第20話


「悠仁のおじいちゃん、ありがとう」
書類を片している倭助さんにお礼を言う。
彼が居なかったら、私はきっとあの人に連れ去られていただろう。
彼は、何それ!名前と俺家族ってこと?!と、騒ぐ悠仁をたしなめると、「彼らの危惧していた通りになったな」と、苦い顔をして呟いた。

「儂は呪術など術式などよく分からんが、お前の母親は前からあの家に名前が連れ去られるのではないかと恐れていたらしい」
「…私が、あの家の術式を継いでいる…から」
初めて知る自分の出生に、驚きと悲しさを感じていた。こうなることも予想して、父と母は私をこの世界から遠ざけていたのか。
「もし次もあの家の連中が来たらすぐに儂に連絡しろ」
倭助さんが私のことを考え、守ってくれようとしているのが伝わった。
「ッありがとう…」
新たに判明した家族の存在とともに、父と母がもういない事実が一気に私を襲う。
家族であるはずの人達は私を人として見ていなくて、血は繋がっていないけど家族みたいな人達は私を1人の名字名前として見てくれている。
「お父さんっ、お母さんっ…うわぁああん」
今更になって、涙が溢れてきた。
倭助さんは私を優しく抱きしめ、初めて会った時のように頭を撫でてくれた。

「名前!俺も名前のこと守るから!!なんかあったらすぐに言えよ!」
隣で悠仁も頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。
「あ、ありッがとぉ」
さっき悠仁がお母さん庇ってくれたことも、あの人に向かって私を連れてくな!と、怒ってくれたことも全部全部嬉しかった。
名前は1人じゃないよって言ってくれたみたいで、本当に、本当に嬉しかった。

私はまた、悠仁に救われた。











「呪霊に襲われそうになった時。呪いが視える私を気味悪がらないでくれた時。そして、西園寺家が私を家に連れ去ろうとした時。他にもたくさん、私は悠仁に助けられた」
今までのことを一つ一つ思い出しながら、伏黒と野薔薇に私の全てを話した。
「西園寺か…聞いたことあるな。御三家まではいかないが中々古い家系だよな」
伏黒が顎に手を当てながら考えている。
「確か相伝は…」
「うん、時を止めることができる」
きっと喉から手が出るほど欲しい能力だろう。

「なのそれ?!チートじゃない」
野薔薇が驚いたように言う。
そう言えば、彼女には見せたことなかったな。
伏黒は、悠仁に宿儺が受肉した時に思わず呪霊を祓ってしまったから見ているはずだ。
「時を止めれるといってもせいぜい5秒程度で、呪力消費量によっても変わってくるし…だから全然チートとかじゃないよ」
どれだけ魅力的に見えても欠陥はある。
完璧なんてない。
「これ術式の開示になっちゃってるけど、2人には別に問題ないしね」
その言葉に、伏黒と野薔薇が僅かに嬉しそうな表情をする。何だかちょっと2人が分かってきた気がする。
「私は時を止めた時に相手の呪力を奪って自分のものにすることができる。相手の呪力と私の呪力を重ねて、指を弾いて放出するの。時が動き出した時、相手はそれを食らう。まるで自分の呪力が無効化されてるようにも思えるらしい」
野薔薇は、へぇ〜なるほどね。と納得しているようだった。よかった、分かりやすく伝えることが出来た。
前悠仁に説明した時、彼はハテナを浮かべるばかりで、自分には語彙力がないのだと沈んだっけ。
「だから時を止める…というよりも、呪力を無効化して奪って放出するって感じかな?」
「それをあの一瞬で…すげぇな」
伏黒にシンプルに褒められて少し照れてしまう。
「でもお前術式使うと親に叱られるからあんまり使わなかったって言ったのに、よくここまで完成したな」
「確かに」
2人とも、やはり疑問に思ったようだ。

「呪霊はどこにでも湧いてくるから、私と大切な人の身を守るためにも最低限出来ることをしたかったの」
仙台にいた頃も身の危険を感じたことは何度かあった。
「それに何かあった時のためにも、あの人達に対抗する術が欲しかったっていうのもある」
「大変だったのね」
野薔薇は優しく肩を叩いてくれた。
「あの人達、あれから何度か懲りずに来て、その度に悠仁が追い払ってくれたの」
“名前はお前らのとこには行かねーよ“
そう言って守ってくれた彼は小さい頃から変わらなかった。
「きっと私の1級術師の推薦がこんなに早く通ったのも、あの人達が関係してる気がする。異例すぎるでしょ、このスピードは」
我ながら思わず苦笑いしていまう。決して自慢しているとかそういう訳ではない。

「五条先生は知ってんのか?」
伏黒の問いに、もちろん。と返す。
「術式見てすぐに分かったみたい。あの人、私を匿うっていうのも含めて、呪術高専に誘ってくれたんだと思う。あの時私は冷静じゃなかったけど、今となっては先生に感謝してる」
そういえば先生にも謝りにいかないといけない。彼は任務を受けない私に何も言わず、ただ待っててくれていた。

「話聞いてくれてありがとう。私五条先生のとこ行かなきゃ」
伏黒と野薔薇も頷き、一緒に部屋を出る。
「名前、もう平気?」
野薔薇が少し、心配したように言う。
正直に言えば…分からない。今も悠仁のことを考えると涙が溢れそうだし、自分自身を許すことも多分出来ない。
だけど、だけど生きていくしかない。
それに私はまだあの目標を達成出来ていない。
呪術界の腐った連中どもをぶっ潰すこと。
あの時五条先生は冗談で言ったのかもしれないけど、今回の件で私はもっと力をつけて、絶対あいつらを叩きのめすことを決めた。
とりあえずこれが、今の私の生きる糧だ。
野薔薇の言葉に小さく頷いた。

「交流会はどうする?」
全部どうでもよかったけど、とりあえず今は足掻くしかない。力をつけて、絶対にあいつらの寝首を掻いてやる。
「うん、交流会に出る」
野薔薇は、「一緒に頑張りましょ」と、笑顔を見せる。彼女の瞳には、以前と違う光が宿っているような気がした。
隣で伏黒も私を見る。伏黒も同様で、その顔は力強く決意を持っているような気がした。

こんなの不純な動機なのかもしれない。
でも私はやっぱり、悠仁のいない世界ではどうやって生きていけばいいか分からなかった。



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