その9


任務で疲弊した体を引きずって自室の前までやってきた伏黒は、小さくため息をついた。

「…こんなとこで何してるんすか名前さん」

自室の扉の前で三角に縮こまってる名前がいたのだ。その光景は、さながら捨て猫のようにも見えた。ゆっくりと伏黒の方へ顔を向けた名前はいつも通り淡々と言う。

「一晩泊めて欲しい」
「え、」





伏黒は「どうぞ」と名前を部屋へ招き入れる。弱っている様子の名前を放置しておく事など出来なかったし、部屋の扉の真ん前を陣取られていたので、招き入れる以外に自分が部屋へと入れる術がなかった。

「俺、床で寝るんで、名前さんベッド使ってください」
「恵の部屋だから俺が床で寝るよ。押しかけたの俺だし」
「いや、でも」

このままでは埒が明かない。伏黒の選択肢にはあと一つ、一緒にベッドで寝る、という方法もあったが如何せん相手は名前だ。というより、名前の事を溺愛しているあの男がネックなのだ。そういえばあの人は何をしているんだ?今晩は任務が無いと言っていたはずだし、名前が部屋に居ないとなれば、どんな手を使ってでも見つけ出して連れ帰る人間だ。伏黒は疑問に思った。

「喧嘩でもしたんですか?」

ベッドの端に座る名前を見下ろしながら伏黒が問うと、静かに金髪が揺れた。

「…悟はもう、俺の事なんて好きじゃないよ」

名前のその言葉が合図かのようにポツリ、ポツリと部屋の窓ガラスを雨粒が叩き始めた。「…きっともう、…どうでもいいんだよ…おれなんて」そう言って名前は笑っていた。ああ、この人は。
次の瞬間、気づけば伏黒は名前をベッドへと押し付けていた。「…めぐ、み…?」不安そうに真っ赤な瞳がゆらゆらとしている。

「好きです、名前さん」

名前の細い肩を掴む手に、ぐっ、と力が入った。いつから好きだったのかはわからない。幼少期、五条が名前を連れてきたあの時からだったかもしれないし、もう少し大人になってからかもしれない。けれど、その想いはずっと一人で抱えていた。自分だけが知っていればいいと。何処と無く牽制されていたから、五条には気づかれていかもしれないけれども。

「ずっと、好きなんだよ…」

伏黒はそのまま名前の首筋へと顔を埋めた。





昨夜の雨が嘘のように、窓の外には快晴が広がっていた。伏黒はゆっくりと横で丸まっている名前へ視線を向けた。やってしまったという罪悪感と、ずっと好きだった名前と一つになれたという幸福感が伏黒の中をぐるぐると渦巻く。すやすやと気持ちよさそうに寝ている名前の涙の跡をなぞった。

「……ん、…さと、る…」

小さく呟かれた言葉が伏黒へと突き刺さる。わかりきっていた事ではあったのに、少しだけ期待をしていた自分を鼻で笑うしかできなかった。

「…狡い人ですね」

自分の手に擦り寄ってくる名前の姿が憎らしくも愛おしい。きっとこの人は、自分のものにはならない。そんなことは知っている。伏黒はくしゃりと自分の髪を掴んだ。





定期的にやってくる口調迷子のターン。エロ書けないよぉ。頑張れ伏黒くぅん。


prev- return -next



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -