あの人は、大きい。背も、器も。完璧という言葉は、あの人にぴったりだと思う。

私の目の前でにっこりと胡散臭い笑みを浮かべているのは直属の上司で。私は重要書類に珈琲をぶちまけてしまったお叱りを受けていた。彼はあまり感情を表にだすことはなくて、色々なことを溜め込んで、一人で解決している。年齢だって10も違うし、彼は色々な経験をしてきたのも分かる。そんな彼に、私はもう随分と前から恋をしていた。

恋、だなんてそんな可愛らしい言い方をするのもなんだか気持ち悪い気もするけれど、彼はとても優しい人なのだと、私は分かっている。第三師団の皆も、厳しいけれどちゃんと自分達のことを考えてくれていると分かっている筈だ。


「私は珈琲を頼んだ覚えはないのですが」
『…お疲れだろうと、思いまして』

「そんな気をつかうくらいなら、譜術の練習でもしていなさい」


"ただでさえ命中率が低いんですから"と図星を言われて。普段言われてもチクチクと突き刺さる言葉なのに、今日は珈琲事件のことも加えて数倍刺々しい。


『すみません、』
「……まぁ、いいでしょう

また最初からやり直しですから、貴女も残業してもらいますよ」
『えぇ!…今日は、飲み会だったのに…!』
「どの口が言ってるんでしょうね?」

『いひゃいー!』

頬を抓られて引っ張られる。笑顔のままで、だ。鬼畜、ドS、ああもう大佐の意地悪!けれど悪いのは自分、師団長室の自分専用のデスクに座る。どれだけの量の書類を渡されるんだろう、今日は帰れなさそうだなぁなんて考えていたら、渡された書類。数枚。


『え、大佐?』
「…ここのところ残業続きでしょう」
『でもそれは大佐も』
「部下が残業してるんです、上司がしないでどうします」


ほら、こういうところが優しいんだ。大佐にはマルコという副官がいる。私は大佐の秘書的な役割をこなしている。勿論第三師団所属だし普通の書類整理や作成もしてる。ここのところ残業続きで家に帰れていないのは、大佐の部下でさらに私の部下が見事に書類作成やら整理、訂正を間違えてくれたりデータを誤って消したりされて、だ。立て続けにそんなことされると苛めにあってるのではと泣きたくもなるが、天然とお馬鹿で抜けている人達が集まった第三師団ではよくあることだった。(その度大佐が素晴らしい笑顔でお説教という名のお仕置き訓練を実施してるんだけど)


『大佐』
「なんですか」
『大佐ってご結婚なさらないんですか?』

「…手を動かしなさい」
『えへへ、もう終わっちゃいました』
「ではもう帰りなさい」


"上司命令です"と眼鏡を指で押し上げた大佐の前に立ち、大佐が持つペンを奪った。すると眉を寄せて此方を見て、溜息をつく大佐に、にっこりと笑った。



(逆)プロポーズ




(大佐のお嫁さんにしてください!)
(…冗談は頭の悪さだけにしなさい)




20111005

ジェイドと部下(少佐)のお話。
この後二人がどうなったかはご想像にお任せします。いやでもジェイドも満更でもなさそうですとだけ言っておきますね(キリッ)←
最後の()でジェイドが冗談は頭の悪さだけに…と言ってますが、夢主ちゃんは軍学校で次席卒業しております。


ひぐら