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02 : SF



 鯉登くんの母親、もといユキさんが作ってくれた冷麺をご馳走になる。鯉登くんの父親も、花沢の家の人も、まだ海にいるらしい。

「そういえば、船って何? 漁船か何か?」
「おやっどが趣味で持っちょ船じゃ。あれに乗って、何をしているのかはようは知らんが」
「鯉登くんは乗った事ないの?」
「船酔いする」
「車でも酔うもんね」

 鯉登くんは表情を硬くしたまま、何も言わなかった。やぶ蛇になる前に、この話はやめといた方がいいかもしれない。
 全く関係のなさそうな話をしようとした時、鯉登くんが先に口を開いた。

「…この間の女子からラインが来た」
「なんの話?」
「お前……」

 鯉登くんが顔を曇らせ、私に言い寄ろうとしてくる。私は瞬発的に凄まじいスピードで頭を回転させ「思い出した! 球技大会の時の子ね!」と返した。

「全く、わいが言うたからに…」
「それで? なんてきてたの?」
「……………来週の月曜日の予定を聞かれた」
「デートじゃん」
「ふむ……」
「どうする? 行くの?」
「うーん…」

 鯉登くんはどうでもよさそうに唸り、畳の上にごろりと寝転がった。


「映画を見に行こうと言っている」
「なんの映画」

 聞くと、最近公開し始めたばかりの映画だ。話題性もある。映画に人気の映画、すごく無難だ。

「あの映画ね。私も気になってたんだ」
「なら、今度見に行くか」
「え? なんで?」

 本心がモロに口に出るというのはこの事だろう。考えるより先に口が動いた。

「いやいや、その子と見に行ったらいいじゃん」
「分かってないな、飛鳥」
「なにが」
「つまらん映画だったらどうする。よく知らん相手とつまらん映画を見るより、知っている人間と予習しておいた方がいいだろう」
「はあー、なるほど………」

 鯉登くんも鯉登くんなりに考えがあるみたいだ。まあ、一理ある。

「重複して見るのは鯉登くん的にアリなの?」
「アリだな」
「うーん…。そうだね…じゃあ、うん。行こっか」

 廊下の方で、ユキさんが鯉登くんを呼ぶ声がする。

「音、音之進ー」
「なんじゃ」
「裏の井戸からスイカ取ってきて」
「いっつ持ってきたやよか」
「全部」
「はあ? 全部?」
「今おやっどさんから、ラインきてな。もうすぐ帰る言うから、花沢さんの分もスイカ切らなあかんのよ」
「そげん沢山いらんじゃろ。4玉もあるぞ」
「夕飯の後の分も入れてや。いいから行っといで」

 不服そうな鯉登くんの肩を叩く。

「私も手伝うよ」
「めんどくさい…」
「2人でやればすぐだって。井戸みたいし」
「なんもおもろいもんじゃなかと」

 変な事を言うやつだという目で、鯉登くんは私を睨んだ。



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