何故、こうなったのだろう。 首筋に痛みと熱と痺れを感じながら、ぼんやりとその言葉を思い浮かべた。 鳶色のツンツンとした髪の毛が肌を擽り、それによって生じるむず痒さが気になって何度か身を捩ろうとする。 しかしその行為は彼にとって許されざるモノの様で、私の腰に巻き付く彼の赤い腕は先程よりも確実に強くなっている。 『ロイド君、』 どうにかしてこの状況を打破しようと名を呼べば、首筋に埋まっていた顔がゆっくりと上がり此方を見る。 その表情は普段とは全く異なり、凛々しい眉は情けなく下がり髪と同色の瞳には薄い水の膜が張っていた。 思わず言葉に詰まり、此方まで悲しくなってくる。 「好き、なんだ…好きで好きで堪らないんだ、大好きなんだ」 彼の目から溢れた滴が私の服を濡らし染みをつくる。 その様子は普段の彼からは想像もつかない程弱々しいもので、はたしてこれは現実におこっている事なのか未だに識別できずにいた。 只、首を縦に振る事は出来なくて向こうが最も聞きたくなかったであろう言葉を口にした。 『ごめんね』 そう言い放った瞬間、痛みが走る首筋と血が止まるんじゃないかと思う位に強く掴まれた腕。 その行為は私の意思を無視した無理矢理なものであったのに、咎める事をしなかったのは、 彼が余りにも悲しそうにそして私を好いているからこそおこった事なのだと分かっていたからである。 しかし、その行動が反って彼を悲しませる事も、彼の胸の内も理解しているのに、彼の望む返答を出来ない自分にも嫌気がさし何だか此方まで泣きそうになった。 - 2012/04/06 19:18 |