その日、尾形がオフィスに出勤するなり数人の間でざわめきがおこった。
『えっ、俺が行くんですか?』
『大丈夫、主任は谷垣くんの事気に入ってるから!』
尾形を見つめる人だかりの内の1人が押し出されるように尾形の方へと出される。
「よう、谷垣」
「おはようございます。尾形主任」
「朝っぱらから騒がしいな」
「はあ、その事なんですけど…」
自分のデスクの上を片付けながら尾形は「なんだ」と尋ねた。
「運送の杉元から聞いたんですが、主任にお子さんがいらっしゃるんですか?」
「ああ、いる。娘だ」
谷垣が驚いた様子で息を吸う。膨らんだ胸部で、ネクタイの下にあるはずのボタンが今にもはち切れそうなのが、見なくても理解できた。
「おい、いつまで突っ立ってる。さっさと仕事に戻れ、午後から俺は休暇でおらんぞ。今の内に案件作ってこい」
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