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異世界ハニー

Step.13 超特急

 あずきは丸一日働かされた。五十ヒノクニで使うだけ使われた。魔物の退治から石垣の積み上げ、荷物の配送から老人の身の回りの世話まで、日が暮れるまで嫌という程走らされたのだった。
「これは……三百ヒノクニ欲しくもなる……わかる……」
 沈みゆく太陽を眺めながら遠い目をするあずき。そうだろう、と傭兵の男たちが頷いている。
「あのなあ、少年。これからは五十ヒノクニで働くなんて言わないことだ」
 ツノ生えし者その二の捌き方を教えてくれた、アルヌルフが口を開いた。
「なんで?」
「自分を安売りすると買い叩かれて、こき使われるのが落ちだからだよ」
「でも、それでみんなが便利な思いをするなら、それで良いというか」
「甘いな。少年一人が五十ヒノクニで働いてしまったばかりに、周りの傭兵たちの代金も芋づる式に下がったらどうなる? 俺たちは食いっぱぐれてしまうんだよ。一人の行動が、多くに影響するんだ」
「ところで三百ヒノクニ貯まったんですが、用心棒として来てくれますか」
「聞けよ人の話を」
 たしか一人百ヒノクニで雇われてくれる約束である。あずきは皮袋に入った貨幣をジャラリと鳴らし、アルヌルフに詰め寄った。
「あと五日、いや、少なく見積もって三日! あと三日で、火の粉の里が山賊に襲われるんだよ。助けてほしいんだ!」
「少年、話が見えないんだが」
 首都である街の門が閉まっていく。門の外では青いイノシシが草を食みながらあずきが戻ってくるのを待っていた。律儀なイノシシである。
「あー……大精霊の宝玉を欲しがっている山賊がいてね」
「大精霊の宝玉だって! そりゃあ、大精霊が国を守護するための力が蓄えられた、ありがたい宝じゃないか! それを欲しがるだなんてとんでもない話だ!」
「シュラーゲンとトリットっていう、山賊の親分で」
「しかもそいつらは賞金首じゃないか! 捕まえたら三百ヒノクニは貰えるぞ」
「やっすいな……千とか二千とかいかないんだ……」
「二人で三百だ」
「小悪党の値段……」
 何だか切ない気分になるあずきである。アルヌルフは百ヒノクニで雇われることを了承してくれた。山賊を捕まえた分の賞金は傭兵に全て譲ると口にすると、筋肉がむきむきとついた二人の男も同行してくれることが決まったのだった。
 あずきは閉まりかけている門に走り寄って、外へ飛び出した。急ぎの用なのである。早いうちに里へ戻った方がいい。傭兵を乗せる荷車を借りるために、ツノ生えし者(その一の方である。あのカピバラだ)のツノを守衛に払い、荷車を青いイノシシに括り付けた。
 地図を見る。辺りが薄暗くて分かりにくいが、首都から真南に向かったところに火の粉の里はあった。
「行こう、イノシシ君!」
 腹を軽く蹴る。イノシシは途端に物凄い勢いで走り出したのであった。

「……あんた後先考えずに行動しすぎよ」
 朝日で照らされた火の粉の里。肩で息をして転がり込んできたあずきに、銀秘命(しろがねひめのみこと)はすっかり呆れ返った様子だった。
 用心棒としてやってきたアルヌルフと他二人は、火の粉の里で採れる大麦でできたパンとスープを振舞われ、英気を養っている。
「いや……急いで戻った方がいいでしょ、こういうのは」
「焦りすぎ。あと三日って何よ? おととい山賊が里を出て行ったんだから、単純計算であと四日でしょうが」
「……この島国、片道三日も歩けるほど広いのかなって、不安になっちゃって」
「……そこ?」
 里の子供たちに登られたり髪を引っ張られたりしているヒメさんが、再び無一文となって帰ってきたあずきの頭を撫でる。
「まあ、頑張ったんじゃないの?」
 それに、あずきは笑った。
「里にヒメさんもいるから、急いで戻ってこないとって思ってね」
 答えた直後に、あずきの意識は暗転した。オーバーワークで限界を迎えていたのだった。地面とぶつかる重い音が、虚しく響いた。