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異世界ハニー

Step.16 望まぬ再会

 首都の門番をしている男性に荷車を返却したあずきは、大変驚かれた。まさか本当に返しにくるとは思わなかったのだそうだ。門番はあずきに笑顔で応対してくれた。借りたものを返すだけで温かく迎えられるのは、あずきにとって初めてのことだった。
「字が読めなくてもできる仕事ですか?」
 あずきに何かないかと尋ねられ、門番はううんと唸る。
「傭兵や、掃除夫くらいですかねえ……」
「あ、あれ、少ない……」
「そりゃあ首都ですから。文字が読める人たちが集まって、火の国の中枢を担っているんですよ。文字が読めない人たちは、首都ではなく、よその町や村で働くほうが、仕事自体はありますよ」
 とりあえず傭兵として稼いでみてはどうですか。門番に言われて、あずきは仕方なく街へ入ることにしたのだった。

「あっ! お前は!」
 街に足を踏み入れて早々に、ガラの悪い声をかけられた。傭兵と火の国の兵士に連れられて、手枷をつけられている大男二人。シュラーゲンとトリットである。
「あっ、そうか……首都に連れて行かれたってヒメさん言ってたっけ」
 火の粉の里で銀秘命に言われたことを思い出し、あずきは山賊の兄弟を見つめていた。彼らはあずきを指差し、兵士に向かって大声を上げる。
「俺たちはあいつに焚き付けられたんだ!」
「そうだ! あいつが、大精霊の宝玉を盗み出したと言うから!」
 兵士の視線が、あずきの方を向いた。
「……大精霊の宝玉を盗んだ?」
 ザワッ、と街の大通りがどよめくのが聞こえた。周囲の人々があずきを凝視しているのが、嫌でも分かる。兵士はつかつかとあずきに詰め寄ってくると、険しい表情で口を開いた。
「どうしてそんな嘘をついたんだ? 大精霊の宝玉が盗まれたなんて話は、私たち兵士には届いていない。名声目当ての盗賊ごっこか? 少年、何が目的だ?」
 槍を片手に、眉をひそめて尋ねてくる兵士。山賊を何とかしようと口から出たハッタリが、こうして不信を買っている。うまい言い訳が思いつかず、ええ、ああ、と声を出す以外できないあずきの前にするりと出てきた、白い影があった。
「勝手に勘違いしたのはそっちじゃないのよ」
 銀秘命(しろがねひめのみこと)である。
「この子はね、あれを隠した、って言っただけよ。山賊を追い払うためにね! 物欲丸出しで、大精霊の宝玉だと勘違いしたのは、そこの二人よ!」
「おお、頼もしい……」
 腰に手を当てて兵士や山賊を見下ろす銀秘命に、兵士は唖然としていた。
「ほ、本当かお前たち? 自発的に大精霊の宝玉を狙ったというなら、山賊の罪はさらに重くなるぞ」
 さっと顔を青くするトリット。かっと頭に血が上ったシュラーゲン。山賊兄弟の兄である、真っ赤な毛皮のシュラーゲンが、声を張り上げた。

「ま、魔物の言うことを信じるな! 騙されるな!」

「……は?」
 びしり、と銀秘命のこめかみに大きな青筋が浮かぶ。あ、それは言っちゃダメなのに、とあずきが山賊兄弟を見た。兵士が目を白黒させて、シュラーゲンたちと銀秘命とを見比べている。
「おい、あんたは人間の言うことと魔物の戯れ言と、どっちを信じるんだ!」
 スキンヘッドの太った男、トリットが兄の擁護をする。兵士は、人間、魔物、とうわ言のようにぶつぶつ呟き、やがて手にした槍をすっと平行にした。
「高度な知性を持つ魔物を従える少年! 詳しく話を聞こうかーっ!」
「はあーっ? 悪党の言うことを信じるっていうのあんた! 信じられない!」
「魔物の言うことを信じられるかあ!」
「神ですう! かぁみぃでぇすぅ! 丸呑みにするわよあんた!」
「ま、丸呑み……魔物の所業じゃないか! 魔物だーっ! であえ、であえ!」
「であわなくていい! 山賊どもも囃し立ててんじゃないわよ! 何よこらぁ」
「あわわわわ」
 兵士とヒメさんの口論を、呆然と眺めるあずきの姿があった。