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「#エロ」のBL小説を読む
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初日の修行を済ませコテージに戻ると、オレ達はまず各々の階で風呂に入ることにした。
下の土地よりも涼しいとは言えども、季節は夏だ。少し動けば肌には汗が吹き出す。オレは側で修行を監督しているだけだからそれほどでもないが、特にカナが汗でベタベタになったようで、夕飯の前に絶対に風呂に入ると聞かないのでオレもそうすることにしたのだった。
夕飯の支度があるにせよ、カナはあの様子からすると長風呂だろうから、待っている間は夕飯の支度でもしようという算段だ。

オレはシャワーだけでさっと済ませ、予定通り夕食の支度を始める。今日のメニューはコテージらしく、カレーだ。一回作れば明日の夜飯まではカレーで持たせることができるはずだ。と言っても、カナが嫌がるかもしれないが。
肉と野菜を炒めてルーを準備していると、二階から少しまだ髪が濡れたままのカナが降りてくる。

「あれ、もう作ってるんですか?ごめんなさい遅くなって」
「今日は初日だからいいよ」
「何か手伝えることありますか?」
「もう出来上がるから」

彼女がそばに寄ってくると、風呂上がりのいい匂いがする。思わずじろりと見ると、うっすらと化粧しているようだった。案外そういうのを気にするタイプなのかと内心驚く。

「髪乾かさないと風邪ひくぞ」
「いつもこうです」
「あぁそう」
「カカシ先輩の夕飯はカレーですか?」
「こういう所にきたらとりあえずカレーだよね。カナの分もあるよ」

そうオレが言った瞬間、カナの表情がパァッと明るくなる。こんなもので喜んでもらえるなんて、相変わらずチョロいったらありゃしない。

「先輩本当に尊敬しちゃいます〜!」
「お前は本当に飯命だな……そうだ、そこの棚に皿が入ってるから、一応洗って食べたい分だけごはん盛り付けといてよ」
「了解でーす」

単純な彼女の反応に、笑いをかみ殺しながら調理を進める。
カナはオレの指示通りに皿を出して洗っていた。皿を二枚出していたから、オレの分もよそってくれるのだろう。
どれだけ食べるのだろうかと見守っていると、案外普通の量を盛り付けて一皿目を置く。
次に二皿目を手に取ると、炊飯器から随分と一生懸命に米を盛り付けている。やたら盛り付ける時間が長いぞ──もしや、こちらがカナの分か?とじっと見ていると、彼女は目一杯米を乗せた皿を手に持ったままこちらを向いた。

「カカシさんはどのくらい食べます?」

その量に、思わずオレは聞き返してしまう。

「カナ、一応聞くけどそれはオレの分を盛ってくれたの?」
「男性なら一人前このくらい食べるかなと思いまして。ガイ先輩もカレーだと山盛り食べますし」
「そうなの……オレはお前が思う三分の一くらいで十分だから……」
「先輩って少食なんですね。まぁシュッとしてますもんねぇ」

途端につまらなさそうにカナの声のトーンが下がる。
断っておくがオレは少食でも大食いでもない。若干ズレている感覚は、ガイ譲りなのだろうか。
反応しても厄介なので、とりあえずはそのまま流した。


カレーが出来上がると、オレ達はキッチンのすぐ横にあるテーブルに斜向かいになって座り、いただきますをする。
出来立てのカレーは、皿からあの食欲をそそる香りとともに湯気が立ち昇り、すぐに食べるにはまだ熱そうだ。
しかし、カナはそんなことも気にせず小さな口を大きく開けてパクつく。
すると、思いっきり顔を歪め、悶えながら一口目を飲み込んだ。

「口の中やけどした……」

そう小さく呟くと、一緒に用意した冷たい水を飲み、口内を冷やす。落ち着きのない子供みたいな行動に、思わず「カナって任務の時と別人だよねぇ」ともらす。
カナは「性格です」とムッとしたような顔でオレを一瞥した。
オレはカレーをすくったスプーンを持つ手と反対の手で頬杖をつくと、再び一生懸命水を飲むカナを眺める。

「……性格ねぇ」
「わからないんですよね、自分でも。集中してる時はいいんですけど」

ここでようやくオレは、カレーを口に運ぶ。それでもまだ熱かったが、やけどするほどでもなく程よい熱さで市販のルーを使っているからまぁなんの失敗もない。いつもの味だ。
食べながらカナの言葉に「ふーん」と適当に相槌を打つと、彼女は寂しそうな顔で続けた。

「だから母親にも忍者になるのを反対されるし、夢を諦めるよう術をかけられるし、いざというところでは必ず怪我をするし。もうやんなっちゃいますよ」

ため息混じりにカナは言った。
そう言う理由で母親に反対されていたのかとオレは深く納得をした。やっぱり、親御さんの心配からの封印だったのか、と。
もし自分に子供がいたとして、かわいい娘が里に命を捧げるともとれる忍者になりたいなどと言ったら、やはりオレも反対するだろう。たとえ自分が忍であってもだ。
珍しく落ち込むそぶりを見せるカナに、なんとなく元気づけてあげたくなって「そんなに悲観することじゃないさ」と励ました。当然、なんの根拠もないが。

「ま、切り替え上手ってことでいいんじゃない?いつも気を張ってたら疲れちゃうしね」
「そうですかねぇ」
「その切り替えの上手さを生かして新技たくさん開発してくれよ」
「えー?!そんなぁ?!」
「当然だろ。二週間みっちりこのオレがついて、『何も習得出来ませんでしたー』なんて言ったら、お前ら男女二人で山に篭って何してたんだー、って怒られるに決まってるでしょ」
「な、な……!」

何故だか急にカナの顔が真っ赤になる。
訳もわからず「え、ちょっとどうしたの?」と聞くが、カナは「なんでもありません!」と突っぱねてくる。
変なの、と思いながらカレーを食べるのに集中する。一方、彼女は流し込むようにカレーをパクパク食べて、「ご馳走さま!」とあっという間に完食すると、物凄い速さで流しで皿を洗って二階に逃げていった。


オレが何か変なことを言ったかなぁと、カナの様子がおかしくなる直前の自分の発言を振り返る。

── 二週間みっちりこのオレがついて、『何も習得出来ませんでしたー』なんて言ったら、お前ら男女二人で山に篭って何してたんだー、って怒られるに決まってるでしょ。

大して変なことを言った感覚はなかったが、よくよく考えてみると──男女二人で山に篭って──この部分に過剰反応したのだろうか。

「……いやいやいや、流石に飛躍しすぎじゃないの?思春期じゃあるまいし」

二階ではなにやらバタバタとカナが活動している音が聞こえてくる。何をしているのかとっても気になるが、気まずさ百二十パーセントなオレに、勿論確かめる術はない。
次にカレーを口に運ぶと、なんだかもう味がわからないような気がした。


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