使わせる自分に対する嫌悪感が次々と生まれ、それは月や太陽を隠す分厚い雲のように先程の優越感を覆っていき、私の心から光を奪い去る。


しかしここでこの気持ちを隠す事なく言葉を吐露すれば彼を心配させるのは目に見えてるので、先程横を通った彼女のようなあの笑顔を目指し口角を上げ、目尻を下げた。



「そうか…」



その言葉と共に前を向き再び歩みを進めた彼の背中をぼんやりと見つめた後、私も距離を詰めぬように歩き始める。


勘の良い彼は私の心情にはたして気付いているのだろうか、気付いたとしても彼に他人にましてや女である自分に対して、“仲の良い友人”としての境界線を踏み越えられる事が出来るのであろうか?

その答えはとうの昔に出ていた、今までの友人としての関係を越える事などあってはならないし、私自身も彼との距離がこれ以上遠ざかる位ならその選択を甘んじて受けようではないか。


今の私達にある物理的な距離くらいが丁度いいのだ、遠すぎず近すぎずの曖昧な距離、近付こうと思えば簡単に縮められ逆に離れようと思えば簡単に広げられるこの、この、この1メートルの距離。



(この距離を作ったのは)

(他でもない、彼女だというのに)



2012/04/12 19:10

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