2010/06/01 同級生の受難B(兵助SS/ハチ視点)
名前は十六夜アキで固定



いつものように委員会を開いていたら、顧問の木ノ下先生がやってきた。あれ、先生が来るなんて珍しい…と思っていると、先生の足元には見慣れたピンクが。まさか…
案の定、木ノ下先生の影に隠れるようにしてそこに佇んでいたのはアキだった。

「竹谷、ちょっといいか」
「はい!」

木ノ下先生は俺を呼び付けると、アキを前に出して口を開いた。

「くのいち教室の十六夜だ…お前は知っているよな?」
「はい、兵助の幼馴染なんで…」
「なら話は早い。十六夜に、委員会のことを教えてやってくれ」
「へ?」
「編入生とはいえ、委員会には入らないといけないからな。色々なところに回らせてやってるんだ」

木ノ下先生の説明に、俺はなるほどと相槌を打った。
そうだ。確かにくのたまといえど、全員何かしらの委員会に所属している。忍たまよりは少なくて、所属可能な委員会は限られてるからその割り当てには多少偏りがあるけど。
でも、本当に大丈夫なのだろうか。

「木ノ下先生、あの、」
「何だ?」

俺はここから立ち去ろうとしている木ノ下先生を呼び止めて、口を開いた。

「委員会見学なのはわかりましたけど、うちは生物委員会ですよ?いいんですか?」
「あぁ、そのことなら既に十六夜に確認をとっている。生き物は全般的に平気だそうだ」
「っても、毒虫たちはさすがに…」
「だったら実際見せてみればいいだろう。十六夜が生物委員会に適任かどうかは、竹谷、お前が判断しろ」

後は任せたぞ、と言って木ノ下先生は行ってしまった。
俺はどうしたものかと思いつつも、まずは簡単な生き物に触れさせてみるか、と考えてアキの方を見た。アキは初めて見るだろう学園の飼育小屋なんかを、キョロキョロと見つめていた。

「じゃ、とりあえず行くか」
「はい、よろしく、竹谷くん」

アキは素直に俺の後をついてきた。
それにしてもちっちゃいなー…並んでみるとわかる。こんなにちっちゃいのに、委員会の仕事ができるだろうか。ただでさえ俺たちの委員会は、くのたまから遠ざけられて、嫌われているというのに。
毒虫を見て泣き出したらどうしよう。俺、絶対兵助に殺される。想像したら洒落にならなくなってきた。

「っ、あのさ、」
「はい?」
「生き物が平気って、どこまで?」
「?」
「アキが好きなのはウサギとか、小動物の類だろ?だけど生物委員会では、もっと危険な生物も飼ってるから…」
「大丈夫ですよ。私も昔から、虫や蛇なんかを飼って育ってますから」
「だよなー、やっぱ他の委員会に………え?嘘、本当に平気?」
「はい」

俺の再度の問い掛けに、アキは迷うことなく頷いた。
驚いた…兵助が大事にしてる子だから、てっきり虫とか全然ダメだと思ってたのに。何だよこのギャップ。
俺はそれなら!と思ってアキの腕を引っ張った。

「他の奴らにも、紹介してやらねぇとな」
「竹谷くん?」
「おーい、みんな集合ー」

俺の声に反応して、後輩たちがわらわらと集まってきた。みんな怪訝そうな顔でアキを見ているが、初対面ではないはずだ。なんせ、兵助が毎食膝の上に座らせて可愛がってる子だしな。

「竹谷先輩、何故十六夜がここに…?」

3年の伊賀崎が質問したので、俺はアキを少しだけ前に出して説明した。

「みんなも知ってると思うが、久々知の幼馴染の十六夜だ。今日は所属する委員会を決める為に、委員会見学に来ている」

『なっ…!』

後輩たちの声が重なる。

「何言ってるんですか、無理ですよくのたまに生物委員会なんて!」
「そうです!僕だってそう思います!」
「くのたまに毒虫を捕まえられるはずがありません!」

後輩たちは口を揃えてそう言う。

「まぁまぁ…俺も正直そう思ったんだが、どうも十六夜は他のくのたまとは違うらしい」
「と、言うと?」
「毒虫だろうと蛇だろうと、特に問題はないそうだ。うちの委員会も、一人でも人数が多い方が助かるしなぁ」

俺がそう言うと、後輩たちはまだ疑っているようで、「なら毒虫触ってみろよ」なんて無茶苦茶言ってる。
いや、ダメだろ毒虫触っちゃ。せめて箸で捕まえるくらいにしなきゃ。
すると今まで黙っていたアキが、じゃぁ、と呟いて伊賀崎の元に駆け寄った。何をするつもりだ?と思っていたら、アキはあろうことか伊賀崎が首に巻き付けている蛇――ジュンコ――に向かって、手を伸ばしたのだ。
危ない!

「おいで、ジュンコちゃん」
「ままま待て、早まるなアキ!ジュンコには毒があって…」
「知ってます。実家で、ジュンコちゃんと同じ種類の蛇を飼ってたことがあるので」
「!?」
「噛まれるのも、慣れてますよ」

いやいやいや慣れちゃいけないだろ、根本的におかしいだろうよ!

「何だ君は!ジュンコに噛まれたいのか!?」

伊賀崎が興奮した様子でアキからジュンコを遠ざけた。よし、いいぞ。それ以上ジュンコをアキに近づけるなよ。

「別に、噛まれたくて近づく訳じゃありません」
「だけど、今の発言ではジュンコに噛まれたいと言っているようなもの…」
「言葉のあやですよ。慣れてるっていう、事実を伝えただけです」
「しかし…!」

伊賀崎がそう言って渋っていると、突然ジュンコがしゅるりと伊賀崎の首から離れた。そして、手を伸ばしているアキの腕に絡まる。

「うわわわ!」
「十六夜!」
「う、動くなよ、すぐに助けるから…!」
「ジュンコ、何しているんだ!こっちに戻ってこい!」

「だから、大丈夫ですってば」

うろたえる俺たちに、アキは変わらずにっこりと笑いながらジュンコの頭を撫でていた。うわっ、ばか、何でわざわざ口に手を近づけるんだ…噛んでくれって言っているようなものだぞ!
しかしジュンコは、アキの手が頭に触れると、とても上機嫌に舌を出して喜んでいた。
…あれ?これってもしかして、懐かれてる、ってこてか…?

「信じられない…僕の、僕のジュンコが…っ!」

伊賀崎がガクリと膝をついて悔しがった。
えーと、これ、どんな状況だ?
混乱する頭で、この後何をしていいかわからない俺に、言える事なんては一つしかない。とりあえず…

「アキ、生物委員会に入らないか…?」

アキはにっこりと笑って、検討しますと答えた。

兵助、お前、凄い子を幼馴染に持ったんだな。尊敬するぜ。



※※※※※※
うはっ楽しい!
これ書いててホントに楽しいです!
あ、でも次回更新まではちょっと間があきますf^_^;


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