2010/05/31 同級生の受難A(兵助SS/三郎視点)
名前はアキで固定



兵助の幼馴染がやってきて数日が経った。学園では既に、兵助のアキへの溺愛っぷりが広まっている。
それもそのはず。何せ兵助は、アキと過ごせる時間があれば必ず一緒にいるし、抱き上げて甘やかしていた。横に俺たちがいようとお構い無し。
ウザイくらいにイチャイチャイチャイチャと…それが余りにもムカついたから、俺も吹聴した。あることないこと含めて。

最初は信じなかった生徒たちだったが、兵助がアキを甘やかしているところを見て、次第に「あの噂は本当かもしれない」と思うようになり、二人は今では注目の的だ。
兵助は天然であるが忍としては優秀なので、向けられる視線には気付いているのだろう。しかし、全然焦った様子はない。
こいつ、もしかして本当に噂以上のことしてんじゃないのか…?
俺がそう思うのは、当然のことだった。それ程までに兵助は、アキを甘やかすことを自然に行っていたのだから。

朝。
雷蔵と一緒に食堂に向かえば、俺たち以外のメンバーは既に揃っていた。座る場所を確認して、俺たちはおばちゃんから朝食を受け取る。

「おはよう」
「はよ」
「おはよう、二人とも」
「今日は少し遅かったな」
「そうか?いつも通り来たつもりだけど…」

「あ、おはようございます!三郎くんと、雷蔵くん!」

食事の乗ったトレイを持ったまま座る席に移動しようとした俺たちに、元気な声が聞こえてきた。アキだ。

「おはよう、アキちゃん」
「…はよ、アキ」

笑顔で言葉を返した雷蔵を見習って、俺も返事をする。アキは…今日も兵助の膝の上にいた。
ほんと、こいつどこまで甘やかしてんだよ。

「今日も一緒に食ってんのか…」

さっさと朝食を食べようと思いつつ、ボソリと呟けば、兵助からムッとした視線が飛んできた。

「三郎、仕方ないだろ。アキは小さいから食堂の机じゃ食べにくいんだ」
「だとしても、おかずを口に入れるのは自分でもできるだろ?毎度毎度お前が面倒見てやらなくても…」
「だって、そうした方がアキが喜ぶし。俺も、可愛いアキを見てると嬉しいし…」
「あーもういい、わかった、それ以上言うな」

途中からただの惚気になりそうだったので、兵助の言葉を遮って黙らせた。兵助は不機嫌そうに「自分から聞いてきたのに…」なんて文句を言ってるが、聞こえない。そもそも兵助に聞いたのが間違いだったのだ。

「お前はどうなんだ、アキ」
「?」
「兵助に甘やかされて、欝陶しくないか?四六時中くっついてるだろ」
「三郎、俺は別に…」
「兵助は黙ってろ。で?どうなんだ、アキ」

俺のまっすぐな視線を受けて、アキは少し戸惑っているようだった。無理もない。兵助と同じ学年とはいえ、俺たちとはまだまだ関係が浅いからな。『大好きな兵助のお友達』レベルだろう。しかも、年が離れた。

「私は…」

だが意外にも、アキは口を開いた。

「私は、兵助に甘やかしてもらえるのは凄く嬉しい。だって、片時も離れたくないのは私の方だもん」
「アキ…!」
「ね、兵助。兵助はこんな重たい私は嫌?」
「そんなことある訳ない!俺は、アキが大好きだよ!」
「良かった…私も兵助が好き!」

あーもう…

再び二人の世界を作り出してしまった兵助とアキに、俺はため息を吐いて大きくうなだれた。横ではハチがまたしまりのない顔をしている。みっともないから早く直せ。

「おい、三郎…どうしてくれるんだよ。さっき以上に空気が甘ったるいんだが…」
「知るか」

ハチの言葉をばっさりと切り捨て、俺は朝食をかっこんだ。今日は朝から実習なのだ。しっかり体力をつけておかねば。

「アキ、可愛い…次これ食べるだろ?」
「じゃぁお豆腐は、私が兵助に食べさせてあげるね!」
「えへ」

あぁぁぁぁもういい加減にしろよこの馬鹿っプル!!!




八つ当たりのように実習では手加減という言葉を忘れて暴れまくった。見付けた敵チームからは容赦なくハチマキを奪い、素早く森の中に身を潜める。当然、真っ先に兵助のハチマキを奪ってやろうと考えていた俺は、しかし寸でのところでそれをやめた。

「…三郎か?」

近くの茂みに隠れていた俺の気配を、ピタリと当てたのだ。アキがくる前の無駄なテンションは健在という訳か。
さすがに兵助と真正面からやり合うのは効率的ではなかったので、俺は違う相手を求めてそこから離れた。
結果、俺のチームは圧倒的な差で勝利したが、相手チームの生き残りには兵助がいた。得点を稼いだのも、ほぼ兵助らしい。

汗をかいて実習場から学園へと戻ってくれば、昼休みが少し前から始まっていた。俺たちも早く食いに行こーぜ、なんて言ってたら、食堂の入口に桃色の制服が見えた。まさか、と思えばそれは私たちに気付くとこちらに向かって駆けて来て、一目散に兵助に飛び付いた。

「兵助、お帰り!怪我してない?」
「ん。大丈夫だ。それより、待っててくれたのか?」
「だって、兵助がいない食事なんて、つまんないんだもん」

アキはそう言って顔を赤らめながら、兵助の腕を引っ張った。あーあー、お熱いことで。兵助のやつ顔が緩みきってるぞ。

「そっか、俺も、アキと一緒にする食事の方が、おいしく感じられる」
「兵助…!」
「また膝の上に乗せてやるからな」
「私も、兵助にお豆腐食べさせてあげるね!」
「あぁ」

二人は手を繋いで食堂へと入って行った。その様子を見送って、俺たちも遅れて中に入る。食堂では、仲睦まじく入ってきた二人を見て、他にもげんなりしている奴らがいた。主に、兵助の知り合いだ。
みんな兵助がこんな奴だと思わなかったんだろうな。お気の毒に。だが、俺たちなんか四六時中この有様を目の当たりにしているんだぞ?こっちの方が泣きたい!

「ハチ、兵助の前にはお前が座れよ」
「えぇ!?何で俺なんだよ!」
「うるさい、さっさと座れ!」

結局、この馬鹿っプルを止める術などないのだ。



※※※※※
続きました
二人とも空気読めてなさすぎ(笑)
次はハチ視点かな?


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