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異世界ハニー

Step.12 傭兵稼業

 青いイノシシは飛ぶように駆け抜けていった。イノシシの太い胴体に抱きつくのに必死なあずきは、今どの方角に向かって走っているのかさえ分からなかった。ごう、と風が渦巻く音しか聞こえない。
 青いイノシシは突っ込んでいく。開かれた門に向かって一直線に。
「ストップ! ストップストップストップ!」
 このままでは街の中に突撃してしまう。慌てて、手綱を思い切り引くあずき。青いイノシシが驚き、急ブレーキをかけた。
 さて、物凄い勢いで動いていたものが急に止まると、それに乗っていた人物はどうなるだろうか?
 慣性の法則である。それに則り、あずきは前方へ大きく吹っ飛ぶこととなった。
「べっふぁ!」
 謎の声を上げて石畳に叩きつけられるあずき。ゴロゴロと転がり、ようやく止まった先にあったのは、小さな酒場だった。
「……酒場……あっ、ル●ーダの」
 どこかのゲームの知識を思い出し、あずきはずれた肩掛けカバンを直しながら木戸を開いた。用心棒を雇うにはもってこいな場所かもしれない。

「百ヒノクニ!」
 素っ頓狂な声が酒場に響いた。あずきの声だ。
 驚くあずきの前には、呆れたような顔つきの男たちが並んでいた。
「当たり前だろ、最低でもそれくらい貰わなきゃ用心棒なんてできないさ」
「本当は三百……いや、五百は貰いたいが、あんたは金がなさそうだからな」
「負けに負けて一人百ヒノクニだ。それすら払えないなら話にならないな」
 用心棒。簡単に言ってしまうと、傭兵である。雇用する代金が発生するのだ。あずきが貰った十ヒノクニはとうの昔に消え果てている。肩掛けカバンの中にあるのは、きらきらした石ころと、いい感じの木の棒、大麦のパンと、ツノ生えし者から落ちたツノくらいだった。
「……百ヒノクニって、船に何回乗れるんだろう」
 確か、港町にいた刃物屋の男は、船代は十ヒノクニであると言っていた。それを思い出しながら呟くあずきに、傭兵たちはまたも呆れたような顔をした。
「船に乗るなら、それこそ百ヒノクニかかるだろ。そんなことも知らないのか」
「えっ……十ヒノクニで乗れるんじゃないの?」
「十ヒノクニで船に乗れるのは積み荷だよ。客として乗りたいなら、十倍は払わないとな。……まあ、金がない奴らは、雑用をこなしつつ、客として扱われないことを承知で十ヒノクニ払うんだが」
 刃物屋の男、嘘は言っていなかったようである。
 一文無しのあずきは、肩を落として酒場を後にした。……直後、何かを思いついたように勢いよく戻ってきたのだった。
「すいません、傭兵として雇ってください! 一回、五十ヒノクニ! 何でもします! よろしく!」
「はあ?」
「おいおい少年……」
 用心棒を雇うために自ら傭兵になるとは。行き当たりばったりを極めている。
「何でもするって言ったな! 買った!」
 買われた。

 あずきに割り振られた仕事は、害獣の駆除だった。ツノが生えたうさぎ、その名もツノ生えし者その二を退治せよ、という依頼なのである。その二。ツノ生えし者その二。名付けが雑だ。
 傭兵仲間のアルヌルフという、何だか湿り気を感じる名前の男に、短剣の扱いを教わった。ツノ生えし者その二の捌き方も教わり、恐る恐る解体していく。
「ごめん……ごめんな……ごめん……」
 ツノが生えているだけのうさぎを仕留めては、血を抜き、皮を剥ぎ、肉を削ぐ。何でもするとは言ったが、生き物をその手で殺すなど経験したことがなかったあずきは、涙目になりながら、畑を荒らす害獣を手にかけるのだった。
 ツノ生えし者その二の皮は、魔物皮紙の素材として売れた。肉は食肉として、骨は占いや装飾品の材料として。総額、二百ヒノクニ。
 きらきらした石ころといい感じの木の棒を組み合わせ、簡易的な槍を作ったら五十ヒノクニで売れた。あずきと同じ額だった。泣いてもいいと思う。
「よし、少年、次の仕事に行くぞ!」