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コオニ
 その日の仕事も怒涛だった。
 冷凍コンテナに素早く魚を運び込む仕事を、間に休憩も入れるが一時間ほど。半田さんは雪女の怪異に力を借りて、休憩なしで運び続けていた。
 その後で町中のゴミを拾い集める。生垣に突き刺さるように捨てられた空き缶や、草むらに隠れるようにこじんまりと落ちているタバコの空き箱を、分別しながらゴミ袋に詰めていく。半田さんはドウメキ、とかいう、腕に目玉が沢山生えてくる怪異を身に宿して、ゴミを見つけていった。
 僕なんて、研修中だからという理由では済まないくらい、何の役にも立っていない。ほぼ半田さん一人で片付いたようなものだ。
 二件の仕事で一万円を手にした僕は、逃げるように辞めていく人たちの気持ちが、何となく分かるのだった。
 まず、化け物が怖い。今まで見たこともないような怪異や半人という存在が目の前に現れるのだから、ついていけなければ辞めるしかない。
 次に、半田さん以上に役に立てる気がしない。先輩のおこぼれという形で報酬をもらうことに、だいたいの人は忌避感や罪悪感を抱くだろう。
「どうした、ヒトヅマ。暗い顔をして」
「人妻……一年(ヒトトセ)ですよ」
 どうしても僕の名前を覚えてくれない半田さんは、午後五時になるまで仕事を再開するつもりはないようで、町で買ったコロッケをもぐつきながら問いかけてくる。さすがにその間違え方はやめてほしかった。
「僕、何の役にも立ってませんよね」
 思い切って言ってみる。
「初心者はだいたいそんな感じだよ」
 半田さんから、あっさりとそんな言葉が返ってきた。
「研修中の一ヶ月は、何でも屋の空気に慣れてもらう以外の目的はないから」
「そういう、ものなんですか?」
「独特な仕事だろ? 何でも屋って」
「た、確かに」
「肌で理解するのに最低でも一ヶ月はかかるっていうんで、その間を研修期間と称してるだけなんだよ。役に立つとかどうとか、気にしなくていい」
 そこで、半田さんは静かになった。コロッケを飲み込んで、商店街の端の方に目を向ける。僕もつられてそちらを向いた。
 赤いメッシュを入れた、赤い服の男性が、薄ら笑いを浮かべて路地裏へ駆け込んでいくところが、ちらりと見えた。

「赤井が出た」

 半田さんはまるでお化けかのように赤井さんを扱う。
 そして、赤井さんが消えていった路地に向かって走り出す。
 僕も追いかけた。真っ赤な彼が追う相手は、きっと半人なのだろうから。
 危険な相手かもしれない。けれど、あの時のように問答無用で飲み込まれていいとは思えなかった。

 路地裏を駆けて、開けた場所に出た。
 そこに、赤井さんは倒れていた。
 空き地になっているその場所の隅では、額に角が生えた少女が涙を流しながら座り込んでいる。見たところ、高校生かそこらだ。
「赤井さん……?」
 僕が声をかけて近づこうとしたその時。
「なんだ、赤井の知り合いか?」
 ちょうど死角になっていた箇所から野太い声がして、僕は飛び上がり、思い切り後ずさった。茶髪をオールバックにしたタンクトップ姿の大柄な男性が、こちらを見ていた。こめかみには、白いメッシュが入っている。
「……そこの女の子は、何もしてないんだな」
 半田さんが安心したように呟く。
「ああ、うちの赤井が面倒をかけたな」
 オールバックの男性が答えた。
「うたたね課は、暴走した半人なら、身内でも狩る。……まあ、相馬は使える奴だからな。回収した後、説教でもしておくさ」
 茶髪の大柄な男性はそう言い、赤井さんを担いでどこかへ飛び去っていった。
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