その11


網の上に並べられた肉達が、じゅうじゅうと音を立てている。もくもくと立ち上がる煙の向こうでは、最強の男が満面の笑みを浮かべている。

「今日は僕の奢りだから好きなの食べなよ」

ニコニコ、ニコニコ。なんならニコちゃんマークが周りに散っている気がしてくるぐらいだ。あまりの気味の悪さに七海は肩をふるわせた。そんな七海を他所に、五条の隣に座る名前は肉に夢中らしい。どんどんと腹の中へと収めている。

「こうして名前と仲直りできたのも七海のおかげだよ、ありがとう!」

なんだって??七海は思わず、そう口に出してしまうところだった。この男が素直に礼を述べるなど…明日は槍が降るかもしれない。「七海全然食べてなくない?ほら、これとかもういい感じだよ」しかも自分のために肉まで焼き始めた、本当に明日は槍が降るのか。いや、もしかしたらこの人は五条悟では無いのかもしれない。自ら肉を焼いている五条の姿を見ながら七海はそう思った。

「お前、今超失礼な事考えてるだろ」
「…いえ、そんな事ありませんよ」

…目の前の男は五条悟で間違いない。何故か安堵した七海は、網の手前にいる肉達を回収する。もう変に色々と勘繰るのは辞めにして、純粋に肉の味を楽しもうと決めた。





「名前ってば涙目でさあ、超可愛いの!」

七海はげんなりとしていた。さっきまで美味いと感じていた肉も、なんだか味がよく分からない。そして思う、何故自分はこんな話を聞かされているのか?誰が好きで他人の夜の話なんて聞かなくてはならないのだろうか。七海はシラフでべらべらと語る五条の隣へと視線を向けた。相変わらず名前は肉に夢中のようで、じっと網の上で音をあげている肉を見つめている。

いや、あなたの話なんですが??あなたのあられもない話されてるんですよ??

きっと今から参加していたら五条の口からべらべらと出てくる話の内容が、隣で肉に舌鼓をうっている男の話だとは誰も思わないだろう。挙げ句の果てに「名前で抜いたら殺すから」と言ってくるので、じゃあ話すなよと七海は心の中で叫んだ。そして今すぐにこの場から離脱したい思いでいっぱいである。今なら任務をぶち込まれてもいい、むしろぶち込んで欲しいとさえ思った。うんともすんとも言わない携帯が今は恨めしい。

「…ねむい」

いきなりそう言い出した名前の目は、常時の半分しか開いていない。「え、名前お眠なの?」「…も、むり…ねむ…」すやぁ。五条の肩に頭を預け名前は眠りについたらしい。

「そういう事だから、今日はお開き!帰っていいよ」

最初から最後までこの男のペースに振り回されているような気もしなくはないが、解放されるのは願ったり叶ったりだ。七海は喜んで(勿論顔には出さないが)「お先に失礼します」と席を立つ。この後一人ゆっくり飲み直す、そう決めた。





銀座あたりの高級な店を所望する。





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