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02 : SF



「替えんの服はあっと?」

「はい、予備があるんで」

「荷物はここの和室。お風呂はこの廊下の突き当たり。タオルとかは出してるし、何枚でも使ってよかやからね。洗濯カゴは見たら分かるわ、一緒に着てる服も出しといて」

「だ、大丈夫です。洗濯物は持って帰るんで…」

「濡れたままやと色移りしたりするかもしれんよ? 下に水着も着ちょるんやろ?」

「でも…悪いし…」

「いやらしい子やなあ。遠慮なんかせんでよかとよ?」

「…………ごめんなさい」

「そういうとこ、素敵やと思うよ。今日は来てくれてありがとう、ずっと楽しみにしちょたんよ。ゆっくりしていってね」



 そう優しく言うと、鯉登くんの母親は廊下を背にして行った。

 私はなんだか気恥ずかしくて、ずっと俯いたままだったけど。

 正直、そういってもらえて凄く嬉しかった。
 というか安心した。

 こんな些細な事でちょっと泣きそうになっている自分がいる。


(…私ってそんなに涙もろかったっけ?)


 正体のわからない感情を抱えたまま、私は風呂場の扉を開けた。入って早々、横幅一メートルはありそうな巨大な鏡に映った自分と目が合う。

 鯉登くんの家に来てから、一般家庭とは異なるものばかりで、それを例える事ばかりしかしていないけど、例えるならデパートのトイレの手洗い場みたいだ。

 唯一違うところをあげるとすれば、手洗いのシンクが1つしかついていないのと、となりにガラス貼りの壁がある事くらい。


(え……浴室がガラス貼りなの?)


 浴室は、浴槽が普通の2コ分くらい大きくて、床に埋まっているデザインという以外は普通だ。

 鯉登くんが小さい頃からこういう環境で育ってきたと思うと、鯉登くんのちょっと風変わりな感じも理解できるような気がしてきた。

 まるでどこかのホテルのような造りだけど、洗面所の収納カゴの中にスキンケア用品や髭剃りが置いてあったり、布製の洗濯カゴの中に服が入っていたりと、生活感を感じてどこか落ち着かない。

 人の家に泊まるのは馴れているはずなのに…。


(そういえば、親に歓迎されるって何気に初めてかもな…)


 服を脱ぎ、髪を洗いながらそう考えた。

 だいたい、その日は親がいなくて寂しいから泊まりに来てと頼まれるのが大体だったし、親がいたとしても会釈くらいしか挨拶もしなかったし。

 

「………湯船気持ちイイなぁ」




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