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「#エロ」のBL小説を読む
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「うわー、結構綺麗ですねー!」

中へ入ると、オレ達はとりあえず荷物を一階のリビングスペースに置いて、室内を探索する。
コテージは、一階のリビングスペース部分が二階まで吹き抜けになっていて、上にはあかり窓がいくつかあり、とても開放感があって明るい。
カナは適当な場所に荷物を置くと、はしゃいだ様子で一人でリアクションをしながらあちこちドアをパタパタと開け、部屋の間取りを確かめていた。
オレも換気のために窓を開けて回るが、きちんと管理されているのか案外蜘蛛の巣や埃もない。
虫が出たとギャーギャー騒がれる心配もなさそうだ。

「本当広いですね!お風呂も綺麗だし!一体いくつ部屋あるんですかね?」
「さぁな。気に入った部屋を使えばいい」

オレが肩をすくめて言うと、カナはこくこくと頷いて二階への階段を上がっていった。
一応オレも間取りを確認するために後をついてのぼる。見た目以上に階段が急だ。

「カナ、この階段結構急だから気をつけてよ。特に寝起き」
「そんな、私だって忍なんですから階段なんて平気ですよ」
「……そう?」

階段を上りきって正面の部屋へ入ると、二階はさらに明るくて綺麗だった。天井が高いからかとても広く感じられ、部屋の端の方にはコテージには不釣り合いの天蓋付きのキングサイズのベットがドンと置いてある。
ファミリー層が川の字にでもなって寝るのだろうか。
カナは「お姫様みたいなベッドですね!」なんてまたはしゃぎながらベッドにダイブすると、ここにしますとニコニコしながらオレを見た。

「気に入ったようで何より」

オレも部屋へ入って奥の窓を少し開ける。この部屋はバルコニーが付いていて、外に出られるようになっていた。
眺め的に玄関の上あたりだろうか。そう悪くはない景色だ。
機嫌よく修行に臨んで貰えそうで、ここにして良かったなぁと思いながらベッドに寝転ぶ彼女を見つめる。

その後、風呂場の方を見にいくと、やっぱりこちらも二階の方が綺麗でカナはますますご機嫌になった。バスタブにはジャグジーが付いている。
修行の楽しみの一つとして、入浴剤をいくつか持ってきたので早く風呂に入りたいと興奮気味に言っていた。

「あのね、ただのキャンプに来たんじゃないんだぞ?」
「わかってますって、きつーい修行の息抜きですから!」
「はいはい……それじゃ荷物を部屋に運んでよね。終わったら降りてきて。修行場所案内するから」
「了解です!」

カナは軽い足取りで風呂場を出て、荷物を取りに階段の方へ歩いて行く。
オレも下で荷ほどきをしようと続くと、丁度下り階段の一段目へ足をさしかけたカナが、目の前で急に「キャ……?!」という小さな悲鳴と共にバランスを崩した。

「おっと」

オレは考えるより先に、彼女の身体を後ろからガバッと抱え込む。カナが階段から滑り落ちなかったことをしっかり確認すると、ハッとした。
左腕は彼女の胸の下辺りへぐるりと回され、右手は彼女の右の脇辺りを包むように触っていたからだ。
位置的にかなり際どく、胸のあたりといえばそうかもしれないし、脇といえば脇なのかもしれないが、この状況ではそれが冷静に判断できかねる。
最悪の場合、セクハラだと騒がれてしまうかもしれない。

「ほーら、言わんこっちゃない……」

内心、二つの意味でヒヤヒヤしながらも平静を装いそう言った。
ここで変に意識するような態度をとれば、この後の修行が途端に気まずくなるだろう。
オレはカナが体勢を整えるや否やパッと開放し、涼しい表情を作った。

