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異世界ハニー

Step.15 首都への道

 元々は、火の粉の里で仕事を紹介してもらうつもりだったはずだ。しかしそんなことを言っていられる状況ではなく、あずきはつい里を助ける手伝いをしてしまったのだった。
「この里にいても仕事はなさそうだし、どうするかなあ」
 青い大きなイノシシの毛を撫でてやりながら、あずきが呟いた。
「首都に向かえばいいんじゃない?」
 あずきに声をかけるのは銀秘命(しろがねひめのみこと)だ。
「選ばなければ仕事はいくらでもあるって刃物屋の店主も言ってたじゃない。首都で働けばいくらか稼げるわよ、きっと」
「だよねえ。そうしますか。それ以外に道はなさそうだもん」
 青いイノシシにくくりつけた荷車は借りてきたものだ。首都へ返しにいかねばならないだろう。あずきはイノシシの手綱を握り、里の外へ誘導しようと歩みだした。
「行ってしまうのかい、アズキ」
 里の長、フィリップがあずきたちの背後までやってくる。
「ええ、はい、お世話になりました」
「とんでもない。世話になったのはこちらの方だよ。風のようにやってきて山賊退治の手助けをしてくれたかと思えば、また風のように去っていくなんてな」
 フィリップは大麦でできたパンを二つと、陶器で出来たカップを二つ、そして水が入った皮袋をあずきに手渡してくれ、旅の健闘をも祈ってくれたのだった。
「パンもタダじゃないだろうに、気前がいいなあ」
「大きさにもよるが、一つ十ヒノクニほどだよ、気にすることはない」
 あずきは火の粉の里に手を振り、別れを告げた。

 北へ向かってただ歩き続ける。今現在、あずきの肩掛けカバンには大麦のパンが三つ入っている。そのうちの一つを荷車を牽引してくれているイノシシに食べさせ、もう一つを荷車に乗った巨大な半人半蛇である銀秘命に手渡し、最後の一つを自分が食べようとした時のことだ。
 緑色の鳥が颯爽とやってきて、あずきの手からパンを引ったくっていったのは。
「……あれ、森で同じようなことがなかったっけ」
「……もしかして、同じ鳥かしら?」
 名前はおそらくパン奪いし者とかそこらだろう。知らないが。
 あずきはがっくりと肩を落とし、やがて適当な場所で腰を下ろした。
 腰から下げた短剣を抜き、ブチリ、と音を立てて草を刈り始める。薬草が生えていたらしい。刈り取った草を荷車に乗ったヒメさんの隣に積んでいくあずきに、ヒメさんはスペースを空けてやりつつも問いかけた。
「何してんの」
「いや……首都の街に入ったら薬草売ろうかなって。それでパン買って食べる」
「気が長い話ねえ」
 葉がギザギザしたもの、妙にくねったもの、分厚い葉を持つもの、とりあえず目に付いた草は何でも刈り取っていくあずきは、赤とオレンジのグラデーションになっている謎の草を見つけた。茎がしっかりしている。なかなか刈り取れない。あずきは思わず、短剣を力任せに振り抜いていた。
 ペキン、と硬い音が響いた。
「あんっ!」
「何よ今の音、どうしたのよ」
「剣が……剣がペキンッて!ペ、キ、ンッ、て、いって」
 オレンジ色の草は採れた。
 その代わり、短剣の刃が綺麗に折れていた。
 さようなら、剣。こんにちは、草。
「……まあ、パンより安かったもの。長持ちはしないわよね」
 五ヒノクニで押し付けられた短剣である。ここらが寿命だったのだろう。
 ヒメさんは荷車から降りると、折れた剣を物悲しそうに見つめるあずきにため息を一つ。まだ食べていなかった大麦のパンを半分にちぎり、片方をあずきに手渡してきた。
「いつまでも落ち込んでないで、食べなさいよ」
「えっ、ありがとう」
「あんた無茶するタイプだもの。しっかり食べないと体に毒よ」
 里で倒れたことを言っているのだろう。あずきは苦笑して、半分になったパンにかぶりついた。ヒメさんはパンを丸呑みすると、荷車を押し始めた。