正義王とザクセン
  



※ほんのり死ネタ表現有り




「ザクセン、私はねお前の王であったことを誇りに思っているんだよ」



か細く所々掠れている声で穏やかに笑いながらそんな事を口にする彼は、恐らく誰が見ても今すぐ死んでも可笑しくないと思う程に弱っている。


若き頃より肉が失われた事によって喉に出来た皺が、声帯を動かす度に小さく動き一つの生き物の様にも見れた。

その皺は勿論喉以外にも出来ていて、出会ったあの頃から随分時が経つのだと感じさせる。


木の棒みたく今にも折れてしまいそうな腕を私に伸ばして頬に触れた所で私はその手を包み込んだ。

昔まるで日だまりの様だと感じた手は、あれはまやかしだったのではと思う程氷の様に冷たかった。



「ザクセン…否、ザンよ

私はお前の事を民として、王として、父として支える事が出来ていたか?」



あの頃から髪も体型も何もかも変わり衰えてしまった彼だが、(人間から見て)長い時が経った今でも変わらない力強い瞳を此方に向けていた。

その瞳は私が査定をする事を懇願しているかの様にも見えて、この御方も人の子なのだと再確認させられる。

王である貴方に対して私が首を横に降るなんて事しないのに。



『……当たり前じゃ、ない…ですか』



言いたい事は一杯あった、私が貴方にどれだけ忠誠を誓っているのか、どれだけ貴方の事を思っているのか、この両手では抱えきれない程の気持ちが溢れていた。

筈なのに、

目頭が熱くなって視界が一気に霞む、喉が渇いて掠れた声が途切れ途切れに溢れる。


嗚呼、恐ろしいのだ私は。

貴方を失う事が、この手から溢れ落ちる事が、視覚で聴覚で嗅覚で貴方を捕らえられなくなる事が、恐ろしくて怖くて仕方がないのだ。



「ありがとう、我が娘よ」


柔らかい声音と共に頬から頭に移動した掌に酷く安心し、それとは逆にこんな時にまで心配させてしまう自分に不甲斐なさを覚える。

頭がこれ以上情報を得ることを拒んでいるのか、締め付けられるかの様な頭痛に襲われ固く目を瞑った。

痛みに耐えながら無理に作る笑顔は恐らく歪で不細工で、一体私は何のために戦って今の瞬間まで存在しているのだろうと、別の意味で泣きそうになった。



(その三日後)

(貴方は美しい星屑が散らばったかの様な瞳を閉ざした)


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2012/01/28 19:23

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