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ネトゲと俺とブブ子さん2

 オフ会当日。居酒屋に集まった人々に軽く自己紹介を済ませる。座敷席に自由に座ってもらい、各々談笑を始めた。
 さてお目当ての女の子は、と探してみれば、なんと、三名中二名の中の人が男だった事が発覚した。ネットオカマ略してネカマ! マジかよ!
 四人のうち最後の一人、ブブ子さん。彼女と思しき人物は、大きな帽子を目深に被り、二の腕まで隠す白い手袋をして、会場の隅っこにいた。
 ワンピース姿で小柄だし、まさかの二丁目系じゃない限りは女の子で確定だろう。
 話しかけようと近づいた直後、俺は一瞬息をするのを忘れてしまった。

 帽子の下からちらりと覗く彼女の肌が、真っ青に見えたからだ。

「ブブ子、さん、ですか?」
 恐る恐る話しかけてみると、彼女は此方を向いて、困ったような声で言う。
「けんちーさん、ですか?」
 ブブ子さんの声は俗に言うアニメ声で、幼い印象を受けた。体つきも華奢なのでその印象は更に強い。
 オンラインで仲良くしている相手が顔色を真っ青にして困っていた。
 ネット上とはいえ友達なのだから、助けに入るしかないだろう。俺はブブ子さんの隣に腰掛け、できるだけ明るい声で、良い印象を与えようと微笑んだ。
「顔色、大丈夫ですか?」
「や、やっぱり、色、悪いですよね」
 彼女は少々落ち込んで、項垂れてしまう。やばい、逆効果だったか?
 取り繕うかのように
「体調が優れないなら無理にとは言いませんけど、皆さんとお話しません?」
 と言えば、彼女は驚いたように顔を上げた。
「い、良いんですか!?」
 いや、オフ会ってそういうもんだし。
 さっきから微妙に会話が成立していない気がするのは何故なんだろう。ちぐはぐな感じがする。
 とりあえず頷いておけば、ブブ子さんは嬉しそうに立ち上がった。
「こんな私でも、お友達を作っていいんですよね!」
 彼女が帽子を外した瞬間、参加者達が悲鳴を上げた。
 顔色が優れなかったんじゃない。肌の色そのものが青い人(?)だったのだ。ブブ子さんは!
 髪の毛は真っ白。頭からは棍棒のようなものが二本飛び出ていた。顔との比率が少女マンガばりにおかしいサイズの目は、複眼。
 潔い程に人外丸出しなのだ。
 彼女の容姿に反応しきれず、微笑んだまま固まっている俺。人外に怯え、主催者ごと置き去りにしていった参加者もとい逃走者。
 何が起こっているのかちんぷんかんぷんだ。全然分からない。
 唯一普通の女の子だった人もブブ子さんを見てパニクったのか逃げ出してしまい、せこい婚活作戦は水泡と帰した。
 俺も、この訳の分からない状況から逃げ出したかった。

 真っ青な顔を更に青くさせ、深い悲しみの色を隠しもしない彼女の表情を見てしまうまでは。

 ……そして逃げそこない、今に至る。
 隣では帽子を被りなおして泣くブブ子さんが、注文したオレンジジュースをちびちび飲んでいた。
「また、逃げられ、ちゃった」
 彼女はぽつりと零す。そりゃそうだ。どこからどう見ても怪物なんだから。
 俺だって逃げたくてたまらないよ。
 ネット上の友達だから、酷い態度はとれなかったんだけど。
 何も言わずにウーロン茶をひたすら飲んでいると、ブブ子さんは此方を見て一言、目を閉じて聞けば美少女なアニメ声で呟いた。
「けんちーさんだけです。私を差別せずに、一緒にいて下さるの」
 逃げ損ねただけです、とは言えなかった。言ったが最後、もしかしたら取って食われるかもしれない。
「ま、まあ、主催者なんでね。その、参加者がいるのに、か、帰る訳にも、ねえ?」
 尤もらしい理由を考えて述べてみたが、たどたどし過ぎて言い訳臭がプンプン漂っていた。俺の馬鹿!
 この人(?)が帰ると一言くれさえすれば、主催者の俺も帰れるのに。少し期待してみるのだが。
「本当に、けんちーさんは優しくて、気配りもできて、素敵な方です」
 帰りたいオーラは伝わらなかった。しかも褒められた。
 ちょっと罪悪感が湧くな、これは。
 外見が外見だけど、ゲームでチャットしていたあのブブ子さんと寸分違わぬ、純粋な中身をしていた彼女は言う。
「私、こんな容姿だから近所以外にお友達がいなくて。人並みに友達が作れるって言って貰えたから、つい、来ちゃったんです」
 無理だって分かってた筈なのに、と小さく笑うブブ子さんは、有り体に言えば被害者なんだろう。
 知らなかったとはいえ弱みを突くような形で、しかも自分の婚活のために誘い出したのは、俺。
 最低な主催者に、彼女は騙された。
 取って食われても、文句は言えない。

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