「……す、すみません」
「気をつけてよね、これから修行だってのに」

カナは謝りながらチラッとオレを振り返ると、「荷物とってきます」とダーッと早足で階段を降り、先程荷物を置いた場所へ駆けて行った。

「走るとまた転ぶでしょうが」

そうぼやくが、カナからの返事はない。
流石に今のは嫌だったかなぁ──
一人、しょんぼりと階段を降りながら反省をする。ついつい保身に走ってしまったが、次に戻ってきた時は謝るべきか。
カナもあんな風な性格だが、二十歳をすぎた女性だ。男に身体を触れられたら、嫌な気持ちにもなるだろう。そう考えると余計に落ち込んだ。

一階は奥に落ち着けそうな寝室があったので、オレはそこに荷物を移す。その最中、階段を行ったり来たりするカナの足音が聞こえた。
本当は手伝ってやりたいところだが、なんとなく気まずくて彼女のもとへ行く気が起きず、また転んだりしないか注意深く彼女の足音に耳を済ませながら荷ほどきを始めた。
ふと、先程のチラッと振り返った彼女の顔を反芻する。
今思えば、恨みがましいような、拒絶のような目にも取れる。泊まりがけだというのにオレは何をやっているんだ。思い切り凹みながら修行の支度を整えた。

準備を終えると、リビングのソファで窓の外を眺め、なかなか降りてこない彼女を待った。
やっぱり頭の中はさっき身体に触れてしまったことへの反省でいっぱいで、彼女を助けた筈なのに、セクハラをしたと思ってしまう自分が悲しかった。気持ちがおじさんになった証拠だ。ついつい小さなため息が漏れる。

しばらくすると、二階から慎重な足取りでカナが降りてきた。
彼女の顔を見るなり、オレは「カナ、その……」と謝ろうと切り出す。しかし──

「さっきは本っ当にすいませんでした!以後気をつけます!」

予想に反してカナはペコペコと頭を下げて謝罪をした。これにはオレも動揺してしまい、「あ……いやぁ、オレも乱暴に掴んでごめんね……」と呟くようにしか謝ることが出来ない。
カナはさほど気にしていなかったのか、「そうでしたかね?」と小首を傾げるだけだった。
その反応に、オレはほっと胸を撫で下ろす。

「それより、先輩ったらなに黄昏てるんですか?まだ昼ですよ」

そしてこのいつも通りの態度である。
普段なら生意気に思いそうなものだが、今はありがたい。

「んー?オレも年取ったなぁ、って」
「先輩いくつでしたっけ?」
「いくつに見える?」
「それ、よく近所のおばちゃんが言ってますよ」

キツい返しに、思わずふふと笑みが溢れる。気にしすぎていた自分がアホみたいに思えたからだ。

「……何笑ってるんですか、先輩」
「なんでもないよ。じゃ、行こうか」

やっぱりカナはとんでもない大物のようだ。
この二週間でどのくらい成長してくれるだろうか──とてもとても楽しみだ。



「ここには色んな修行場がある。あの向こうが地獄の谷、それからあっちが神隠しの洞窟、そしてすぐ正面の崖が死の壁だ」

コテージを出てもう少し山の奥へ進むと、修行場に分岐する広場へ出た。一つ一つ指を指して、どこがなんの修行場なのかを説明してやると、「……なんか物騒な名前ばっかりなんですけど」とカナは不安そうに顔を引きつらせる。

「他にもあと五つくらい修行場があるが、オレは子供の頃に何度も網羅してる。命は保証するから安心してよ」
「そんな物騒な修行クリアするって一体どんな子供だったんですか?!」
「別に、強い忍になりたいって思う普通のガキだよ」
「普通の子供は修行場の名前の通りにやられちゃいそうですけどね……」
「お前なら出来るよ。なんせオレのライバルのガイが認めた後輩だからね」

そう後押しするように言うと、カナの表情は急にきりりとしていい顔つきになる。
やっぱりお前はこうでなくちゃ。

「とりあえず、そのチャクラ刀の扱いに慣れてもらうかな。早速修行開始するぞ」
「お願いします!」

元気よくカナが返事をする。
オレ達は晴れた空の下、修行場へと歩みを進めた。


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