久しぶりに寄ったあんみつのお店。店主の人は、私の事を覚えてくれていて、地元でも有名な鯉登くんと一緒に来た事を驚いていた。
「鯉登くんって、有名人なんだね」
「狭い町だからな」
「中学生の時までは、ここに居たんだよね。よく遊びに行ってた場所ってある?」
「ジャスコ」
「ジャスコ!?」
数年ぶりに聞いたその言葉を思わず繰り返す。そんな懐かしい言葉が、よりにもよって鯉登くんの口から出るとは思わなかった。
「い、いやいや。もうジャスコはないじゃん。イオンでしょ?」
「そうとも言うな」
世界一タフな幼稚園児みたいな言い訳をして、鯉登くんは氷の浮かんだ緑茶に口をつけた。
「なんか、他には?」
「海以外、特になにもない場所だぞここは」
店内の冷房は想像以上に心地よく、ついつい長居をしすぎてしまう。壁にかけられた扇風機が、時々首を振ってこちらに送ってくる風を感じながら、小学生の時の教室を思い出していた。
「そろそろ行くぞ」
鯉登くんがそう言い出す頃には、もう時刻はお昼過ぎの1時前だった。
さっさと会計を済ませて外へ出ると、目も眩むような正午過ぎの日光が、私たちの頭上から差し込んだ。体の芯に残った冷気ごと、体も一緒に溶かされるような気分だ。
「暑い…」
「さっさと家に帰るぞ」
「っていうか、お昼前におやつ食べちゃったね、私たち」
「…………すっかりわすれちょってじゃ」
どこからか、メッセージの着信音が聞こえた。私のかなと思って携帯を見ると、画面には何も表示されていない。代わりに鯉登くんが、彼の携帯画面をこちらに見せてきた。
「おっかはんからじゃ、昼飯を食うなら半までに帰れと行っている」
「余裕で間に合うよ」
蝉も鳴かないような暑さの中、私たちは行きに登った坂を下っていった。