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- ナノ -
カカシさんとの食事に行きます、と言った翌日。私は今までにないほどの憂鬱な気持ちで任務に当たっていた。
今日の任務は、フォーマンセルの二小隊で要人の護衛だ。と言っても私程度の上忍は要人に直接付くのではなく、要人の訪問先の建物外での警備ポジションだった。
ちなみに要人の直接護衛はなんとカカシさんが付いている。朝、火影様からの召集があり火影室へ向かうと、彼は私に気付いてニンマリと笑っていて、嬉しいんだか気まずいんだからわからないような気持ちになった。
今まで任務で一緒になることなんて無かったのに、こんなところまで一緒になってしまうとは。
偶然は続くものである。運命すら感じてしまう。


まぁその任務も無事何事もなく終え、一同火影室へ報告に戻る。今回の総隊長であったカカシさんは報告書の作成があるので、私たちには帰っていいぞと解散を促した。
任務もさながら、報告の最中もテキパキとしていて、本当に彼は素晴らしい上忍なのだなとしみじみと感じた。
私はそのお言葉に甘えて、まだ日も暮れていなかったが早々に帰宅することにした。

しかし、家に帰っても週末のことが気になって何も手につかない。緊張と憂鬱から胃の調子も良くないので食欲も沸かない。こうなると家に篭っているのが辛くて仕方なくて、私服に着替えて再び街に出る。

しかし暇だ。服も欲しいものがなければ、見たい映画も最近は全て見てしまった。つまらないなぁ、と何の目的もなく街をうろついていると、とあるのぼりが目に留まる。
「イチャイチャシリーズ取り扱い中!」という書店のぼりだった。
悩み事の種が揃えられているというその文言に、私は吸い寄せられるように書店の店先へと足を向ける。
店外の平積みのコーナーには、確かにイチャイチャパラダイスとイチャイチャバイオレンスが並べられていた。
成人向けの本なので立ち読みができないように封がされている。
これを週末までに急いで読むか、それとも諦めて最初から謝ってしまうか──私の頭の中にはその二択が浮かんだ。
私は胸の前で腕を組み、しばらくその場でじっと考える。

心を固めると、周囲を見渡し誰の気配も感じないことを確認し、平積みの山から二冊を手に取り店内へ駆け込んだ。
そのまま会計カウンターへ小走りで向かうと、本を出すなり食い気味に「カバーをお願いします」と伝え、合計金額ぴったりのお金を会計トレーに載せる。
鬼気迫る私の表情に、本屋のおじさんもオロオロしながらカバーをかけ、紙袋へしまってくれた。彼が金額を確認して「丁度ですね、ありがとうございました」というや否や、私は包みを受け取り胸の前に抱え、またまたダッシュで店を出た。
しかし──

「あれ、カナじゃないの」

何という偶然でしょう。報告書を書くから先に帰っていいよ、と言っていたあの声と同じ声が店を出た途端、真横から聞こえてきたのだ。

「カカ……カカシ隊長……?」
「なに、幽霊でも見たみたいな顔して。しかも隊長って、恥ずかしいからやめてよ」

私は出入り口の邪魔にならないように、少しだけカカシさんの方へ近寄った。

「いやぁ、まだ報告書書かれてるはずなのにもうこんなところにいるなんてとついびっくりしてしまいまして……」
「あぁ、オレ報告書に時間かけるの嫌いでさ、一件15分って決めてるのよ。そのあと別件でまた火影様と話してたからこんな時間だけど」
「へ、へぇ〜、そうなんですかぁ」

カカシさんの立ち位置を話しながら確認すると、丁度彼の視線の先には店内の会計カウンターがよく見える。
いつからここにいたのか知らないが、運が悪ければ私が何を買ったかなんて見えてしまっている筈だ。
どうしよう、まずい──私は額と背中から汗がじりじりと吹き出してくる。

「カナはもう一回家に帰ったんだね」
「え?!なんでわかったんですか?!」
「え?だって私服姿だし」
「あぁ、そうでしたね……」
「初めて見たけど、雰囲気違っていいね。かわいい」
「いやいや!何をおっしゃいます?!」

突然の「かわいい」発言に素っ頓狂な声が出た。
特に女性としてだとか、そう言う意味は無いのかも知れないが、イチャイチャシリーズの本を購入したことがバレないように警戒心だけで全身を固めていた私にとっては予想外の出来事すぎて、一気に全身がふにゃふにゃになる。
おまけに、カカシさんは様子の変な私にお腹を抱えて笑っていて、その笑顔がまた反則級に素敵で胸がキュンとしてしまう。もうマスクをしていても、彼の表情がよくわかってしまうようになっていた。

「あはは!今日のカナは面白いね」
「いつも通りですよ?!」
「いやぁ、週末が楽しみだな」

その言葉に、胸の奥が痛くなる。わざと嘘をついたわけではないけれど、どうしても彼を騙して近づいたような気がしてしまってならない。
ここで何も言わないのも不自然なので、「私もです」と取り繕った。無意識に包みを抱える腕に力が入る。

「そういえば、何か買ったの?」

不意に彼の視線が私の腕へ降りた。
私は焦って包みを背中に隠す。

「え?!あ、これはその……悩み事の解決本というか……」
「悩み事かぁ。任務絡み?」
「ま、まぁそんなところです……」
「上忍になりたての頃は特に色々あるよな」
「そうなんです……もう毎日毎日胃が痛くて……」

なんとか無理矢理誤魔化せたぞとほっとしているたのも束の間、急に彼の右手が私の目の前に伸びてくる。
何事かと思って身を硬くし、ギュッと目を瞑った。
すると、すぐにポン、と頭に優しい感触が走る。
恐る恐る、ゆっくり瞼を開くと──微笑んだ顔のカカシさんが、私の頭に触れていた。
映画や少女漫画のワンシーンのような、まさに胸キュンシーンそのものである。

「ま、オレで良ければ何でも聞くから!今日は帰ってゆっくり休めよ」

彼にハートを撃ち抜かれまくりの私は、もうこれで息の根が止められてしまうんじゃないかと思う程の衝撃を受け、思わず後ろに隠した包みを落としてしまう。
ガサッと大きな音がして「しまった」と思った時には既に遅く、紙袋から二冊の本が飛び出していた。本は、若干カバーから表紙が透けて見えていた。
急いで私は紙袋に戻し、彼の方を向き直すと「大丈夫?」と微妙な表情をしている。

「全然大丈夫です!金曜日すっごく楽しみにしてますね!今日はお疲れ様でした!失礼します!」

恥ずかしさと焦りからもう彼の目を見ることすらできず、私は大袈裟にお辞儀をすると、早足でその場を逃げるように去った。
途中、背後から「気をつけて帰れよ」と声が聞こえたので、振り返るだけ振り返って会釈をし、またスタスタと歩き出すのだった。


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