嫌い、嫌い、大好き6
2013/07/16 05:49
秘密を告げるように臨也が囁く。
静雄はつままれた耳朶が赤く染まるのを感じた。
「シズちゃん自身が読ませようと思ってるから読めるんだよ」
「…………」
「読んでほしいと思ってるだろ?」
「…………」
――見透かされたくない? 知らないでほしい? ……そんなの嘘だろう?
言葉にならない囁きが聞こえるようだった。
(ちくしょう)
だから嫌なのだ。闇雲に腹が立つのは明快に説明できない原因のせいでもある。
彼の言うとおり見透かされたくないと思う反面、知ってほしいと思っている自分がいる。
元より静雄は口下手で心情を語るなど苦手でしかない。誤解を招くこともしょっちゅうで、そんな自身に嫌気がさしていた。
けれど、自分ばかりがなぜ、とも思う。
見透かされて笑われているのでは、そのうち愛想を尽かされるのでは。あるいはそういう見苦しい自分の一面に、彼が嫌気を覚えるのでは。
そういった不安が膨らんで、そのうち自分ではどうしようもなくなる。
一度平静を失うともう駄目だ。あとは悪循環でしかない。
現に今も、ひたすら心ない言葉ばかりが口を突く。
「……おまえなんか大っ嫌いだ」
「ははっ」
静雄の言葉に対し、臨也は明るい笑いを洩らして悪戯げな目を向けてくる。
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