フランス夢
  


熱を帯びる小指に視線を向ければ赤い線となった切り傷が確かにそこにあった。

私の肌から必死に主張するかの様に目立つそれはぷくりと同じ赤色の粒を生み出し、瞬く間に弾けて私の小指を伝っていく。

重力に従順なそれはゆっくりとしかし確実に下へ地面へ落ちる、堕ちる、墜ちる。


ふと小指から目の前に視線を移動させると、同じ赤色の薔薇が気高くそして美しくこの庭園で凛と咲き誇っていた。

その様子を記憶に刻みもう一度己の小指を見て今すぐに私は先程の考えを訂正したくなった。

何を言っているんだ私は、薔薇の赤の方が比べられぬ程美しいじゃないか。


ぼんやりと思考にふけっていた私に先程まで存在しなかった陰が私の体とその付近に生まれたのを認識し、何事かと顔を上に持ち上げると見知った金髪がいた。



「怪我しているのに何も処置をしないのはお兄さん感心しないなあ」

『別にこんなの怪我に入らないよ、舐めていたら治る』

「その舐める処置もしていなかったのに?」



肩を竦めてそう言うフランスに私は言葉に詰まった。

揚げ足の一つや二つ取ってやろうかと思いはしたが、そんな幼稚な行為を既に年齢が三桁となった女がするのは如何と思い思案するのみで留めた。


結局反論の言葉を紡がなかった私に対し自分の意見が正しいと思ったのか、彼は私の手を握り傷口に常備している(らしい)ハンカチをあてて止血をしている。

純白のハンカチに赤い斑点が浮かび上がり周りの白を呑み込んでいく。

その時私は思ったよりも血が出てるなとか染みとして残ってしまったら申し訳ないな、等と呑気に考えていた。


しかし私は何故あの切り傷を眺めていたのか。

いくら昔はやんちゃばかりして怪我が多かったにしても今は比較的に平和となった世の中で、小さな怪我にも気にする事が出来る時代になった。

だけど私はその指にできた赤い横線から目が離せなくなっていた、自分に何かを錯覚させたソレに。

今一度、己の小指に絡む様に存在を主張するその線を思い浮かべた所で私の思考回路は一度ストップした。


嗚呼、そうだ、これはこの存在は、



『赤い糸だ』



ぽつりと無意識に呟いた言葉に対して目を丸くするフランスと、無表情で納得する私が織り成すこのシュールな空間は後に国宝級になるのかもしれない。

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2012/03/11 10:31

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