第21話


「名前には黙っておくように」
しばらく悠仁の生存を隠すことに決めた五条が映画鑑賞を始めようとしていた虎杖に言う。
「え?名前も駄目なの?」
最早家族と言っても過言ではない幼馴染みに生存を伝えるのも駄目なのか…。
勝手な予想だが、きっと名前は落ち込んでいると虎杖は考えていた。
「うん。悠仁が生きてるのを知ってるのは、僕と硝子と伊地知だけだ。恵と野薔薇にも内緒だよ」
五条がいつになく真剣に話すので、虎杖は「分かったよ」と、押し黙る。ただ幼馴染みの状況は気になるため、彼女の様子を五条に聞いた。
「名前は悠仁のことが本当に大切だったんだね。正直見ていられなかったよ」
彼女は今も自室に籠っているようで、連絡も返ってこない。野薔薇から聞いた話だと、ご飯も食べていないようだった。
それを伝えれば、「俺のせいだ…」と彼は顔を青くする。
自分のせいだと言い合う2人を見て、何かを思い出したのか、五条は胸がぎゅっとなった。

「名前には、これを乗り越えて貰わなきゃいけないからね」
五条は静かに呟く。
「僕は名前を信じてるよ。あの子はきっと大丈夫だ」
五条には何か予感めいたものがあった。
彼女は強くなる。悠仁達と一緒に、いつかこの呪術界を背負っていくべき存在になる。
「…先生が言うならそうかもしんねぇけど」
虎杖には心配事があった。
「その、名前の家っつーか実家?や、名前のかーちゃんは家出てるからもう関係ないのか…。何て言えばいいんだろ、とにかくなんか複雑みたいだから、大丈夫か心配で」
「あぁ、悠仁も知ってたんだね」
五条の返答に虎杖は目を丸くする。

「先生も知ってたの?!」
「もちろん、僕は五条悟だからね」
最強の男はここまですごいのかと、虎杖はシンプルに驚いた。
「家のことは大丈夫さ。高専にいる限りは僕がいるから手出しはさせない。僕としては彼女を早く1級にして、牽制させたいところなんだけどね」
やはり名前に関しては五条の思惑があったようだが、先生について多大な信頼を寄せている虎杖は、とりあえずは安心だと一息ついた。

「俺も強くなって、早く名前や伏黒達に会いたい」
よっしゃ、頑張るぞ!!と、呪骸を抱き抱えて映画を見出す悠仁の背中を、五条は満足気に見つめていた。










「先生、今まですいません」
あれから何日か経った頃、名前が訪ねてきた。名前の目は腫れ痛々しいが、その瞳にはいつもの光が宿っていた。
「いいよいいよ〜。それより名前、復活?」
「…はい」
五条の言葉に少し迷いながらも名前は答える。
「野薔薇達から話聞いてると思うけど、名前交流会出るでいいんだよね?」
「はい、出たいです」
名前は即答する。
となれば、京都校には1人余分に連れてきてもらう必要があると五条は考えていた。
交流会までには悠仁を復帰させるつもりなため、京都校6名に対し東京校7名はさすがにハンデが過ぎるだろう。だって僕の生徒強いから。

「本心は?」
歌姫に連絡しておくか、と考えながら五条は名前に聞く。その表情はとても楽しそうだ。
「…強くなって、早く上の人達をぶっ潰したい」
名前の迷いのない答えに笑いが止まらない。
やっぱりこの子、呪術界に必要な人材だ。
「ははははは、いいね名前。最高。よし、強くなっちゃおー!」
名前が悠仁の死を乗り越えることが出来たのかは定かではない。
だがそれでも、僕達は生きていくしかない。
「頑張ろうね」
こんな自分を見たら硝子なんかは気持ち悪いと言ってきそうだが、悠仁と名前を早く会わせてあげたいと心の底から思った。



prev / next

back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -